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第41話:泥臭い反撃と、水脈を開く黒鍋


 カンッ、カンッ!

 村の男たちと自警団の必死の作業により、タツ爺さんが見立てた『石の目』に沿って、等間隔に深く細い穴が穿たれた。

 刀鍛冶の爺さんが貸してくれた短刀の目立てのおかげで、ツルハシの先端は滑ることなく、魔法で硬化した岩盤の奥深くまで確実に届いていた。

「ルミナさん、穴は掘り終わったぞ! 次はどうするんだ!?」

「泥だ。粘り気のある泥と、それから極東特有のあの『太くて硬い緑の筒(竹)』を持ってきてくれ!」

 ゲンの声に応え、私は指示を出した。

 すぐに村人たちが、近くの竹林から切り出した太い竹筒と、川底の粘土質の泥を抱えて走ってくる。

「よし、これでいける。みんな、岩から離れて伏せろ!」

 私は穿たれた一番深い穴にたっぷりと水を注ぎ込んだ。

 そして、その穴に太い竹筒を突き刺し、隙間を粘土質の泥で何重にも塗り固めて完全に密閉する。竹筒の反対側は、『新生・黒片手鍋』の蓋の蒸気穴にぴったりと接続し、ここも泥でガチガチに固めた。

「鍋をボイラー代わりにして、超高温の蒸気を岩の内部に直接送り込む。……耐えてくれよ、竹筒」

 私は鍋の中に少量の水と火吹き茸の粉末を入れ、蓋をロックした。

 準備は完了だ。私は鍋の底の一点に掌を当て、極限まで圧縮した『極炎』の魔法を放った。

 ――ガンッ!!

 バルガスが打ち直した極厚の合金層が、魔法の熱を一切逃さずに内部へ伝播させる。

 異常な密閉性を持った鍋の中で、水は瞬く間に沸騰し、逃げ場を失った超高温の水蒸気が、唯一の出口である竹筒を通って岩盤の奥深くへと激しく噴射された。

 ゴゴゴゴゴ……ッ!!

 足元の地面が、不気味な地鳴りを上げ始めた。

 岩盤の内部で急激に膨張した水蒸気が、逃げ場を求めて岩を内側から圧迫しているのだ。

「ギチッ……メキメキメキッ……!」

 魔法の熱でガラスのように固まっていた岩の表面に、少しずつ亀裂が走り始める。

 タツ爺さんが見立てた『石の目』。自然が作った最も脆い道筋に沿って、内側からの凄まじい圧力が集中していく。

「いけぇぇぇぇっ!!」

 ゲンの叫び声に呼応するように、私はさらに魔法の火力を一段階引き上げた。

 ピーーーッ! と鍋が限界の悲鳴を上げ、竹筒が圧力で弾け飛ぼうとした、まさにその瞬間。

 ドッッッカァァァァァン!!!

 落雷のような轟音と共に、凄まじい水蒸気爆発が起きた。

 巨大な岩盤が、タツ爺さんの引いた線の通りに、見事なまでに真っ二つに裂けたのだ。

 砕け散った岩の破片が宙を舞い、大量の白煙が谷を包み込む。

「……やった、のか?」

 白煙の中で、ゲンがゴクリと生唾を飲み込んだ。

 静まり返った谷間に、チョロチョロと、微かな音が響き始める。

 それは次第に大きくなり、やがて轟々たる水流の音へと変わっていった。

 ザバァァァァァァッ!!

 裂けた岩盤の奥から、堰き止められていた清らかな川の水が一気に噴き出した。

 泥と灰にまみれていた干上がった川床を、澄んだ水が勢いよく洗い流していく。死にかけていた村の動脈が、再び力強く脈打ち始めたのだ。

「水だ……! 水が戻ってきたぞぉぉぉっ!!」

「割れた! 本当にあの馬鹿でかい岩が割れやがった!!」

 村の男たちが、泥だらけの顔をくしゃくしゃにして歓喜の声を上げる。

 湧き出す水に飛び込み、灰にまみれた顔を洗い、互いに抱き合って涙を流している。

「ふん。まあ、儂の目立ての線が完璧じゃったからな」

「馬鹿を言え。儂の『石の目』を読む力がなければ、ただの爆竹で終わっておったわい」

 刀鍛冶の爺さんとタツ爺さんは、互いに憎まれ口を叩きながらも、その顔には職人としての確かな誇りと、安堵の笑みが浮かんでいた。

「……すげえな、ルミナ」

 ゲンが歩み寄り、川の水をすくって喉を潤しながら、深く息を吐いた。

「魔法で吹き飛ばすよりもずっと時間はかかったし、俺たちは泥まみれになった。だが、村は一つも壊れちゃいない。これが、あんたや、あの『鍋の剣士』がやろうとしていたことなんだな」

「ああ」

 私は、役目を終えて熱気を放っている黒い片手鍋の柄をポンと叩いた。

「魔法の暴力で解決する勇者なんざ、この世界にはもう必要ない。泥まみれになっても、知恵と工夫で『明日』を切り拓く。それが一番強いんだ」

 私は大きく背伸びをし、凝り固まった肩を鳴らした。

 水は戻った。だが、村の復興はこれからだ。灰を被った家屋の掃除や、泥に埋もれた畑の手入れなど、やるべきことは山ほどある。

 そして何より、過酷な土木作業を終えた男たちの腹の虫が、一斉に盛大な合唱を始めていた。

「さて、大仕事の後は決まっているな」

 私がニヤリと笑うと、ゲンも楽しげに口角を上げた。

「ああ。極東の『美味い飯』、腹いっぱい食わせてやるよ。俺たちの明日を祝うための、最高の炊き出しだ」

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