↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
38/42

第三十八話 出陣

第三十八話 出陣

 鶏の声がまだ遠い、薄明の刻。

 すずは、長政の腕の中でふっと目を覚ました。

 頬に触れている胸が、温かい。

 長政の呼吸は深く穏やかで、まるで彼の体温に包まれて夜が明けたようだった。

『……殿、まだ寝ておられる』

 腕は強く、けれど優しく、“守る側の男”としての確かな温もりがあった。

 すずはそっと体を動かした――その瞬間。

 長政の腕がさらにきゅっと締まった。

「……すず。起きたのか」

 低い声が耳もとをくすぐる。

 すずの心臓は早鐘のように跳ねた。

「殿……朝ですよ」

 長政はゆっくりと身を起こし、すずの頬に手を添えた。      

 戦支度前の厳しい顔とは違う、昨夜と同じ、深く甘い眼差し。

「この一刻が、惜しい……あと少しだけ、すずの顔を見ていたい」

 すずは胸が痛いほど嬉しくなり、長政の衣をぎゅっと握った。

「……殿。戻ってきてください。必ず」

 長政は静かに頷いた。

「約束する。お前と、市と子供らのいる……小谷へ戻る」

 その言葉は、戦へ向かう武将の誓いであり、ひとりの夫としての想いだった。

 長政はすずの頭を軽く撫でてから立ち上がり、甲冑を着るため部屋を出た。

 すずはその背を見送ったあと、急いで身支度を始めた。

『……殿を、立派にお見送りしないと』

 

◆

 

 出陣の準備が進む武具所には、すでに緊張した空気が漂っていた。

 家臣たちが甲冑を整える中、長政は静かに正座し、胸甲を締めてもらっていた。

 すずがそっと近づくと、長政は振り返る。

「すず。来てくれたか」

 甲冑を纏った長政は、普段より大きく見える。凛々しく、そして頼もしい。

「殿……」

 言葉にしようとした瞬間、長政は手を伸ばし、すずの指先を軽く包んだ。

 鉄の冷たさと、彼の手の温かさが混ざる感触。

「心配するな。激戦は……避けられないが、浅井は浅井として戦う。

 すずのためにも、生きて戻る」

 すずは微笑もうとしたが、胸がつまって上手く笑えなかった。

 その様子を見て、長政はすずの手をそっと離し、最後の具足を締めた。

 

◆

 

 城下への道は、まだ朝霧が残っていて神聖なほど静かだった。

 お市がすずを迎えに来てくれる。

「すず様。殿を見送るのは……覚悟がいるものよ。でも、胸を張って」

 優しく、それでいて気丈な姉のような声。ふたりは並んで行軍の列へと歩いた。すずの胸はずっと強く波打っていた。

『殿……どうか、ご無事で……』

 

◆

 

 長政の隊列が前へ進み、軍旗が朝日に照らされる。

 戦場へ向かう男たちの足音は重く、しかし迷いはない。

 すずはその姿を見つめ、ぎゅっと胸の前で手を握った。

 お市は静かに、しかし凛とした眼差しで長政を見送る。

 長政は馬上からふたりを見つけると、小さく会釈した。 

 その視線には、妻たちへの深い感謝と決意が宿っている。

「行ってまいります。必ず……戻る」

 声は堂々としていた。

 

◆

 

 出陣の行列に戻る直前、長政は馬を降り、すずの前へ一歩だけ近づいた。

 家臣たちは気を利かせて背を向ける。

 長政は声を潜めた。

「すず。昨夜のすずの温もりを……俺は忘れぬ。それが俺の支えとなる」

 すずの瞳が揺れる。

 長政は、すずの両手を包み込んだ。

「生きて帰る。すずの待つ小谷城(ここ)へ」

 その言葉だけを残し、長政は馬に戻り、隊列へと加わった。

 すずは、去っていく背中を祈るように見つめ続けた。

唐突ですが作者何歳だと思いますか??

返答はしませんが、予想立ててみてください。

ヒントはXですねー(アカウント名は同名です)

面白い回答お待ちしてます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。