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第二十二話 小さな兄姉

 産屋の空気が落ち着きを取り戻した頃。

 外は雪がちらつき、城中はまだ春の気配は薄い。

 すずは、お市の枕元で身の回りの仕事をしていた。

 産後の部屋は穢れを避けつつも清潔を重んじるため、侍女の仕事は多い。

 今回は人手が足りないこともあり、お市がすずにほぼ“直頼み”したのだ。

「すず様……その布を、もうひと束お願いね。」

「はい、お市様。」

 静かに布を整えていたところへ――

 ぱたぱたと小さな足音が廊下に響いた。

「母上! 妹が生まれたって、聞いた!」

 元気な声とともに顔をのぞかせたのは、長政の長男――万福丸(まんぷくまる)。六歳。

 続いて、よちよちと揺れながら部屋に入ってきたのは、お市の長女でこの正月に二歳になったばかりの茶々。

 寒さで鼻を赤くしながら、兄の着物の裾をつまんでいる。

「こらこら、茶々様。走ってはだめですよ。」

「……あい。」

 茶々の小さな返事に、すずは思わず頬をゆるめた。

 

 

 万福丸は、産婆に抱かれた赤子に近づき、瞳を輝かせる。

「……ちいさいなぁ。ぼくよりずっとちいさい。」

 茶々も兄の真似をし、産婆の腕をじっと見つめる。

「あかちゃん、ちっちゃい……」

 産婆は優しく微笑んだ。

「こちらが、殿のお子でございますよ。お声を荒げないようにね。」

 兄妹が並んで赤子を見つめる光景は、雪の舞う静かな朝にふわりと温かさをもたらした。

 布を畳んでいたすずにも、自然と安堵が広がった。

 

 

 そのとき、万福丸がふとすずのほうを向いた。

「あ……すず様。」

「万福丸様、おはようございます。」

 慌てて手を止め、深く頭を下げる。

 万福丸は幼いながらも礼儀をよく心得ている。

 すずが嫁入りした際にも一度挨拶はしたけれど、ゆっくり言葉を交わすのはこれが初めてだった。

「母上のご用を、手伝ってくれているんでしょ?

……ありがとう。母上は、とてもたいせつだから。」

 年齢に似合わぬ真剣なまなざし。

 その言葉に、すずは胸が熱くなった。

「はい……私でよろしければ、いくらでも。」

「母上が喜んでる。ぼくも、うれしい。」

 小さな声で、けれどまっすぐに言った。

 すずは驚きながらも、やわらかく頭を下げた。

「恐れ入ります。」

 茶々が兄の袖を引きながら言う。

「すず、やさしい……」

「茶々様……ありがとうございます。」

すずが微笑むと、茶々も照れたように笑った。

 

 

その様子を横目で見ていたお市は、産後の疲れを押しつつも目を細めた。

『……よかった。

この子たちも、すず様も、こうして自然に言葉を交わせるのなら……きっと、この家はうまく回っていける。』

 お市は静かに息をつき、胸の上で手を組んだ。

「すず様……これからも、皆の力になってあげてください。」

 お市の囁きに、すずは深くうなずいた。

「はい。必ず。」

 産屋には赤子の寝息、茶々の小さな笑い声、そして万福丸の凛とした声が溶け合い、冬の朝を優しく満たしていった。

浅井長政には少なくとも4人(諸説あり)の子供がいました。

1人目は長男・万福丸。

年齢からお市の実子ではないことが分かっています。

恐らく側室の子なのでしょう。

ですが、お市は万福丸を実子のように可愛がったのではないかと思います。

2人目は長女・茶々。

こちらはお市の実子です。

すずが嫁ぐひと月前に生まれたということで本作にも早い段階から登場していました。

のちに淀殿と呼ばれ、天下人・豊臣秀吉の側室となるのですが、本編では触れないこととします。

3人目は次女・初。

こちらもお市の実子で、今回誕生しました。

日本史では姉や妹に隠れて存在が薄い印象ですが、かなりすごいことを成し遂げた人物です。

4人目はのちのち登場しますので、お楽しみに。

他の説を見てみますと、もう数人男児がいたとか、もう2人女児がいたとかなんとか。

ただしその辺は確証がないので、エンタメ程度で知っておくのが良いでしょう。

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