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乙女たちの祝宴と、変わらない居場所

帝都の最高級レストランのVIPルーム。

ルナの圧倒的な財力によって貸し切られたその部屋は、今夜、新しく仲間になったリンの歓迎会も兼ねて、最高潮のどんちゃん騒ぎに包まれていた。


「さあさあ! 今日はワタシの歓迎会と、ジンの健闘を祝って飲むアルよー!」


リンが巨大なジョッキを片手に、ごく自然な動作でジンの膝の上にドカッと座り込んでいる。

「ちょ、リン! 座るのはいいけど密着しすぎだ!」

「アイヤー、照れるネ〜! ジンはワタシの未来の旦那様アルから、これくらい普通ヨロシ! ほら、ワタシからあーんしてあげるネ、お肉食べるアル!」


リンが豊満な胸をジンの腕に押し当てながら肉を口元に運んでくると、いち早く噛み付いたのはルナだった。


「ちょっと泥棒猫! なれなれしくジンの膝に乗らないでくださる!? そこはわたくしの特等席ですわ!」

「ん〜? 金髪のちんちくりんお嬢ちゃんには、この大人の魅力はまだ早いネ〜。ジンだって、ぺったんこよりワタシみたいなダイナマイトボディの方が好きアルよ?」

「ち、ちんちくりん!? ぺったんこ!? わたくしは1800歳ですわよ! その無駄にデカい脂肪、わたくしの魔法で燃やし尽くしてやりますわー!」


激怒して杖を振り回すルナを、リンは千鳥足の酔拳ステップでヒョイヒョイと躱し、今度は隣で猛烈な勢いで白米と肉を食べているサクラに絡みに行く。


「ほらほらサクラ、お肉ばっかりじゃなくてお酒も飲むネ! ほーら、グイッといけアル!」

「むぐっ!? 拙者は武士ゆえ、酒に呑まれるわけには……んぐっ、ぷはーっ! 意外と甘くて美味しいでござるな! 肉にも合う!」

「アイヤー、いい飲みっぷりネ! さすがワタシの妹分アル! ほら、もう一杯!」

「うむ! おかわりを所望する!」


すっかりリンのペースに乗せられ、餌付けされていくサクラ。

そこへ、ため息をつきながらシルバが立ち上がった。


「……まったく、騒がしい新入りだ。ジンから離れろ、リン。お前がくっついているとジンが休まらない」

シルバが保護者(あるいは正妻)のような顔でリンの首根っこを掴もうとするが、リンは軟体動物のようにスルリと抜け出し、逆にシルバの手に高級なワイングラスを押し付けた。


「銀髪のお姉さんも、そんなにツンツンしてちゃダメアルよ〜? もっと素直にジンに『ワタシのことも撫でてほしいネ!』って甘えればいいヨロシ! ほら、飲んで飲んで!」

「なっ……私はツンツンなどしていない! それに私はジンの剣として……っ、こら、勝手に注ぐな! こぼれるだろう!」


いつの間にかシルバの隣に移動し、肩を組んでニヤニヤとからかうリン。

圧倒的なマイペースさと、酔拳の如き掴みどころのなさ。シルバもルナも完全にリンの空気に飲まれ、タジタジになっている。

四人の乙女たちが、それぞれの魅力を全開にしてぶつかり合う祝勝会。ジンは呆れながらも、その騒がしくて温かい光景から、どうしても目を離すことができなかった。


宴もたけなわとなり、テーブルの中央には、これまで集めた三つの『オーブ』が並べられていた。

ゴブリンの森から始まり、地底湖の竜、東の国のオロチ、そして帝都の武闘会。


「……これで、3つアルな」

リンがふざけるのをやめ、少しだけ真面目な顔でオーブを見つめた。

「残る一つは、ワタシを狙ってきた暗殺組織『黒の月』が持ってるはずネ。武闘会の主催者だった幹部が本拠地に逃げ帰ったアルから、間違いないヨロシ」


「暗殺組織の本拠地、か」

シルバが腕を組む。

「罠を張るような卑劣な連中だ。真正面から乗り込めば、激しい戦いになるだろうな」


「望むところでござる! 主君とリン殿を狙う輩など、このサクラが真っ二つにしてくれるわ!」

「ええ。わたくしの魔法で、アジトごと消し炭にしてやりますわ」


サクラとルナも、力強く頷く。

そんな頼もしい彼女たちを見て、リンは「みんな……」と目を潤ませ、嬉しそうに糸目を細めた。


「……ジン」


不意に、シルバが静かな声でジンを呼んだ。

「次のオーブを手に入れれば、ついに4つ揃う。魔王を倒し、どんな願いも叶える奇跡が起きる。……お前は、元の世界に帰るんだな?」


その言葉に、部屋の空気がピンと張り詰めた。

サクラは箸を止め、ルナは俯き、リンも寂しそうに口を引き結んだ。

出会った時からわかっていたこと。彼がこの過酷な旅を続ける最大の理由は、「元の世界への帰還」だったのだから。


しかし。

ジンはテーブルの上のオーブを見つめた後、ゆっくりと顔を上げ、四人の顔を順番に見回した。

命を預けてくれたシルバ。惜しみない愛をくれるルナ。真っ直ぐな忠義を誓ってくれたサクラ。そして、つらい過去を背負いながらも一緒に笑ってくれたリン。


「……俺さ」

ジンは、少し照れくさそうに頭を掻きながら、ハッキリと口を開いた。


「元の世界に帰るの、やめようかなって思ってる」


「「「「……え?」」」」


四人の声が見事にハモる。

ジンは真っ直ぐな瞳で、彼女たちを見つめ返した。


「最初は、右も左もわからない世界で、ただ生き残って帰ることしか考えてなかった。でも……シルバに助けられて、ルナに出会って、サクラと戦って、リンと一緒に笑って。気づいたら、俺にとって一番大事な場所は、元の世界じゃなくて……お前らがいる、ここになってたんだ」


ジンの言葉に、四人の乙女たちは息を呑んだ。


「オーブの奇跡は、リンの国を取り戻すのに使おう。魔王も、暗殺組織も、俺が全部ぶっ飛ばしてやる。……だから、これからも俺の隣で、一緒に生きてくれないか?」


それは、ジンからの何より熱い、実質的な『プロポーズ』だった。


数秒の沈黙。

そして、最初に動いたのはルナだった。


「じ、ジィィィン!!!」

ルナは涙をボロボロとこぼしながら、ジンの胸に勢いよく飛び込んだ。

「もう、一生逃がしませんわ! わたくしの永遠は、全部あなたに捧げますわー!!」


「ル、ルナ殿! 抜け駆けはずるいでござる!」

サクラも顔をゆでダコのように真っ赤にして、ポニーテールをちぎれんばかりに振り回しながらジンの背中に抱きつく。

「しゅ、主君がこの世界に留まる……っ! 侍として、いや、一人の女として、これ以上の誉れはないでござる!! 一生お供いたします!!」


「アイヤー……ジン、本当にお前ってやつは……最高にカッコいい旦那様ネ……っ」

リンも涙ぐみながら、ジンの首に腕を絡ませて、頬にチュッと熱いキスを落とした。


ジンがもみくちゃにされている中。

シルバは一人、その光景を少し離れた席から見つめていた。

彼女のクールな瞳からは、安堵と、隠しきれない喜びの涙が一筋こぼれ落ちている。


「……シルバ?」

ジンが腕の間から声をかけると、シルバはスッと立ち上がり、涙を拭って最高に美しい笑顔を見せた。


「……そうか。なら、私の剣も、私の命も……死ぬまでお前のものだ。覚悟しておけよ、ジン」


四人の最強で最高のヒロインたちからの、重すぎるほどの愛。

「お、おい! ちょっとお前ら、くっつきすぎだって! 苦しい、死ぬ死ぬ!」


ジンの嬉しい悲鳴が、帝都の夜に響き渡る。

もう迷いはない。帰る場所は、彼女たちの隣にある。


新たなる決意を胸に抱き。

最強のバッファーと四人の乙女たちは、最後のオーブを持つ暗殺組織『黒の月』を壊滅させるため、次なる戦いの舞台へと歩みを進めるのだった。

次回更新04/05

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