最終章「少年とネオラ」
最終章です。
最初にして最後の妖精ネオラ。
彼女の生きざまを。
是非、見てやってください。
最終章「少年とネオラ」
「ネオラさん。」
「んー少年、お帰りなさい。」
だだっ広い草原に寝転ぶ女性に、少年は声をかけた。
シュランツが記憶へと戻り、3日。
妖精はネオラのみとなった。
「早く隣においでよ。」
「はい。」
片手に持った袋をガサゴソと鳴らしながら、少年はネオラの隣に座った。
「今日は、これで。」
少年が取り出したのは、スナック菓子だった。
「じゃがチップスだねー、うん、ナイスチョイス!」
「どうも。」
ネオラは受け取ると、じゃがチップスの袋を開けた。
手を突っ込み、1枚を口に入れた。
「……うーん……安定の美味しさ……。」
「あはは、そうですね。」
少年も1枚口に入れた。
……うん、美味しい。
「今日は……。」
と、ネオラは唐突にそう言った。そして続ける。
「キャッチボールがしたいな。」
「キャッチボールですか?」
「そう。道具はエンジェルが買いに行ってるから、もうすぐ出来るよー。」
「……。」
買わせているのか。
「そ、そうですか……。でも、これで良かったんですか?」
「何が?」
「こんな風に駄弁っているだけで。ミュゼットさんも、シュランツさんも、やりたいことをやった感じでしたけど。」
「これがよきかな。」
「……は、はあ……。」
「……あっ。あと、5時間くらいかなぁ。」
「……そうですか。」
シュランツが消えたあの日、シュランツの言葉で気付いたのだが、どうやら妖精達はタイムリミットが感覚的に分かるらしい。
少年はネオラに、定期的に報告させることにした。
あとどのくらい一緒に居られるのかを。
「……少年よー。」
「はい。」
「ずっと訊いてみたかったんだけどさ。」
「はい。」
「楽しかった?」
「はい。」
「はいばっかりだね。」
「本当のことですから。」
「そこは、『はい』って言わないと。」
「ああ、すみません。」
苦笑いする少年。
それを見て、ネオラは微笑んだ。
「……少年よー。」
「またですか。何でしょう?」
「後悔してる?」
「いいえ。」
「何か訊いてないけど。」
「何を訊かれても、後悔してることなんて無いです。」
「……そっか。」
「ネオラさんは?後悔してます?」
「してないよ。」
「何か訊いてませんけど。」
「何を訊かれても、後悔してることなんて無いからね。」
「言いますね。」
「言っちゃうよ。」
「ネオラさんですものね。」
「私だからね。」
笑いあう二人。
「何時までも、この時間が続けばいいのに。」
「かぁー!言うね、少年。」
「ありきたりな言葉でも貴女に伝えたいから。」
「……そうさねぇ、私もだよ。でも私にとっては、少年はいつまでも少年だからね。」
彼女は少し寂しげな顔をした。
……その顔を見るのが耐えられなくなって。
少年はネオラを抱きしめた。
「ひゃっ!少年、ちょっ……!」
「…………貴女のそんな顔を見たくない。」
「少年……。ごめんね、もう大丈夫だよ。」
「いいえ。まだ声が震えてます。」
「そ……そんなことないよ……!少年、ねっ!大丈夫……だ……からっ……!」
少年の肩が濡れた。
「うぅっ……ぐずっ……!ごめん、少年……ごめんね……!!嘘ついちゃった……!」
「いいえ。……気持ち、分かります。」
「違うの……もう時間がないんだ。」
「……え……。」
「消えるところを見られたくなかったから……ごめん…………。」
少年はネオラの肩を掴んでから、体を離した。
「どれくらいですか。」
「30分。」
「!!……30分……!?」
「でも!……でもね。」
「はい。」
「手、繋ぐだけでいいから……お願い……。」
恐らく、これが最後のお願いだろう。
少年はネオラの左手を、右手で握った。
「絶対に離しませんから。」
「うん。」
「最後まで、絶対。」
「うん。」
「大好きです。」
少年の瞳から涙がこぼれた。
「私も。」
ネオラの瞳からも、涙がこぼれた。
「優しいネオラさんが大好きです。」
「でもこの優しさは少年の光の部分だよ。」
「もう違います。それは貴女の優しさです。」
「ふふ……そうなんだ。……少年はさっき、何時までもこの時間が続けばいいのにって言ったよね。」
「はい。」
「でもね、永遠じゃないから素晴らしいんだよ。」
「……それでもです。夢みたいに掴めなくても、夢をみたい。」
「…………寝よっか。夢は夢のままで終わらせよう。それがロマンってものさ。」
「……何だか疲れました。」
「おやすみ少年。さよならを言う必要、ないよね。」
「はい。」
少年とネオラの意識が遠のいていく。
それでもその手は、ずっと離さなかった。
・・・・・・・・・
「………………。」
少年が目をさますと、まわりは茜色に染まっていた。
「風邪ひくよ。」
「エンジェル……。」
「…………どうするの、これから。」
「そうだね。……エンジェルはどうしたい?」
「……私に言ってもね。シュウはシュウのやりたいようにすればいいと思うよ。」
「そっか……。」
ゆっくりと立ち上がる少年。
「夢をみようかな。」
そう呟くと、緑色の草原に風が吹いた。
やがて空は黒く染まり、次の日には黄色の光が射し込むのだ。
・・・・・・・・・
エピローグ
大きな街。
大きな屋形。
大きなバイク。
地下深くに造られたその部屋に、ある男が居た。
二十代後半くらいの青年である。
その青年は、とある珠を見つけた。
手のひらサイズの光る珠を見つけた青年はそれを手に取った。
それは、本を生み出す珠。
何かを封印することができ、その代償に、本という形で記憶が落ちるのだ。
青年は願いをこめた。
「封印するのは……これでいっか。」
用意したのは一本の髪の毛。
「お願いします。これを封印してください。」
珠はより一層輝きを増して、青年を包んだ。
「…………。」
記憶が抜け落ちていく。
やがて、5冊の本がその場に転がった。
「…………ううん……。」
暫くして目をさます青年。
「あれ……何で俺、こんなところに……?」
傍らには5冊の本。
青年はそのうちの1冊、緑色の本を手に取った。
「…………ネオラ……?」
本のタイトルだろうか。
するとその本が、淡い光に包まれ……。
「うわっ!?」
「……ふぅ……。」
女性へと姿を変えた。
緑色の髪をした大人っぽい女性である。
「……何やってんのさ。」
「喋った!!」
「喋っ……。当たり前でしょ。」
女性が残りの本を拾い上げる。
「シュランツ、ミュゼット……だけでいいか。とりあえずは。」
「シュランツ……ミュゼット……?うわっ!?」
「お姉様!?」
「ひゃあ!どこッスか、ここ!?」
「ん。見てみ。」
黒髪の少女と、金髪ツインテールの少女に対して話しかける女性。
しかし、指をさしているのは青年にだ。
「…………は?」
「……ま、まさか……。」
「そのまさかだね、ミュゼット。」
「ちょっ、ちょっと待てよお前ら!」
青年は慌てて尋ねる。
「お前ら一体何なんだよ……!俺のこと知ってるのか!?」
青年の問いに答えたのは黒髪の少女だった。
「当たり前でしょ。この記憶通りなら……ね。」
「何言って…………って、俺の記憶……!なんだ、何も思い出せねぇけど!?」
「……面倒ね。お姉様も最初はこうだったの?」
「こうだったよ。さすがにもう少し優しい口調だったけどね。」
「俺を置いて話を進めるなよ!!」
すると金髪ツインテールが、両手を使ってなだめるように、
「まあまあ、落ち着くッスよ。少年。」
と言った。
「誰が少年だ。少なくとも金髪ツインテール。お前より年上だ。」
「貴方は少年よ。」
「おい黒髪!お前だって、俺の方が年上だからな!?」
「いや、少年だよ。」
「緑髪……は、まあ、同じくらいか。でも少年って年齢じゃないけどな。」
「でも私にとっては、少年はいつまでも少年だから。」
「……よく分からないんだが……。」
「当たり前だよ。記憶を失っているんだからね。」
女性の発言に、青年は違和感を覚えた。
「その様子だと……俺の記憶喪失について知ってるようだな。」
「勿論です。じゃあまずは自己紹介からしようか。」
そして、三人の女の子が横1列に並んだ。
「ミュゼットッス!好きなものはラーメンと兎!みんなと動物園でソフトクリームを食べるのが夢ッス!」
「簡単に叶いそうだな。」
「簡単じゃないッスよ!」
「シュランツよ。好きなものはお姉様で、アンタのことは……まあ、嫌いじゃないわ。夢は……今は無いわね。だから夢探しに付き合いなさい。」
「何で俺なんだよ。」
「アンタだからよ!」
「ネオラだよ。私のことは、これから知っていってください。大丈夫。時間はたっぷりあるんだから。」
「丸投げじゃないか?面倒だったのか?」
「それは一緒に過ごせば分かるよ。」
「…………。」
一言ずつケチをつけてやったのだが……ものの見事に返された。
こちらは何も知らないのに、あちらは何かを知っているのが悔しくて……。
「……分かったよ。お前らのこと、少しずつ理解していくよ。……最後に教えてくれ。俺の名前は何なんだ?」
ミュゼット、シュランツ、ネオラの三人は目を合わせた。
まさか、誰も知らないとかないよな。
すると三人は、息を揃えてこう言った。
「「「少年。」」」
……ああ、そうかい。
自分のこと、アンタ達のこと、これから少しずつ知っていくから。
ちゃんと付き合ってくれよ。
完
灰色図書館を読んでいただき大変恐縮です。
いかがでしたか?
灰色図書館は今回で終わります。
ミュゼット、シュランツ、ネオラ、妖精達の名前は音楽のジャンルからとっています。少しもじっていますけど。
暫くはもう一方の「萌葱色の変奏曲」に力を入れていきたいと思います。
……まあ、もう次の新たな小説を書いているのですが。
次のテーマは「野球」!がくるかもしれません。
……それでは。
最後まで付き合ってくださり、本当にありがとうございました。
感想も、もちろんお待ちしておりまーす!
遠慮せず是非ー。
Thank You。




