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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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食うて強くなれ

 夕暮れになる。顕家(あきいえ)は勝手に芋を洗い、長生(ながたか)に教わりながら、鳩と兎を肉にした。ヒナギクが笑いながら、鍋や器を準備する。

「ああ、とにかく腹が減りました。早く、おいしい鍋を食べたくて仕方ないのです」

 顕家という少年には、自分から目的に向かえる性質があった。責任感も強い。人々を束ね、導くことができるだろう。でも、それは過酷な運命だ。大塔宮(おおとうのみや)と似ている。長生はそんなことを考える。

 だから、幼さの残る顕家の頭をグリグリと押えて言う。

「顕家、食う前に清めておこう。戦をやっとるわけでもない。できるときは、サッパリして食うた方がうまいぞ」

 どうでもいい、当たり前のこと。でも、顕家には、そういうことをちゃんと教えておいてあげたい。それが彼を少しだけ豊かにする。

「そ、そうですね。ムチャクチャに汗臭いですもん。これはイカンです」

 そう言って、笑う顕家。

 井戸端で素っ裸になり、ふたりで水をぶっかけ合う。

「ひゃあっ、冷たぁ~。でも、気持ちええっ」

 まだまだ子どもなのだ。

「ははは、ゆーっくり、かけたるからな。よう、垢を落とせ」

 長生は笑ってやった。


 食材は昨日と同じものに兎が加わっただけだが、今日は鍋に味噌などを入れなかった。出汁だけで煮ている。

「今日は(ひしお)で食べましょうかね。顕家はノビルをゴリゴリと入れればいいぞ」

 言われたままに椀に醤と出汁を入れ、そこにすりつぶしたノビルを放り込む。顕家は兎の肉をそれにつけて口にした。

 驚いて、ヒナギクを見た。長生も笑っている。

「うまいやろ? 身体を動かすと、これがガツンと来るんじゃ」

 顕家は何も言えない。とにかく、うまい。動き通しで疲れた身体が猛烈に食い物を求めていた。

 ガツガツ食う。ものすごい勢いだった。そして、顕家は気づいた。

「あ、ああっ、何とはしたない! 私だけで、半分以上食うてしもうた」

 あっけにとられて見ていたヒナギクと長生が、少しの間をおいて大笑いした。

「あ、顕家、いいのよ。あなたは若いの。食べたいだけ、食べなさい」

 ヒナが言うと、長生は顕家が罪を感じてはいけないと思い返す。

「ヒナ、ほら、塩漬けの猪肉があったろ? あれも入れてまえ」

 ヒナギクはあわてて、館に戻り、それを持ってくる。

「顕家、これもうまいぞ。どんどん食え!」

 長生は小刀で肉を大ぶりに断ち、鍋にぶち込む。葱もムチャクチャに放り込む。すぐに、猛烈にうまそうな香りが立ち込める。

「こ、こんなでっかい肉、食うていいんですか?」

 顕家は鍋を見入って、唾をのんでいた。

「もう少し待て、そこから先は、待てばやわらかくなるが、食いたければ、お前の歯の強さと相談して食え」

 顕家はうなずき、長生が食うていいという顔をしたのと同時に肉を器にとる。かぶりついた。まだ、肉が固い。それでも顕家は噛みちぎる。グチャグチャと食う。

「うまーい! 噛めば噛むほど、味がする。私は獣肉を食うとる。獣に勝ったような気分になる」

 顕家が叫ぶように声を出す。

「しっかり身体を動かし、しっかり肉や魚といくらかの菜を食う。陽光を浴びる。そうすれば、身体は頑健に大きくなるものじゃ。今、お前がやるべきはそれじゃ。おぼえとけよ」

 長生が理屈を説明する。顕家は肉を噛みながらもうなずく。

「ただし、そんなゴロゴロとした軽く煮ただけの肉なんか、若者か犬しか食べられません。子どもや年寄りが食べられるようにまで、待ってやることを忘れてはいけません」

 ヒナギクが釘を刺すと、ゴロゴロとした肉をむさぼっていたツキが顔を上げる。

(す、すみません。つい、肉に目がくらみ……)

 犬がしょんぼりしたのを見て、顕家も冷静になる。少し、後悔する。

「私なんかよりも立派な、兄様や姉様と一緒だから、私はこんなのを食わせていただけるんだ。いつもの私なら、相手にやるしかないのか……」

 長生は顕家が少し間違っている気がした。だから、正す。

「顕家、食いたければ、獲ってこい。ただし、得た分の半分も口にするな。3羽射て、1を自身の成長と健康のために食え。周囲が多ければ、もっと射てこい」

 顕家の顔が変わった。与えられ続ける人生だから、もらえないことを不満にした。自分で与えられる人生ならば、その景色は違ってくる。

「私が、得てくればいいのか!」

 言いながらも、顕家はまた食った。

「そうじゃ。そのためには身体をきたえろ。しっかり食え。強くなれ。だから、今日は食うてよろしい!」

 長生に言われて、うれしくなった顕家は、さらに食い続けた。


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