食うて強くなれ
夕暮れになる。顕家は勝手に芋を洗い、長生に教わりながら、鳩と兎を肉にした。ヒナギクが笑いながら、鍋や器を準備する。
「ああ、とにかく腹が減りました。早く、おいしい鍋を食べたくて仕方ないのです」
顕家という少年には、自分から目的に向かえる性質があった。責任感も強い。人々を束ね、導くことができるだろう。でも、それは過酷な運命だ。大塔宮と似ている。長生はそんなことを考える。
だから、幼さの残る顕家の頭をグリグリと押えて言う。
「顕家、食う前に清めておこう。戦をやっとるわけでもない。できるときは、サッパリして食うた方がうまいぞ」
どうでもいい、当たり前のこと。でも、顕家には、そういうことをちゃんと教えておいてあげたい。それが彼を少しだけ豊かにする。
「そ、そうですね。ムチャクチャに汗臭いですもん。これはイカンです」
そう言って、笑う顕家。
井戸端で素っ裸になり、ふたりで水をぶっかけ合う。
「ひゃあっ、冷たぁ~。でも、気持ちええっ」
まだまだ子どもなのだ。
「ははは、ゆーっくり、かけたるからな。よう、垢を落とせ」
長生は笑ってやった。
食材は昨日と同じものに兎が加わっただけだが、今日は鍋に味噌などを入れなかった。出汁だけで煮ている。
「今日は醤で食べましょうかね。顕家はノビルをゴリゴリと入れればいいぞ」
言われたままに椀に醤と出汁を入れ、そこにすりつぶしたノビルを放り込む。顕家は兎の肉をそれにつけて口にした。
驚いて、ヒナギクを見た。長生も笑っている。
「うまいやろ? 身体を動かすと、これがガツンと来るんじゃ」
顕家は何も言えない。とにかく、うまい。動き通しで疲れた身体が猛烈に食い物を求めていた。
ガツガツ食う。ものすごい勢いだった。そして、顕家は気づいた。
「あ、ああっ、何とはしたない! 私だけで、半分以上食うてしもうた」
あっけにとられて見ていたヒナギクと長生が、少しの間をおいて大笑いした。
「あ、顕家、いいのよ。あなたは若いの。食べたいだけ、食べなさい」
ヒナが言うと、長生は顕家が罪を感じてはいけないと思い返す。
「ヒナ、ほら、塩漬けの猪肉があったろ? あれも入れてまえ」
ヒナギクはあわてて、館に戻り、それを持ってくる。
「顕家、これもうまいぞ。どんどん食え!」
長生は小刀で肉を大ぶりに断ち、鍋にぶち込む。葱もムチャクチャに放り込む。すぐに、猛烈にうまそうな香りが立ち込める。
「こ、こんなでっかい肉、食うていいんですか?」
顕家は鍋を見入って、唾をのんでいた。
「もう少し待て、そこから先は、待てばやわらかくなるが、食いたければ、お前の歯の強さと相談して食え」
顕家はうなずき、長生が食うていいという顔をしたのと同時に肉を器にとる。かぶりついた。まだ、肉が固い。それでも顕家は噛みちぎる。グチャグチャと食う。
「うまーい! 噛めば噛むほど、味がする。私は獣肉を食うとる。獣に勝ったような気分になる」
顕家が叫ぶように声を出す。
「しっかり身体を動かし、しっかり肉や魚といくらかの菜を食う。陽光を浴びる。そうすれば、身体は頑健に大きくなるものじゃ。今、お前がやるべきはそれじゃ。おぼえとけよ」
長生が理屈を説明する。顕家は肉を噛みながらもうなずく。
「ただし、そんなゴロゴロとした軽く煮ただけの肉なんか、若者か犬しか食べられません。子どもや年寄りが食べられるようにまで、待ってやることを忘れてはいけません」
ヒナギクが釘を刺すと、ゴロゴロとした肉をむさぼっていたツキが顔を上げる。
(す、すみません。つい、肉に目がくらみ……)
犬がしょんぼりしたのを見て、顕家も冷静になる。少し、後悔する。
「私なんかよりも立派な、兄様や姉様と一緒だから、私はこんなのを食わせていただけるんだ。いつもの私なら、相手にやるしかないのか……」
長生は顕家が少し間違っている気がした。だから、正す。
「顕家、食いたければ、獲ってこい。ただし、得た分の半分も口にするな。3羽射て、1を自身の成長と健康のために食え。周囲が多ければ、もっと射てこい」
顕家の顔が変わった。与えられ続ける人生だから、もらえないことを不満にした。自分で与えられる人生ならば、その景色は違ってくる。
「私が、得てくればいいのか!」
言いながらも、顕家はまた食った。
「そうじゃ。そのためには身体をきたえろ。しっかり食え。強くなれ。だから、今日は食うてよろしい!」
長生に言われて、うれしくなった顕家は、さらに食い続けた。




