迫る
「き、気持ち悪い…」
「だらしがないわね?」
僕は馬車に揺られていた。
そして絶賛酔っていた。
「仕方ないでしょ、僕は屋敷の外に出ることなかったから」
「それでも騎士の家系?」
「乗り物酔いは騎士関係ないでしょ……」
そうしていると無事に王都に着く。
検問は問題なく通れた。
城下町に入ると人がたくさんいた。
「すごい……」
僕は自然と小説を書き始める。
人の声が重なって響いている。
足音が波のように広がっていく。
地面は人の多さで見えない。
どれもインスピレーションが掻き立てられる。
「満足?」
「うん。満足」
そうしているうちにフィール先生の家に着いた。
「ここがそうなの?」
家は見るからに古くて人が住んでいるようには見えない。
「た、たぶん」
何ともあの人らしいな…
ドアをノックする。
「はーい」
中から声がする。
「はいはい…あれ、君はアルじゃないか!」
先生は僕を抱きしめる。
まるで親子の再開みたいだ。
「せ、先生お久しぶりです」
「ああ、久しぶり!今日はどうしたんだい?」
「実は……」
中に入らせてもらい事の顛末を先生に語った。
「そうか……お母さまの言うとおりになったのだね……」
悲しそうに告げる先生。
その中には確かに怒りが含まれている。
「先生は何か母さんから聞かされていたんですよね?」
「うん……もしもの時は生き残った人のことを頼むとね」
「先生、母さんはなんと?」
「私たちは狙われているかもしれない……それが誰なのかはわからない。けど、大きなものが動いている。だから、もしもの時はと言われてたんだ」
「それで、先生は帰ってしまったんですね?」
先生は僕にすべてを教えず帰っていった。
だから不思議だった。
「そうだね。巻き込まないようにとお母さまがね」
「父上は知らなかったのですか?」
「そうみたいだよ。独自に調べていたみたい」
「そうですか……」
「アルは彼らを追っているのかい?」
「はい、必ず僕の手で捕まえます」
「殺すではないのだね?」
「奴らと同じにはなりたくありませんから…」
彼らと同じにはなりたくない。
いや、できないが正解か……
「僕に力があれば……」
「アル、いっただろ?」
「はい、僕には僕の才能がある。ですよね?」
「ああ、君の持っているものなら必ず奴らに近づけるさ」
「はい」
改めて自分の持っているものを確認しながら進むことを決める。
「で、そちらの大人しいお嬢さんが婚約者だね?」
婚約者なのだろうか?
考えてくれるらしいけど……
結局あやふやなままだ。
「まだ婚約者じゃないわ!」
「そ、そうなんだね、君も奴らを追ってるんだね?」
「ええ、私も悔しいもの」
「君がアルを守ってくれるのかい?」
「ええ」
先生は彼女を見て告げる。
「でも、今の君では守り切れないかもしれないよ?」
「分かってるわ!だからあなたに鍛えてほしいの!」
「なぜ僕に?」
「一目でわかったわ。あなた相当強い。私のお父様よりも」
え!?
先生が強いのは分かっていたけど、そこまでなの?
「それで、鍛えてくれるの?」
「うーん。そうだね……」
先生は少し考えて答える。
「いいよ。君を鍛えてあげよう」
「え?いいんですか?」
「まあ、君のお母さまにはいろいろお世話になったからね?」
「じゃあ、これからあなたのこと師匠って呼ぶわ!」
「うん。よろしくリシア」
「でも、王都に毎日来るわけにもいかないしどうしようか?」
「それなら問題ないよ。ここは部屋が多く開いてるから住めばいいよ」
「「え?」」
この古い家で?
大丈夫だろうか……
「ふふ、懸念は分かるけど大丈夫だから安心して」
「わ、わかりました」
「私はお父様に伝えるよう兵に言ってくるわ」
彼女は外に出ていく。
「彼女は本気なんだね?」
「はい、僕も彼女も本気です」
「どうしても?」
「はい」
先生の目は少し悲しそうだった。
「分かったよ。なら僕も手を抜かないよ」
「はい、彼女をお願いします」
「君もだよ」
「え?僕もですか?」
「ああ、君も今回のことでは役に立ったんでしょ?ならそれを生かすためにもっと観察眼を鍛えよう。何かの役に立つかもしれない」
僕が役に立つ。
そうか……
「分かりました!」
そうして先生の元での修業は始まった。
修業開始から数週間。
先生は優しくも厳しく、あのリシアも悲鳴を上げていた。
「リシア、大丈夫?」
「ええ……なんとか…師匠は優しい顔して鬼ね…」
「ふふ、よく言われるよ」
笑っているが、本当に鬼で僕も剣術を習っていた時は地獄だった。
「で、あなたはどうなのよ?」
「うーん。ただ風景を見て小説を書いてるだけなんだよね……」
「それ意味あるの師匠?」
「そうですね。意味はないかもですね」
「どういう意味なの?」
「アルがその答えを持っていますよ」
僕が持っている。
今日書いた小説を見る。
静かな公園には様々な人がおりまるで大きな池に住む魚たちのように様々な暮らしをしている。
泣いている人。
笑っている人。
しかし、どれも悲しいものではなくて嬉しそうだった。
それはあの公園の中にある空気がそうさせていた。
自然があふれ人と自然が共存している。
そんな場所のことを書いた。
「この小説が何かあるんですか?」
「そうだね……ヒントは表裏一体かな?」
「表裏一体?」
この公園は明るい雰囲気しか知らない。
しかし、暗い顔があるのだろうか…
「今君が思っていることは正しいよ」
「つまり、あの公園は隠れたところでは暗い顔があると?」
「そうだね。表向きはいい公園だよ。でもね、少し林に入れば野生の危険な生き物はいるし不審者もよく見かけられる」
「全然感じませんでした……」
「そう、そういうところを君には感じ取ってほしい」
「どうやれば感じ取れますか?」
「観察あるのみだよ。思い出してみて、林とかに人は近づいていたかい?」
昼間の風景を頭で思い出す。
人は道通り歩いており道をそれることはなかった。
それに帯剣している人も多かった。
城下町の人ごみが多いところでは帯剣はしていない人が多かった。
「たしかによく観察すれば違和感に気づけます」
「うん。そういうところをアルは鍛えていこう」
「はい」
僕も役に立てるなら、努力は惜しまない。
「それでね、今日聞いた話なんだけど彼らの一人が動いたよ」
「本当ですか!?」
「ああ、どうもここ最近噂が立っていてね」
「噂ですか?」
「そう、誰かを探しているとね」
「まさかそれって……」
「うん。アルだろうね?」
奴らが僕を探している。
何て好都合だ。
「探す手間が省けるわね?」
「うん」
これで復讐の足がかりがつかめる。
「どうするきだい?」
「僕が囮になります」
「……危険だよ?そいつは毒使いでどこで殺されるか分からないよ?」
「それでもです」
僕は騎士の家の人間だ。
覚悟はできている。
「……分かった」
ペンは迫る。
喉元一角に。
読んでいただき、ありがとうございます。
気に入っていただけたら、ブックマークや評価で応援してもらえると嬉しいです。




