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主君への忠義と、三つ巴の宴

ルナの圧倒的な財力により貸し切られた、東の国の高級旅館。

その一番の目玉である、広大な岩造りの露天風呂には、月明かりと湯煙に包まれた三人の乙女たちの姿があった。


「……はぁ、極楽ですわね。長旅の疲れが血の巡りごと浄化されるようですわ」

ルナがふうっと息を吐きながら、一番風呂を満喫している。月明かりに照らされた彼女の肌は、まるでお湯に溶けてしまいそうなほど透き通るような白さだ。


その隣では、シルバが長い銀髪を湯に浸けないよう片手でまとめながら、静かに肩までお湯に浸かっていた。

「ああ。たまにはこういうのも悪くない……サクラ、お前もさっさと入ってきたらどうだ? 湯冷めするぞ」


「う、うむ……」


岩陰から、手ぬぐいで必死に体を隠しながらサクラがそろそろと姿を現す。

彼女の視線は、無意識のうちにシルバとルナの体へと釘付けになっていた。


スレンダーでありながら、女性らしい起伏をしっかりと備えたシルバのモデルのようなプロポーション。

そして、小柄でありながらも、どこか妖艶な丸みを帯びたルナの柔らかな体つき。

それに比べて、自分の体はどうだろうか。


(……見事なまでに、無駄な肉が削ぎ落とされているでござる……)


極限の鍛錬によって引き締められたサクラの体は、腹筋も薄く割れ、一切の無駄な脂肪がない。戦士としては最高峰の肉体美だが、こと「女性としての魅力」という点においては、どうしても二人に引け目を感じてしまっていた。


「……何よサクラ。そんなにわたくしの高貴な肌に見惚れてしまいましたの?」

ルナが意地悪っぽく笑うと、サクラは顔を真っ赤にしてお湯にザブンと飛び込んだ。


「ち、違うでござる! ただ……お主ら、その……女として、見事な発育をしているなと……」

消え入りそうな声で呟くサクラに、シルバは少しだけ目を丸くし、それからふっと優しく微笑んだ。


「お前は自分の体を誇っていい。その引き締まった筋肉も、無駄のない動きのために削ぎ落とされた体躯も……お前が今日まで、命懸けで剣を振るってきた何よりの証だ」

「シルバ殿……」

「ジンだって、お前のその『戦士としての強さと美しさ』を真っ直ぐに評価していただろう?」


ジン。

その名前が出た瞬間、サクラの胸がトクン、と大きく跳ねた。湯気で赤いのか、照れて赤いのか、もはや彼女自身にもわからない。


「しゅ、主君の話をこのような裸の付き合いの場で出すなど、不謹慎でござる!」

慌ててお湯に顔を半分沈めるサクラを見て、ルナがケラケラと笑い声を上げた。


「あらあら、図星ですわね! サクラ、あなた『主君への忠義』とか言い張ってますけど、ジンのこと完全に『男』として意識してますわよね?」

「なっ……!? 滅相もない! あ、あれは純粋な忠義心と、素晴らしき主君に出会えた武者震いゆえの――」


「隠さなくていい。あの男の背中を見れば、惹かれない女はいないからな」


サクラの必死の言い訳を、シルバが静かに、だが確かな熱を帯びた声で遮った。

シルバは自分の胸に手を当て、月を見上げる。


「一匹狼だった私を力ずくで助け出し、それでいて決して無理強いはしなかった。あの気高さと優しさに、私は生涯剣を捧げると決めたんだ」

「わたくしもですわ。ただの非常食だと思っていたのに……身を挺してわたくしを守るあの背中を見た瞬間、1800年の退屈が吹き飛びましたの。ジンは、わたくしが永遠を共に過ごすたった一人の殿方ですわ」


二人のジンへの真っ直ぐな想い。

それを聞いたサクラは、お湯から顔を出し、ギュッと唇を噛み締めた。

自分を女やコンプレックスで判断せず、「最高に誇り高い侍」と認めてくれたジンの言葉が、耳の奥で何度も蘇る。


「……お主ら」

サクラは真剣な眼差しで、シルバとルナを見据えた。

「……負けぬでござるよ。拙者は、主君の道を誰よりも先に切り拓く『先陣』。共に戦場に立つ時間も、主君を想う気持ちも……絶対に、お主らには負けぬ!!」


忠義という名のヴェールを半分脱ぎ捨てた、サクラなりの全力の宣戦布告。

それを受けて、シルバは不敵に笑い、ルナは扇子を開く真似をして優雅に微笑んだ。


「言ったな、新入り。私の隣は譲らんぞ」

「ふふっ、一番ジンに愛されるのはわたくしですわ! この財力と魅力で、骨抜きにして差し上げますから!」


湯煙の向こうで、バチバチと火花を散らす三人の乙女たち。

魔王討伐という過酷な旅の裏側で、最強のバッファーを巡る『正妻戦争』は、裸の付き合いを経てさらに熱く、そして確かな絆へと変わっていくのだった。


「ふふん! どうですのジン、わたくしが用意したこの極上の宿は!」

湯上がりのルナが、ドヤ顔でジンの部屋に乗り込んでくる。金髪のツインテールを下ろし、赤と黒の豪奢な浴衣に身を包んだ彼女は、雪のように白い肌と相まって、まるで童話から抜け出してきた妖魔のお姫様のように可憐で色っぽい。


「あぁ、ルナは和装も似合うな。……って、シルバもか!」

続いて入ってきたシルバを見て、ジンは思わず息を呑んだ。

普段のタイトな軽鎧から一転、涼しげな藍色の浴衣をまとい、美しい銀髪をうなじが見えるようにアップにまとめている。長身でスレンダーなモデル体型が和服の美しいシルエットを際立たせ、クールな大人の魅力が限界突破していた。


「……ジ、ジンが和服が良いと言うから、着てみただけだ。変ではないか……?」

少し頬を染めて上目遣いで聞いてくるシルバ。一匹狼だった頃の冷たさは完全に消え去り、今やジンの前では完全に恋する乙女の顔だ。


「二人とも最高に似合ってるよ。……で、サクラは?」

ジンが部屋を見回すと、障子の外から「ハッ!」と凛々しい声が響いた。


「拙者はここで警護の任に就いておりますゆえ! 主君の寝所を守るのも、先陣たる侍の誉れでござる!」

廊下に正座し、微動だにしないサクラ。

ジンは苦笑いしながら障子を開け、彼女の腕を引いて部屋の中へと引っ張り込んだ。


「今日はお前も休む日! ほら、一緒に飯食うぞ」

「わわっ、主君!? 腕を引かれるなど、恐れ多……っ!」


部屋の明かりに照らされたサクラの姿に、ジンは思わず見とれてしまった。

黒髪のポニーテールが揺れ、シンプルな薄紅色の浴衣が、彼女の極限まで鍛え抜かれた肉体美をこれでもかと強調していた。低身長で細身でありながら、無駄な脂肪が一切ない引き締まった体躯。それでいて、女性特有の柔らかな曲線も密かに持ち合わせている、まさに機能美と可愛らしさの完全な融合だった。


「……サクラ、その浴衣、すごくいいな。お前、ほんとに綺麗だぞ」

「き、きれ……っ!?」

ジンのストレートな褒め言葉に、サクラは顔を真っ赤にしてパニックを起こす。


「お、お戯れを!! 拙者は女としてではなく、一人の武士として主君に……っ! こ、この胸の高鳴りも、決して不純なものではなく武者震いでござる!!」

ブンブンと首を振って全力で否定するサクラだが、その後ろでポニーテールが嬉しそうにパタパタと揺れているのを、ジンも、シルバもルナも見逃さなかった。


豪華な食事が運ばれてくると、サクラのさらなる魅力が爆発した。

「……おかわりを所望する!」

小柄な体からは信じられないほどの猛烈なスピードで、白米と肉を美しく、かつ豪快に平らげていくのだ。

「戦の前に腹を満たし、己の血肉とするのも武士の務め! 主君の盾となるため、拙者はもっと強くなるでござる!」

口の端にご飯粒をつけながら真剣に語るその姿は、小動物のような愛くるしさと、戦士としての頼もしさが同居していて、ジンは思わず微笑ましく頭を撫でてしまった。


「ちょっと! 新入りのくせに、ジンに撫でられてますわよこのチビ侍!」

「……抜け駆けは許さんぞ、サクラ」

ルナがジンの右腕に抱きつき、シルバが左腕をキープして睨みを利かせる。

「ぬ、抜け駆けなどと! 拙者はただ忠義を尽くしているだけでござる!」

顔を真っ赤にして言い返すサクラ。ジンの両脇を巡る三つ巴の正妻戦争が、東の国でも早くも勃発していた。


食後の落ち着いた時間。

ジンは三人を前にして、今の自分たちの現状と目的を改めて説明した。

自分が別の世界から来たこと。元の世界に帰るため、そしてこの世界の脅威を払うために、『オーブ』を集めて魔王を倒そうとしていること。


それを聞いたサクラの顔に、一瞬だけ微かな寂しさがよぎった。

(主君は……いずれ、この世界から去ってしまうお方……)

しかし、彼女はすぐにピシャリと己の頬を叩き、気合いを入れ直した。

(侍が主君の行く道を憂うなど言語道断! 拙者はただ、主君の望みを叶えるためにこの命を燃やすのみ!)


「主君。その『オーブ』とやら……一つ、心当たりがあるでござる」

サクラが真剣な表情で口を開いた。

「この東の国のさらに果て。海に面した絶壁の奥に、魔物すらも恐れて寄り付かない『魔境』がある。そこには、古の伝承に語られる八つの頭を持つ大蛇……『ヤマタノオロチ』が封印されていると聞く」


「ヤマタノオロチ……! いかにも神話級のボスって感じだな」

「ええ。もしそのオーブがこの国にあるとすれば、間違いなくそのオロチの腹の中でござろう」


シルバが腕を組み、ルナが扇子を広げる。

「相手にとって不足はないな。ジンのバフと私の剣があれば、頭が八つあろうとすべて斬り落とすまで」

「ええ! わたくしの魔法で、八つまとめて丸焦げにしてやりますわ!」


二人の頼もしい言葉に、サクラも力強く頷き、ジンの前で深く頭を下げた。


「主君。相手が神話の化け物であろうと、このサクラが必ずや先陣を切り、主君の道を切り拓いてみせましょう! だから……」

サクラは顔を上げ、潤んだ瞳でジンを真っ直ぐに見つめた。

「これからも、拙者に……主君の背中を守らせてくだされ!」


忠義という言葉で必死に隠そうとしているけれど、そこには間違いなく、彼に強く惹かれている一人の女の子としての『純情』が溢れていた。


「ああ、頼りにしてるよ、サクラ。よし、次の目標は決まりだな!」

ジンは立ち上がり、力強く拳を握りしめる。

「行くぞ、魔境! ヤマタノオロチをぶっ倒して、二つ目のオーブを手に入れる!!」


かくして、最強のバッファーと、彼に惚れ込んだ三人の乙女たちの新たな激闘の幕が、静かに上がったのだった。

次回更新03/29

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