表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
64/85

限界、赤坂城

 赤坂城に対する大仏(おさらぎ)金沢(かなざわ)隊の攻撃は正念場を迎えていた。すでに、曲輪(くるわ)にたどり着く外側の塀は大きな被害があったにせよ、落としていたのだ。

「あの土壇にたどり着け! 次から次へと、兵を送り続ければ、城兵は疲弊する」

 指揮する大仏貞直(おさらぎさだなお)は、被害を抑える策を捨てた。ただ、力攻めに攻めさせる。

 金沢貞冬(かなざわさだふゆ)の隊も同じだ。一気に攻めて、土壇に取りつけばいい。ここまで来たのだ。それですべてが変わると猛然と兵を動かした。

「死ねや。死ねえ! 死なば、報奨は思いのままじゃ!」

 ここまでに赤坂城の斜面へ施した、土塁の階段、梯子(はしご)などをたどらせ、片っ端から兵を投入した。

 城攻めの定石上、もう少しなのだ。


「おい、はじめよったぞ。師直は、どうする?」

 高師直(こうのもろなお)はすでに準備をしていた。

「殿、私がほとんどの兵を連れます! 伊賀に動きあり、との報を受けた形にしてくだされ」

 高氏が笑った。

「兵がいなければ、攻められん。伊賀を潰さん程度に利用しろ! ワシは今日、動かん」

 師直が理解の早い主君に満足した。笑って言う。

関長生(せきのながたか)が来るでしょうな」

 高氏も笑う。

「来る! 足利は何があっても触れないからな。わかっとるな! 直義(ただよし)

 高氏の脇で、弟の直義が頭を下げる。

「師直、長生の猛威を避け、伊賀を守る。この背反をお前はできるか?」

 足利直義(あしかがただよし)は家宰である高師直にケンカを売った。ハッキリにらんだ。

「直義様が気になるのは伊賀のサクラ嬢のことか? それは私も同じ。あの娘が死ぬことになれば、私の慟哭は終わらんだろう。関長生とさえ、斬り合う気になる」

 師直の答えが意外で、直義が面食らう。

「直義様、この世で一番死んではイカン人がいる。私の中では、サクラ嬢じゃ。異存はあるか?」

 家の重鎮として、生まれてからずっと、叱られ続けた師直が相手だった。大嫌いな男だ。なのに、守りたい人が一致した。

「師直、サクラを何があっても殺すな! 悲しい目にさえ、合わすな! それができれば、ワシが、兄上を守ってやる」

 師直は笑う。ずっと、関係がうまくいかない弟君だった。それなのに、急に意見が合う。利害が完全一致した。

「師直にとって、サクラとアケボシを守れる力こそが、今、発揮するべきものです」

 直義には、自分で上手にできないことだとわかっていた。だけど、気に食わないが、最善の男を、自分が気に入ってしまった小さな命に向けられる。

「師直、頼む。サクラとアケボシを助けてくれ。あの、関の妹の紫苑もな。この乱が終われば、あれらに会いたい」

 高師直が、生まれてはじめて、まともに相手をしてくれる。

「その仕事。請け負います。なんか、はじめて直義様と意見が一致しましたな」

 直義も小さく笑う。

「そうだな。とにかく、サクラを守ってくれ。私がめずらしく気に入った娘じゃ。頼むから、お願いだから、あの子の未来を閉ざさないで」

 何もかもをぶちまける。

「直義様、そこに異論はありません。それだけのために、同盟しましょう」

 直義も笑う。

「受ける。その代わり、足利の面倒は、ワシが受ける」

 師直と直義は、ふたりで笑った。足利の二枚目、三枚目の思いが一致した。


 強烈な突き上げが赤坂城に迫る。ここまでに築かれた足場に、梯子を設ける形で、幕府勢の総攻撃がはじまった。

「落石、用意!」

 橘正遠(たちばなのまさとお)の声が響いた。だけど、もう落とせる石は小さい。山上に残った石は少なかった。攻城する兵らに与える被害も少ない。

「弓だ! 弓手は前へ。取りつく敵兵を一掃しろ」

 矢の数も減っていた。斉射という形にならない。どんどん、敵兵が来る。正遠が焦る。関長生が後ろで言う。

「ごくろうさん、正遠。ここからは、兵を死なすなよ。次に糞尿ぶっかけたら、そこまでにせい。みんなを山の裏へ逃がせ」

 ここからの策を理解はしていた。あまりにも関長生の豪勇頼みの手だった。正遠は、それに納得していない。いや、怒っていた。

「そうして、俺らが逃げて、宮様や正成様が逃げて、どうなるんです? 関長生がいなくなる世に、何が残るんです?」

 正遠と長生は、仲が良くなりすぎた。互いが必要すぎるようだ。

 関長生が笑う。横顔が不思議なほどに澄んでいた。眼下には無数の兵が群がっている。絶命の音が聞こえてくる。

 長生がさらに表情を崩す。関紫苑と一緒のあの小さな館で見たやわらかな、やさしいだけの顔だった。

「正遠、ワシが死ぬわけなかろう? ワシがみんなの逃げる時間をつくる。ワシも逃げる。大和(やまと)のどこかでそれぞれ再会し、紫苑らと鍋を食う。それだけの予定じゃ」

 正遠はただ首を振る。そんな未来を考えている顔ではない。長生は自身の生命に心を置いていない。ただ、功を成し、妹らの生をつかむつもりだ。圧倒的に怒る。

「お前は、赤坂城の人身御供になるんやな。許さんぞ。死ぬなら、宮か正成か、せめて正季(まさすえ)が死ね。関長生が死ぬことは、この橘正遠が許さん!」

 長生は正遠の言葉に困る。

「正遠、ワシしかできんことをやって、この乱を終わらせる。それで、ヒナも紫苑も幸せになれる。それ以上の無理は言うなよ」

 正遠は絶望しながら、壮絶に考える。

 そして、絞り出した。

「宮様と正成様が逃げたら、すべてに火を放つ! その先はこの私に命を預けい。兄のような人といえど、ここの軍権では私が上、黙って従ってもらう!」

 言い放った正遠に、長生は不思議な顔をして応じた。何かを懇願するようだった。

「お前が、道をくれるのか?」

 正遠は言われて、驚いた。この人にはできることも多いが、できないことも多い。今は、生き残るということが、それだ。ならば、誰かがやってやらねばならない。

「やります。成し遂げます。あなたは私の兄だ。死なんでくれ!」

 長生は笑う。

「弟が信頼できるのは、申し分ないことじゃな」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ