武闘会開幕!乙女たちのプライドバトル
帝都の中心にそびえ立つ巨大な闘技場。
熱狂的な歓声が渦巻く中、優勝賞品である『光る玉』を手に入れるため、ジンたちは武闘会にエントリーしていた。
大会のルールは厳格だった。「魔法の使用禁止」「武器は運営が用意した木製武器のみ」。
純粋な身体能力と武術だけが試されるこのルールに、真っ先に悲鳴を上げたのはルナだった。
「アイヤー! ジン、あの金髪のお嬢ちゃん、大丈夫アルか?」
観客席からリンが面白そうに見下ろす闘技場のリング。そこには、一回戦の舞台に立つルナと、対戦相手である筋骨隆々の大男の姿があった。
『ガハハ! 小さなお嬢ちゃんが怪我する前に帰んな!』
男が巨大な木槌を振り回して威嚇する。ルナは扇子で顔を隠し、心底嫌そうにため息をついた。
「……最悪ですわ。わたくしの華麗な血の魔法も、大鎌も禁止だなんて」
吸血鬼としての圧倒的な魔力と、血を操る能力。それがルナの強さのすべてだ。純粋な肉弾戦など、燃費の悪い彼女にとってはただの拷問でしかない。
『行くぞォ!』
男がドスドスと地響きを立てて突進してくる。
ルナは「ひぃっ!?」と小さく悲鳴を上げると、戦うそぶりすら見せず、華麗なステップで自ら場外へとピョンッと飛び降りた。
「わ、わたくしギブアップですわ!! あんな汗臭い筋肉だるまとチャンバラして、この美白なお肌に傷でもついたらどう落とし前をつけてくれますの!? ジン! 早くわたくしを日陰に連れて行って、冷たい飲み物を用意しなさいな!!」
『不戦勝で勝者、ガロン!!』
会場がズコーッ!とずっこける中、ルナは一滴の汗もかかずにジンの元へ駆け寄り、堂々と胸を張ってエスコートを要求する。
「お前なぁ……せめて一発くらい打ち合えよ……」
呆れるジンだったが、いかにもお嬢様なルナの潔すぎるギブアップに、怒る気すら起きなかった。
ルナのぽんこつな敗退から数時間後。
準々決勝の舞台で、会場のボルテージは最高潮に達していた。
「……まさか、お前とここで当たるとはな」
「フッ……望むところでござる。これも武士の宿命!」
リングの中央で対峙するのは、長い木剣を静かに下段に構えるシルバと、木刀を正眼に構えて鋭い気を放つサクラ。
互いにジンのバフに頼らずとも、圧倒的な剣術を持つ二人。そして何より、ジンの隣を歩く権利を争う最強のライバル同士だ。
「サクラ。お前のその真っ直ぐすぎる剣、私のカウンターで完璧にへし折ってやる。……勝って、ジンに褒めてもらうのは私だ」
シルバのクールな瞳の奥に、女としての熱い闘志が燃え上がる。
「戯れ言を! リーチの差など、拙者の踏み込みでゼロにしてくれる! 主君の先陣を切るのは、このサクラでござる!!」
『試合、開始ィィッ!!』
銅鑼の音と同時、サクラが爆発的な脚力で地を蹴った。
「シィッ!!」
小柄な体格を活かした、地を這うような超低空からの突進。一瞬でシルバの懐に潜り込み、下から跳ね上げるような神速の連撃を放つ。
ガキィィィンッ!!
しかし、シルバは冷静だった。長身と長いリーチを活かし、最小限の動きでサクラの木刀を弾き、受け流す。無駄のない、完璧な防御。
「速いが……直線的すぎる!」
シルバがサクラの斬撃をいなし、その反動を利用して鋭い突きを放つ。
「甘いでござる!!」
サクラは空中で強引に体を捻り、シルバの突きを木刀の鎬で滑らせて回避。そのまま着地と同時に再び踏み込み、シルバの死角へと回り込む。
銀の軌跡と、黒の疾風。
魔法がないからこそ際立つ、純粋で高次元な剣のぶつかり合い。観客たちは息を呑み、ジンもまた、二人の強さと美しさに釘付けになっていた。
「ハァァァァッ!!」
「シィィィィッ!!」
試合が動いたのは、開始から数分後。互いの体力が限界に近づいた時だった。
サクラがすべての力を両足に込め、勝負を決める最後の一歩を踏み込む。狙うはシルバの胸元への強烈な胴払い。
対するシルバも、サクラが必ず懐に飛び込んでくると読み切り、上段からすべてを断ち切る渾身の振り下ろしを放つ。
互いのプライドと、ジンへの想いを乗せた最後の一撃。
ガァァァァァァァァンッ!!!!
木が砕け散るようなすさまじい破裂音が闘技場に響き渡った。
サクラの木刀がシルバの脇腹を捉え、同時に、シルバの木剣がサクラの肩口にクリーンヒットした。
「「……ッ!!」」
その衝撃で、二人の体は同時に大きく弾き飛ばされ、リングの床に背中から崩れ落ちた。
数秒の静寂。
審判が駆け寄り、カウントを取るが、二人ともピクリとも動かない。気絶しているわけではないが、限界を超えた打ち合いで完全に体力を使い果たし、立ち上がる力が残っていなかったのだ。
『両者ダウン! 立ち上がれず! よってこの勝負……引き分け(相打ち)により、両者敗退ィィッ!!』
会場が割れんばかりの大歓声に包まれる。
「……くっ、不覚でござる……あと一歩、踏み込みが足りなかったか……」
大の字に倒れたまま、サクラが悔しそうに顔を歪める。
「……馬鹿な女。あれ以上踏み込んでいたら、私の剣がお前の頭をカチ割っていたぞ……まったく、無茶苦茶な突進だ」
少し離れた場所で同じように倒れているシルバが、痛む脇腹を押さえながら、ふっと小さく笑みをこぼした。
「だが……悪くない剣だったぞ、サクラ」
「……シルバ殿の受け流しも、見事でござった。次は……絶対に負けぬ」
勝負には負けた。でも、互いの強さを誰よりも認め合い、全力を出し切った清々しさが二人の間にはあった。
「お前ら、無茶しすぎだろ!」
ジンが慌ててリングに駆け上がり、二人に肩を貸す。
「ジン……ごめん。かっこいいところ、見せられなかった」
シルバが申し訳なさそうにジンの肩に寄りかかると、サクラも反対側の肩に頭を預けながら「主君……無念でござる」と悔しがる。
「馬鹿言うな。二人とも、めちゃくちゃカッコよかったぞ。最高の試合だった」
ジンが優しく笑って二人を褒めると、シルバとサクラは顔を真っ赤にして、幸せそうにジンの肩に顔を埋めた。
「ちょっと! わたくしの時はそんなに褒めてくれませんでしたわよ!? ジン、ずるいですわ!」
ルナが客席からプンプンと怒りながら駆け寄ってくる。
(……ジン、いい仲間を持ってるネ)
その様子を控室への通路から見ていたリンは、静かに酒瓢箪をあおりながら、糸目を細めて笑った。
仲間を大切にし、互いを高め合う彼らの絆。
もし自分が彼らと戦うことになれば、魔法なしの純粋な武術だとしても、決して油断はできない。
「さて……次はワタシとジンの準決勝アルな。お酒もいい感じに入ったし、遊んでやるネ!」
かくして、ヒロインたちの熱い前哨戦が終わり。
いよいよ、ジンと『最速の酔姫』リンによる、準決勝の幕が上がるのだった。
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