第三十五話 夫婦の時間
第三十五話 夫婦の時間
甘い言葉を残して一度は立ち去ったはずの長政は――実は、ほんの少しだけ廊下で立ち止まっていた。
『……足が勝手に戻る』
自嘲するように息をつき、ふたたび静かに戸を開ける。
「……殿……?」
驚いたすずが布団の中で振り返る。
その顔を見た瞬間、長政はもう抑えられなかった。
すずの手首をそっとつかみ、たった一歩、彼女を引き寄せる。
その動きは荒々しくない。
けれど――逃がす気など、まるでない。
「……さっきのまま眠れると思ったか?」
低い声。抑え込んだ独占欲の色。
すずは意味がよくわからず、ただ胸が高鳴るばかり。
「今夜は、すずをひとりにしたくない。
理由は……言わずとも分かるだろう」
そう言うと長政は、そっとすずの肩を抱き寄せた。
触れ方は優しいのに、強さがある。
まるで――どこにも行かせたくない。
その想いの重みが、その腕の中にはっきり宿っていた。
すずは顔を赤くしながらも、抵抗はしない。
『……殿が、こんなにも……?』
言葉にできない感情が、胸を満たす。
やがて長政はゆっくりとすずを布団に押し倒す。
すずの目元に剃ったばかりの鬢がかかる。
夜の間長政がすずを離すはずなどなかった。
その後、長政はすずを抱きしめたまま眠りについた。
甘い香りのするすずの髪に顔を寄せ、影のようにそばを離れず。
◆
翌朝、すずはふと目を覚ました。
『……あたたかい……?』
自分の腰に、しっかりとした腕が回されている。
ゆっくり振り向くと、まだ半分眠そうな長政の顔が――ほんの数寸の距離にあった。
「おはよう……すず」
声が低くて甘い。
すずは息を呑んで硬直する。
「殿、あの……いつから……?」
「昨夜からずっとだ」
長政はあっさり言う。
「離すつもりはなかった。
すずを抱いて眠れる夜など、この先どれほどあるか分からない」
すずの胸が一気に熱くなる。
「殿……そんなふうに言われたら……」
長政はすずの額に触れない程度に顔を寄せ、囁くように言った。
「すずが大人になってから……俺は、以前より我慢が利かない」
その言葉には、深い独占の気配があった。
◆
その日の昼前。
城にひとつの報せが届いた。
「織田勢、浅井征伐のため、六月末に出陣」
まだ一ヶ月ある。
だが、その“ひと月”が――すずには急に重く感じられた。
『……戦……また……?』
昨日までの甘さが、胸の奥でぎゅっと縮こまる。
すずは廊下の柱にもたれてそっと息をついた。
『殿は……また、戦へ……。
昨日みたいに抱いてくれる夜も……あと何度あるの……?』
一ヶ月が短く思える。
そんなすずの肩に、ふわりと羽織が掛けられた。
振り返ると、長政がいた。
「すず。そんな顔をするな」
長政は優しく笑った。
けれどその瞳の奥には、昨夜と同じ――いや、それ以上の独占欲が宿っていた。
「俺はまだ、すずを置いて行かない。
ひと月ある。……そのすべてを、お前と過ごす」
その言葉に、すずの胸はあたたかく、そして苦しく締めつけられる。
『私……どうしよう……こんなに、殿を……』
すずはまだ知らない。
この“ひと月”が、後に思い出すたび胸が痛むほど愛しく、そして残酷な時間となることを。
なんか暗殺教室みたいなタイトルだなぁ…笑
まあたまにはリスペクトネタもいいですよね。
どうでもいいですが、暗殺教室では茅野ちゃんが好きです。自分に似てる気がして笑
松井優征先生の他作品だと、歴史つながりで逃げ上手の若君も見てます。
原作ではついに今年の2月に最終回を迎えてしまった……。
アニメは現在(2026年8月時点)2期が放送中ですね!映像も綺麗だし、声優さんも豪華で素敵な作品だなぁとつくづく思います。23:30からなのもリアタイできるので嬉しいポイント。
史料が少ない南北朝時代をあれだけコミカルに、そして忠実に描けるの、本当にすごいですよね。




