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神話の咆哮、先陣の生き様

東の国のさらに果て。空は暗雲に覆われ、大地は赤黒く変色した、まさに魔境と呼ぶにふさわしい絶壁の地。

ジンたちがそこに足を踏み入れた瞬間、大地が鳴動した。


『グオォォォオオォォォォオォォンッ!!!!』


鼓膜を劈くような、地底から響くような咆哮。

絶壁の奥、封印の地であった巨大な谷が、音を立てて崩れ去った。

土煙の向こうから現れたのは、想像を絶する、山そのものが動いているかのような、巨大な質量だった。


全身を鋼鉄よりも硬い鱗に覆われた、八つの巨大な頭を持つ大蛇――ヤマタノオロチ。

その全長は数町にも及び、ただ這い動くだけで周囲の地形が粉砕され、絶壁が崩れ落ちていく。八つの頭がそれぞれ、炎、氷、雷、毒といった異なる属性の魔力を撒き散らし、世界を終末の光景へと変えていた。


「なっ……何ですの、あの化け物は……!?」

ルナが扇子を落とし、驚愕に瞳を染める。1800年を生きる彼女ですら、これほどの規模の存在は見たことがなかった。


「……山が、動いている。私たちの攻撃など、蚊に刺された程度も通じないぞ」

シルバが剣を構えながら、冷や汗を流す。かつて戦った紅蓮の竜すら、オロチの前ではトカゲに過ぎなかった。


「……拙者が、先陣を切るでござる!!」


恐怖に竦むルナとシルバを尻目に、サクラが地を蹴った。

『士気高揚』をかけられた彼女のスピードは、常人には視認できないレベルに達している。

しかし、オロチの八つの頭は、それぞれが意志を持ってサクラの動きを捉えていた。


ドォォォォンッ!!


炎の首が放った超巨大な火炎球が、サクラの目の前で爆発した。爆風に吹き飛ばされ、サクラは岩壁に激しく叩きつけられる。


「サクラ!!」


ジンが召喚した鉄の剣を数十本同時に放ち、炎の首を牽制する。しかし、鉄の剣はオロチの鱗に弾かれ、傷一つつけられない。


『グラァァッ!!』


今度は氷の首と雷の首が、同時にジンへと襲いかかってきた。

シルバが前に飛び出し、氷のブレスを長剣で受け流すが、その衝撃に耐えきれず地面を削りながら後退する。雷の首が放った雷撃は、ルナが血の魔法で展開した障壁でも威力を殺しきれず、ルナを背後の岩へと吹き飛ばした。


圧倒的な、力の差。

地形を変えるほどの質量攻撃と、あらゆる属性の魔法が、雨のように四人に降り注ぐ。

今までで一番の強敵。死闘という言葉すら生温い、生存を賭けた絶望的な戦いが始まった。


戦いが始まって数十分。四人は満身創痍だった。

しかし、彼らの目は死んでいなかった。


「……右から二番目、炎の首だ! ジン、バフを!」

シルバが叫び、地を蹴った。ジンの『極・士気高揚』が彼女の全能力を極限まで引き上げる。

シルバは炎の首が放つ火炎を紙一重で躱し、その懐へと潜り込んだ。


「ハァッ!!」


渾身のカウンター。炎の首が噛み付こうとした瞬間、その顎を下から跳ね上げるように長剣で一閃。

オロチの鱗が弾け飛び、一本目の首が、断末魔と共に地面へと崩れ落ちた。


「ふん! 野良犬にしては、やりますわね! ジン、次はわたくしですわ!」

ルナがルビーの瞳を輝かせ、自身の血を魔力へと変換する。

「『紅蓮の爆炎陣』!!」


ルナが放った超広範囲の爆発魔法が、氷の首の動きを完全に封じた。

熱と衝撃で鱗が脆くなった瞬間を狙い、ルナは自身の血で創り出した巨大な鎌を投げつけた。

血の鎌は氷の首の根元を正確に貫き、二本目の首が、氷の破片と共に砕け散った。


「……拙者も、負けてはおられぬ!!」


岩壁から這い出したサクラが、刀を握り直した。

しかし、残る首は六つ。リーチの短さは、これほどの巨体を相手にするには致命的だった。


「サクラ、受け取れぇぇぇッ!!」


ジンが両手を突き出し、サクラに向けてかつてないほど濃密な魔力の渦を放った。

『極・士気高揚』に加え、自身の魔力を直接サクラへと流し込む、命懸けの魔力譲渡。


さらにルナが、自身の血の魔力をサクラの刀へと付与する。

「サクラ! わたくしの魔力、無駄にしたら許しませんわよ!」


「……御意!!」


ジンの莫大な魔力と、ルナの紅蓮の魔力。

二つの最強の魔力が、サクラの愛刀へと注ぎ込まれた。


シュァァァァァァンッ!!!!


サクラが刀を構えた瞬間、その刃から、数百メートルにも及ぶ、まばゆい紅蓮のオーラ刃が噴出した。

規格外の、巨大な刀のオーラ。

サクラが長年コンプレックスに感じていた『リーチの短さ』が、今、ジンのバフとルナの魔力によって、オロチをも凌駕する『最強の武器』へと変わったのだ。


「……拙者の生き様、主君に捧ぐ!!」


サクラが跳躍した。

巨大なオーラ刃を振り上げ、雷、毒、風、三つの属性を持つ首に向けて、一気に振り下ろした。


ドォォォォォォォォォォンッ!!!!!


一閃。

山を切り裂くような轟音と共に、サクラの放った巨大なオーラ刃が、三つの首を根元からまとめて斬り落とした。

オロチの巨体が激しく痙攣し、三つの属性の魔力が暴走して周囲の岩山を粉砕する。


「……やった、でござる……」

サクラが着地し、膝をつく。巨大な魔力を扱った反動で、体は限界だった。


残る首は、二つ。

中央にある、オロチの本体とも言える、最も巨大で邪悪なオーラを放つ首だ。


「……ジン、あれは私が防ぐ!」

シルバが前に出る。

「わたくしが、魔法で動きを止めますわ!」

ルナが魔力を練り上げる。


二人の連携で、オロチの最後の二つの首が、一瞬だけ動きを止めた。


「……主君!!」


サクラがジンを見た。

ジンの目は、真っ直ぐにサクラの目を見ていた。


「サクラ、行くぞ!!」


ジンは右手を突き出し、手元に『刀』を召喚した。今まで使っていた刀とは別格に、さらに洗練され、ジンの成長と共に鋭い輝きを放つ、一振りの刀。

ジンはバフをかけ、自らも最前線へと地を蹴った。


サクラとジン。

主君と、その先陣を切る侍。

二人の心が、戦場で完全に一つに重なった。


「「――ハァァァァァァァッ!!!!」」


二人は同時に、オロチの最後の二つの首へと肉薄した。

サクラの巨大なオーラ刃が左の首を、ジンの放った渾身の刀が一右の首を、正確に捉えた。


ズパァァァァァァァァンッ!!!!


二人の刃が、同時にオロチの最後の二つの首を、鮮やかに切り落とした。


神話級の化け物が、地響きを立てて絶壁の地へと倒れ伏す。

暗雲が晴れ、魔境に、温かな太陽の光が差し込んだ。


「……終わった、でござるな」

「ああ、終わったな……」


刀を消滅させたジンが、限界を迎えて崩れ落ちるサクラを、その広い背中でしっかりと受け止めた。

汗と、血と、そして安堵の匂い。


「……主君。拙者の生き様、見ていただけたでござろうか」

ジンの背中で、サクラが小さな声で呟く。


「ああ。最高に誇り高くて、美しかったぞ。世界最強の侍だ」


ジンの優しい言葉に、サクラは微笑みながら、そっと彼の背中に顔を押し当てた。

その胸の高鳴りは、もう「武者震い」などという言葉では誤魔化せない。

神話の巨獣を倒した主君への、確かな『愛』の鼓動だった。

次回更新03/30

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