表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
84/85

北畠顕家の運命を生きます

 結局、北畠顕家(きたばたけあきいえ)は7日もヒナギクらと一緒に過ごした。2度ほど、都からの使者が来ていたが、彼は好きな口上を言って、追い払ったのだ。

 でも、それを続けられないことは本人がわかっていた。

 ヒナギクに急に話しかける。長生(ながたか)もツキもいない時間だった。

「ねえ、姉様。顕家が姉様を好きでいるのは、もうやめた方がいいのですか?」

 急な問いにヒナギクが驚く。少し、考える。

「私が顕家を好きだった時間、顕家が私を好きだった時間、それは本当に大事な時間だと思います。子どもだったからだけど、あなたと私しか分かち合えない時間でした」

 堅苦しい宮中の中、ふたりの子どもは怯え、互いに手をとり合っていた。

「だけど、あんな閉じた思いは、ずっと必要ではない気がします。私はあなたを頼りにしていました。あなたもそうでしょう。でも、私の今の頼りは長生様です」

 ヒナギクの言葉をちゃんと受け止めながら、顕家が微笑む。

「そうなんでしょうね。あのころ、私は何もかも怖かった。ただ、ヒナ姉様が笑ってくれれば、それだけがうれしかった。ちゃんとあなたを好きなのではない。私の逃避先」

 そう言った顕家の姿は、背丈が伸びて、少し雄々しく見える。

「私は幼いころの幻を追ってここに来た。出会ったのは、強く大きくなられた姉上と、かなわないほどやさしき人、笑ってしまうけど、とても奥深い犬」

 顕家は笑って、ヒナギクを見る。そこに大人の強さと悲しさをヒナギクは見た。

「私はもう少しだけ、強くなります。長生兄にはかなわないだろうけど、そこらの者には負けん。人の生き方や心も知って、頼られるようにもなる。腹すかしてる人には、鳩くらい射てやる。そんな男になります」

 不思議なのだが、ヒナギクには顕家が長生みたいに見える。そんな人を見ると、彼女は微笑んでしまう。

「うん、みんながお腹いっぱいになるくらい、鳩を射てきて。私はお芋を見つけておくよ」

 顕家はその笑顔に詰まる。やっとわかった。

「それなんだ。顕家がほしかったものは。やっとわかった! 遅かったなあ。いや、長生兄に出会わなければ、こうなれないから、どうにもならないなあ」

 顕家は言いながら、腰に太刀を吊るす。

「ヒナ姉様、私は北畠顕家の運命を生きます。ですが、ヒナ姉様は長生兄との運命を生きなさい。これだけが、小さなころに出会った、つまらない弟の祈りです」


 ヒナギクが居住する地と京までは半日もかからぬ道のりだった。そもそも、足利の勢力圏だから六波羅も気にしない。だが、あきらかに隠岐の天皇方である北畠顕家が、そこからのこのこ帰ってくると、めんどうが起こる。

 山道を通るので不安がある。関長生(せきのながたか)がその護衛を買って出た。人数がいてもよくないので、顕家と長生のふたりだけの道になる。

 たった7日だったが、顕家は剛健になりつつあった。歩きながら言う。

「長生兄、武術の極意とやらは教えていただけませんか?」

 顕家の言うことが分不相応で、長生が厳しく返す。

「10日足らずでそこに至れるならば、世の中は豪傑だらけになるぞ」

 聞いた顕家が失言だったと思い、下を向く。

 バカな子どもだと長生は思う。でも、顕家はずっと生き急いでいる。だから、こんな変な言を吐くのだと考え直す。

「顕家、一朝一夕に得られると思うな。教えてやれるのは、ごく普通。でも、誰も論理としては知っていない。それを知って、続けろ」

 長生が何かをくれる気がして、顕家が大きくうなずく。

「今まで教えたことと、何も変わらん。剣は全力で振って稽古しろ」

 その意味は知った。価値ある助言だが既出だった。顕家は少し失望する。

「ただし、それは3日か2日に一度でいい。毎日、身体が痛くなるほどにやるな。痛くなるほどやったときこそ、肉を食え。翌日はやらず、しっかり寝て、適度に動き、後は書や芸で頭をきたえろ。その間に心と体が育つ。これを繰り返せ。100日で見えて変わる。1000日あれば、豪傑になれる」

 顕家が知らなかった鍛錬法を長生は話してくれた。

「なぜ、毎日ではいかんのです?」

 疑問をそのままにできないのが、顕家の美点であり、欠点にもなる。だが、今は前者。

「なぜかはわからん。じゃが、毎日痛くなるほどに稽古すると、身体が痩せていく。力が出なくなり、身体のキレも悪い。だから、休んで食った。そうした方が強くなった気がした。その流れでやると、常に前よりも強くなれた」

 それは身心をきたえぬいた長生の経験値だった。顕家にも少し合点がいく。

「続けると煮詰まり、見失うことも多いです。少し離れたときに、また、上手になったと感じられる気もします。身心も、同じようにできているのかもしれませんね」

 顕家が何かを得てくれた気がした。長生はそれが彼を救ってくれると信じることにする。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ