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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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魔王、人に戻る

「ごめん、お願い。これとこれ、用意できますでしょうか?」

 ヒナギクは長い時間でよくわかり合った丹波(たんば)衆に聞いた。

「あの、ヒナ様は、お久しぶりに大事な方々にお会いしたんですよね。ならば、それとそれ以上の物を用意しますよ。いつも、あなたからどれだけの助けをいただいているか、ご存知ですか? そんなものじゃないんです」

 だけど、ヒナギクは譲れない。

「あの人は、贅沢なんかしません。でも、その日を精一杯楽しむことはします。そういう形で、私は過ごしたい」

 相手が笑う。

「いい方ですね。ヒナ様にお似合いだ。だから、ヒナ様をよく知る、私たちに預けてもらえませんか? 悪くはしません。ツキ様にもお腹いっぱいになっていただきます」

 ヒナはそれ以上に言えない。

「ヒナ様はね、私たちの太陽です。でも、ここのところ陰になっておられた。なのに、あのお武家様がいらっしゃると、また日が差します。そういうときは、また、パーっと光ってください。見ている私たちが、うれしいのです」

 少し笑うヒナ。

「ごめんなさい。みなさんに甘えます。大好きな人なんです。死んだと思って、臥せっていました。今日、逢えたのです」

 なぜか、相手が泣く。

「よかったですね。本当によかった。まかせてください。山を寝床に、豊かな愛情を育んだ姫様と、無双の将軍に、私たちらしい、おもてなしをしてみたい」

 ヒナギクは頭を下げた。

「私同様に、あの人を好きになってあげてください。本当に素敵な人なんです」

 ため息と一緒に相手は笑う。

「もう、あなた同様に大好きなんです。私たちにも、やさしき天下の豪勇を少しだけ、見せてくださいな」

 

「わぁ、こりゃあ、うまいぞ。丹波の猪肉はやはり最高じゃ!」

 関長生(せきのながたか)は華やかに喜ぶ。用意した丹波衆らが、誇らしげにうなずく。

「だけど、長生様の鳩も入ってます。一羽目を射るのはわかるのです。でも、あの二羽目はどう射るのです?」

 長生は村落の人々と一緒に鳩も射ていた。夕暮れの遊びだった。だが、2射でふたつを得た。

「当てる、という感覚ではない。当たるところに射ておく気分じゃ。すると、当たっておるものじゃ」

 長生の神技を見ていた若い者らが、想像しながら弓と矢を放つそぶりをした。

「そうじゃ。見たところに射るな。未来をねらう」

 長生が話すのは、武術の極意だった。でも、勘のいい若者らが気づく。それが明日を楽しみにする。

「はじめて聞いた見方です。その思いで、明日はやってみたい」

 長生はニヤニヤする。

「どうせ、当たらん。繰り返せ。バカにされても気にすんな。いつか当たる日が来る。その感覚を忘れるな。かなり、当たるようになる。未来を射られる」

 若者たちが感動した。それができれば、食い物に不自由しなくなる。

 さんざん笑ってから、長生はヒナギクを見た。

「ヒナ、正遠(まさとお)はどうじゃ? おもろい男やろ? 若いが海賊大将じゃ。海のことなら、なんでも知ってるぞ」

 ヒナギクはニッコリ笑う。

「長生、私は正遠殿の虜じゃ。お前が食わしてくれたことないものばかりを聞いたぞ。土佐のカツオが食いたい。じゃが、やはり肥前のイカこそ、知らぬ味覚じゃ」

 ヒナギクは長生といることで元の軽妙な性格を取り戻した。ただ、活発で好奇心旺盛な姫になった。

「ヒナ様って、こんな方なんですね。兄様がお慕いするのもわかる!」

 正遠が楽しそうに言う。ヒナギクは兄という響きに少し驚いた。

「ヒナ、正遠は正成様の一門じゃが、ワシの弟みたいなもんじゃ。紫苑とも仲がいい」

 ヒナギクはわかって、うなずいた。

「そこの支石はの、ワシより齢が上じゃ。でもなあ、やっぱり兄弟みたいな気分。どうするか?」

 ヒナはうれしい。ニコニコする。

「ヒナはひとりでした。長生も紫苑もそうです。でも、家族になろうと決めました。今はさらに支石がいて、正遠がいるんですね。素敵! みんなで、豊かに生きていきたいですね」

 聞いた正遠と支石が、少し崩れた。心地よかったのだろう。

「そうな、このふたりも、ここのみんなも一緒に、うまいもん食って、楽しく生きたいなあ」

 これが、赤坂城落城の瞬間に、強烈な武勇を放った男だった。みんな、興味津々に聞く。魔王の武勇と人間的なやさしさが同居することに驚いていた。



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