奇跡の代償と、手作りの永遠
玉座の間を満たした奇跡の光が収まると、そこには信じられない光景が広がっていた。
「……うっ……ここは……?」
「わたくし、確かに死んだはずでは……」
致命傷を負っていたシルバ、ルナ、サクラ、アイリスの四人が、無傷の状態で立ち上がったのだ。光の玉が、リンの願いを聞き入れた証だった。
だが、喜ぶ暇はなかった。
「リン!! おい、嘘だろ……目を開けろよ!!」
ジンの悲痛な叫びに、四人が振り返る。
そこには、全身の骨が砕け、劇薬と魔王の一撃でズタボロになったまま、冷たくなりかけているリンの姿があった。光の奇跡は『仲間を助ける』という願いを優先し、術者であるリン自身の命までは救い切れなかったのだ。
「馬鹿な女……! なぜ自分の国を復興させなかった! なぜ自分を犠牲にした!!」
シルバが消え入りそうなリンの体にすがりつき、初めて声を荒げて涙を流す。
サクラもアイリスも、あまりの悲しみに言葉を失い、泣き崩れた。
「こんなの、絶対に認めませんわ……っ!!」
ルナが、涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら叫んだ。
「国よりわたくしたちを選んだ泥棒猫が、勝手に死ぬなんて許しませんわ! ジン、一つだけ……一つだけ彼女を救う手がありますの!」
ルナの言葉に、ジンが顔を上げる。
「わたくしの血を与えて、吸血鬼の眷属にすることですわ! でも……今のリンの弱り切った命では、吸血鬼の呪いに耐えきれずに灰になってしまいます……!」
「……なら、俺の命を全部賭ける!!」
ジンは迷わず、大剣を握っていた右手をリンの胸にかざした。
「今までみたいに戦うためのバフじゃない。俺の生命力、魔力、バッファーとしての能力の『すべて』をリンに注ぎ込む! ルナ、血を貸してくれ!!」
「……ええっ!!」
ルナが自身の腕を深く切り裂き、濃密な吸血鬼の血を滴らせる。
ジンはその血を自らの口に含み、迷うことなくリンの青ざめた唇へと口づけをした。
「んっ……」
ジンの口内から、熱く濃密なルナの血が、口移しでリンの喉の奥へと流し込まれていく。
同時に、ジンが魂を燃やして『極・生命高揚』を発動させた。ジンの髪が白く染まり、その身に宿っていたチート級の能力が、すべてリンを生かすためのエネルギーとして吸い込まれていく。
「戻ってこい、リン!! お前がいない世界なんて、俺たちだって絶対に嫌なんだよ!!」
光と血が交じり合う、美しくも神聖な儀式。
数分の、永遠にも似た沈黙の後。
「……ん、んん……」
リンの傷が急速に塞がり、彼女の細められた瞳が、ゆっくりと開かれた。
その瞳は、ルナと同じ、ルビーのような美しい赤色に輝いていた。
「アイヤ……ジン? みんな、泣いてるアルか……?」
「リンッ!!!」
ジンがリンを強く抱きしめ、シルバたちも一斉に彼女に抱きついた。玉座の間に、安堵と喜びの号泣が響き渡る。
「……もう、バカネ。ワタシの命と引き換えに……ジン、バッファーの力、全部なくなっちゃったアルか?」
「あぁ、ただの一般人になっちまった。おまけに……ルナの血を直接飲んだせいか、なんか牙が生えてきたみたいだ」
ジンが苦笑いして口元を指差すと、ルナがふふっと笑った。
「ジンの生命力とわたくしの血が完全に混ざり合いましたのね。……これでジンも、立派な吸血鬼の仲間入りですわ」
その言葉を聞いて、シルバがスッと立ち上がった。
「……ルナ。私にもその血を寄越せ」
「え?」
「ジンとリンだけが永遠の時を生きるなど、許さない。私はジンの剣だ。彼が永遠を歩むなら、私も永遠に付き合う」
「……拙者もでござる!! 主君を置いていくなど、侍の恥!」
「私もですよ、ジン様。あなたが死なないなら、私も絶対に死にませんからね……ふふっ♡」
サクラとアイリスも、迷いなくルナの前に腕を差し出した。
ジンは呆れたように笑い、そして、とびきり優しい顔で頷いた。
「……バカばっかりだな、俺たちは。ルナ、頼む。どうせなら……全員で、同じ時間を生きよう」
それから、1000年の時が流れた。
かつて暗殺組織や魔王がはびこっていた荒野は浄化され、今や緑豊かで美しい巨大な国へと生まれ変わっていた。
豪華絢爛な宮殿のテラスから、眼下に広がる活気あふれる街並みを見下ろす影が六つ。
「……アイヤ。1000年かかったけど、本当にワタシたちの手で、国を復興させちゃったアルな」
チャイナドレスに身を包んだリンが、美しい街並みを見渡しながら、心底幸せそうに笑う。
奇跡の玉に頼らず、ジンたちは吸血鬼としての永遠の命を使い、途方もない時間をかけて『華の国』をゼロから作り上げたのだ。
「ええ。わたくしたちの永遠の愛の結晶ですわ!」
ルナがジンの右腕に抱きつき、シルバが左腕に寄り添う。
「主君の指導の賜物でござるな!」
「ジン様が治める国……最高に美しいです♡」
サクラとアイリスも、それぞれジンの背中にピタリと張り付いている。
「お前ら、また俺を神輿に上げて……。1000年経っても、相変わらず騒がしい奴らだ」
ジンは苦笑いしながらも、五人の愛する妻たちの頭を順番に優しく撫でた。
バッファーとしての力はもうない。
だけど、彼の手には、奇跡よりも尊い『永遠の絆』がしっかりと握られている。
「さて、視察も終わったし……今日は誰が俺の相手をしてくれるんだ?」
ジンの冗談めかした言葉に、五人の吸血鬼の女王たちが一斉に瞳を赤く輝かせる。
「「「「「もちろん(ですわ/でござる/ネ)、全員で!!」」」」」
夜空に響き渡る賑やかな笑い声。
1000年の時を超えて作られた美しき華の国で、彼らの愛とドタバタな日常は、これからも永遠に続いていくのだった。
―― 完 ――




