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仕組まれた武闘会と、最速の酔姫

帝都の中心にそびえ立つ巨大な闘技場。熱狂的な歓声が渦巻く中、武闘会は準決勝を迎えていた。


闘技場の中心で対峙するのは、木剣を構えたジンと、ひょうたん片手にゆらゆらと揺れるリン。

「アイヤー! ジン、魔法も武器召喚も使わないなんて、真面目すぎるアルよ〜!」

「武闘会には武闘会のルールがあるからな。それに、純粋な武術だけでお前とどこまでやれるか、試してみたかったんだ」


試合開始の銅鑼が鳴る。

その瞬間、リンの姿がブレた。

「おっとっと〜!」

千鳥足のように不規則なステップから放たれる、予測不能な酔拳の連撃。ジンはバフによる身体強化なしの状態で、持ち前の動体視力とサクラから教わった剣術を駆使して必死に食らいつく。

しかし、アルコールで痛覚とリミッターを外し、変幻自在の軌道を描くリンのスピードは、純粋な物理戦闘において完全にジンを上回っていた。


「シィッ!」

ジンの渾身のカウンターを、リンはまるで軟体動物のように背中を反らして紙一重で躱し、そのままジンの胸ぐらに掌底を叩き込んだ。


「……ぐはっ!」

「勝者、リン!!」

場外へ吹き飛ばされたジンを見て、リンは「ジン、なかなかいい動きだったネ! 魔法なしでここまでワタシと打ち合えるなんて、やっぱりいい男アルよ!」とウインクを飛ばした。

ジンは痛む胸を押さえながら、「……完敗だ。やっぱりあいつ、素のスピードなら桁違いだな」と苦笑いしてシルバたちの元へ戻った。


そして迎えた決勝戦。

リンの前に立ったのは、前回の覇者である筋骨隆々の大男だった。彼の首には、ジンたちが探している『光るオーブ』が輝いている。


「グガァァァッ!!」

試合開始直前、男は懐から怪しげな黒い薬を取り出して飲み込んだ。途端に男の筋肉が異常に膨張し、皮膚がどす黒く変色していく。暗殺組織から与えられた劇薬による、理性を失ったバケモノ化だった。


「アイヤー、ドーピングは反則ネ!」

理性を失った男が、闘技場を破壊するほどのパワーでリンに襲いかかる。

しかし、リンはふにゃりとした糸目のまま、その豪腕をヒョイヒョイと躱していく。


(……なんだ、全然遅いアルよ。さっきのジンや、あの銀髪の剣士たちの方が、よっぽど鋭くて怖かったネ)

リンは欠伸を噛み殺しながら、男の懐に潜り込むと、パチリと開眼した。

「つまらない試合ネ。これで終わりアル!」

リンの目にも留まらぬ連続蹴りが男の急所に炸裂し、巨漢はあっけなく白目を剥いて轟沈した。


「優勝、リン!!」


歓声が爆発する中、リンは倒れた男の首からオーブを奪い取る。

「やったネ! これで国を取り戻す奇跡に一歩近づいたアル……って、ん?」


その時だった。

ガシャンッ!! と重い金属音が鳴り響き、闘技場の出入り口がすべて分厚い鉄格子で封鎖された。

観客席のVIPルームに座っていた武闘会の主催者が、マイク越しに下劣な笑い声を上げる。


『ククク……見事な戦いだったぞ、華の国の姫君よ! だが、貴様の目的はここで終わりだ! 我々暗殺組織『黒の月』に逆らったこと、後悔しながら死ぬがいい!』


主催者が合図を送ると、闘技場の地下ゲートが開き、中から巨大な体躯と鋭い刃の尾を持つ、凶悪な『魔獣』が咆哮を上げて飛び出してきた。


「アイヤ……最初からワタシをおびき出して殺すための罠だったアルか!」

暗殺組織の罠。観客たちはパニックになり、闘技場は一瞬にして処刑場へと変わった。

リンは舌打ちをして魔獣に飛びかかるが、相手の分厚い装甲に蹴りが弾かれる。スピードはリンが勝っているが、決定的な『火力』が足りない。このまま体力を削られれば、いずれ捕まる。


絶体絶命のピンチ。

魔獣の巨大な尾が、リンの頭上から死の影を落とした、その瞬間――。


「――ルール無用の殺し合いなら、俺たちの出番だな!!」


ドォォォォンッ!!

観客席から闘技場へ、ジン、シルバ、ルナ、サクラの四人が乱入してきた。

ジンは空中に無数の大剣を召喚し、魔獣の尾を弾き飛ばしてリンを救出する。


「ジン!? なんで助けに来たアルか! これはワタシの問題ネ!」

「仲間が罠にハメられてんのに、黙って見てられるかよ! リン、国を取り戻すんだろ!? だったらこんなところで死ぬな!」


ジンは右手を前に突き出し、リンに向けて己の魔力を爆発させた。

「『極・士気高揚』!! 全力で暴れろ、リン!!」


フワリ、と温かい光がリンを包み込んだ瞬間。

リンの瞳が見開かれた。

今まで体験したことのない、規格外の力が全身の細胞を駆け巡る。アルコールで限界まで高めていたはずの自分のスペックが、さらに何十倍にも跳ね上がっていくのがわかった。


「……な、なんだこれ……体が、羽みたいに軽いアル……!!」

「俺たちが援護する! 隙を作ってやるから、お前の最高速をぶち込んでやれ!」

シルバが魔獣の攻撃をカウンターで弾き、ルナが紅蓮の炎で視界を奪い、サクラが鋭い斬撃で装甲に亀裂を入れる。


完璧な連携によって生まれた、ほんの一瞬の隙。


「……最高アルよ、お前ら!!」

リンは完全に開眼し、地を蹴った。

そのスピードは、もはや移動ではなく『瞬間移動』だった。魔獣が反応するより早く、リンは空中に舞い上がり、ジンのバフによって破壊力を増した流星のような飛び蹴りを、魔獣の装甲の亀裂へと突き刺した。


ドゴォォォォォォォォンッ!!!!!


闘技場全体を揺るがす爆発音と共に、魔獣の巨体が真っ二つにへし折られ、絶命した。

罠を張っていた主催者は「ば、馬鹿な……!?」と腰を抜かし、すぐさま部下を連れて逃走を図る。


「逃げられたか……まあいい、これで三つ目だ」

ジンがホッと息を吐いて振り返ると、そこには、戦いの熱で顔を真っ赤に染めたリンが立っていた。

いつも飄々としていた彼女の余裕は、完全に消え去っている。


「ジン」


リンは小走りでジンに駆け寄ると、そのまま彼の首に腕を回し、勢いよく抱きついた。

豊満な胸が押し当てられるのはいつものことだが、今の彼女の心臓の音は、今までで一番激しく鳴り響いていた。


「……ちょっとカッコよすぎるアルよ。ワタシの命も、国の未来も……全部ジンに預けるネ」

リンは上目遣いでジンを見つめ、熱っぽい吐息を漏らした。

「ワタシの『最強の旦那様』は、ジンに決定アル! もう一生、離してやらないネ……!」


顔を真っ赤にして、乙女全開でデレるチャイナ姫。

「ちょ、抜け駆けは許しませんわ!!」と怒るルナたちの声をBGMに、リンの甘いお酒と恋の香りが、ジンの胸を強く締め付けるのだった。

次回更新04/04

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