絶対予知の司令塔と、不器用な歩み寄り
暗殺組織『黒の月』のアジト深部。
罠を力技で粉砕したジンたちの前に、組織の精鋭である黒装束の暗殺者たちが次々と姿を現した。その数は数十にものぼり、完全に地の利を活かした包囲陣形を敷いている。
「……数が多いな。一気に叩くぞ!」
ジンが剣を構えた、その瞬間。彼の背中にピタリと張り付いていたアイリスが、ジンの耳元で甘く、そしてひどく冷静な声で囁いた。
「ジン様。2秒後、上方から毒矢が3本。さらに右の死角から鎖鎌が来ます。半歩だけ、左へ」
「わかった!」
ジンはアイリスの言葉に一切の疑いを持たず、半歩左へ踏み込みながら剣を一閃。見えないはずの上空からの矢と、死角からの鎖鎌を完璧なタイミングで弾き落とした。
「サンキュ、アイリス。助かるよ」
「あぁ……っ、ジン様のお役に立てるなんて……私、生きててよかった……♡」
頬を染めてうっとりとするアイリス。しかし、彼女の紫色の瞳が他の四人のヒロインたちに向けられた瞬間、その目は再び氷のように冷え切った。
「そこの銀髪の犬。右斜め後ろ、死角から双剣使いが飛び出してきます。頭を下げて、下段から切り払いなさい」
「……チッ、指図されるのは癪だが!」
シルバはアイリスの暴言にムッとしつつも、指示通りに身を沈めて長剣を振り抜く。直後、まるで自ら剣の軌道に飛び込んできたかのように、暗殺者が真っ二つに斬り伏せられた。
「指示の精度だけは、腹が立つほど正確だな」
「当たり前です。ジン様の視界を汚すゴミは、あなたたち肉壁がさっさと片付けてください」
アイリスの予知眼は、数秒先の未来の『正解』を完璧に視ていた。
「金髪のコウモリ。魔力構成が0.5秒遅い。右の柱の裏に爆炎を置きなさい。今すぐ」
「金髪のコウモリ言うなですわ! ……『紅蓮の爆炎陣』!!」
ルナがヤケクソ気味に魔法を放つと、柱の陰で奇襲の準備をしていた敵数名が、まとめて消し炭に変わる。
「チョンマゲ、踏み込みが2センチ甘い。チャイナ、酔ったフリをして左に避けなさい」
「アイヤー!? このシスターちゃん、後ろに目でもついてるアルか!?」
「ムカつくが……完璧な采配でござる!!」
リンが千鳥足で避けた刃を、サクラの神速のオーラ刃が正確にカウンターで切り裂いていく。
アイリスの『絶対予知』による完璧なオーダー。
そこへ、ジンの『極・士気高揚』による規格外のバフが乗り、四人のヒロインたちの圧倒的な戦闘力が爆発する。
「……なんだこいつら!? 動きが完全に読まれているぞ!」
「化け物か……ッ!?」
暗殺組織の精鋭たちは、手も足も出なかった。
死角からの奇襲も、時間差の罠も、すべてアイリスに見透かされ、四人の理不尽な暴力によって粉砕されていく。
ものの数分後。
広間を埋め尽くしていた暗殺者たちは、一人残らず床に倒れ伏していた。
「ふぅ……片付いたな」
ジンが剣を消滅させて息を吐くと、アイリスがすぐにハンカチを取り出し、ジンの額の汗を甲斐甲斐しく拭い始めた。
「ジン様、お疲れ様です。お怪我はありませんか? 汗をかいたお顔も最高に素敵です……♡ これから毎日、私が全身の隅々までお世話しますからね……」
「お、おう……ありがとうな、アイリス。お前の指示のおかげで、誰も怪我せずに済んだよ」
ジンが頭を撫でると、アイリスは「えへへ……」と幸せそうに目を細めた。
その様子を見ていたシルバが、剣を鞘に納めながら、ふっと小さく息を吐いた。
「……性格と口の悪さは最悪だが」
シルバの言葉に、ルナ、サクラ、リンも頷く。
「その『目』は、確かにジンの役に立つようだな。……背中を預ける価値くらいはある」
シルバなりの、最大の譲歩と称賛。
それを聞いたアイリスは、ジンの腕に抱きついたまま、冷たい視線を四人に向けた。
「……ただの肉壁にしては、私のオーダーに1ミリのズレもなく反応しましたね。ジン様の盾としてなら、ギリギリ合格点をあげてもいいですよ」
「ふん、主君のためならば当然でござる!」
「わたくしの魔法のおかげですわ!」
「アイヤ、なんだかんだ良いチームワークだったネ!」
相変わらずの減らず口に、サクラが胸を張り、ルナがふんぞり返り、リンがケラケラと笑う。
言葉はトゲトゲしいが、そこには確かに、実力を認め合った者同士の『不器用な信頼』が芽生え始めていた。
「お前ら、なんだかんだ良いコンビになりそうだな」
ジンが微笑ましく言うと、五人の乙女たちは一斉にジンの方を向き、
「「「「「なりません(ですわ/でござる/ネ)!!」」」」」
と、息ピッタリの綺麗なハモりで即答するのだった。
最凶のサポート役を得て、パーティの連携はかつてない次元へと到達した。
このままの勢いで、一行はいよいよ『黒の月』のボスが待つ、アジトの最深部へと乗り込んでいく――。




