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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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勇者たちの小さな夢

支石(しせき)は、この後はどうするんじゃ?」

 長生(ながたか)が言う。今日、ふたりで楠木党と足利の談合を制したふたりが並んで酒を汲んでいた。互いに大柄で豪勇の匂いしかしない。周囲は恐くて近寄りがたい。

「関東に向かい、石動(いするぎ)様の里へ行きたいのですが、そうもいきません。丹波(たんば)に戻り、ヒナ様のお役に立つつもり」

 支石が応じると、長生がその肩を長い腕で抱く。

「のう、ヒナに文を書きたい。今日はワシの小屋に泊まれよ」

 いい男だと、支石は思う。たぶん、先に関長生(せきのながたか)に会っていれば、この人を主君と仰いだはずだ。でも、支石は石動力(いするぎちから)に先に出会った。あの必死な若者こそを支えたいと思った。

「石動様へ伝えることも聞いておきますが?」

 支石は石動力にも、この長生の何かを伝えてやりたいのだ。

「おお、力にも言うことは多い。あいつはワシが(つぶて)を打ち返して死にかけた。避け方や防御を支石が教えてやってくれ。あれじゃあ、長生きできん。でも、もっと言いたいこともある!」

 支石は興味を感じる。

「なんですか? それは」

 ニヤニヤする長生。

「あいつは女子の扱いが、ワシ以上に、絶望的にヘタじゃ。気に入った女子を見つけたら、大好きじゃ、と言えと伝えるべし!」

 酔ってきた長生が、そう言って支石の肩を叩く。支石は笑えてくる。

「それは大切な教えです。石動様の臣下として、お師匠のお言葉として、必ず伝えます」

 長生はニヤニヤして支石に言う。

「よし、飲みなおそう。そうじゃ、正遠(まさとお)、支石殿をワシの小屋に訪え。ワシはここの珍味をいただいておく。お、正季(まさすえ)殿も来るか?」

 そう言って、うまそうな食い物を適当な器をもらい、適当に盛っていく。

「では、宮様、正成(まさしげ)殿、師直(もろなお)殿、戦陣ゆえ、早めに就寝いたす。御免!」

 そう言って長生は去った。

 酒を口にしていた師直が吹き出す。

「好き勝手ですな。関長生は」

 対面にいる楠木正成が言う。

「ああいう男じゃ。ホンマは大将軍になれる。正季も正遠も持っていかれたぞ。ワシは丸裸じゃ」

 言われて師直が気づく。今なら、正成を殺せる。殺して、何が起こるかを瞬時に考えてみる。

「おい、師直。お前は今、ワシを殺す値打ちを考えたやろ」

 見抜く正成に笑う師直。

「値打ちがあればやったでしょうな。やらないというのは、そういうことです」

 正成も不敵に笑う。

「そういうことをわかりながら、酔っぱらっとるのが、関長生じゃ」

 大塔宮(おおとうのみや)もずっと機嫌がいい。

「なんかな、あの長生や紫苑(しおん)、妹のヒナギクらがいるところに、ずっといたいと夢見るんじゃ。しょうもない戦なんかやめて、集落のみんなとこうして鍋食って生きていたい。正成も師直も、ワシと同じように紫苑に怒られながら、芋を掘るんじゃ」

 正成と師直が大笑いする。

「あの美しい娘に怒られるのは、ちょっとした褒美じゃな」

「芋掘ってほめてもらえたら、もう、その日は吉日じゃ」

 月がキレイで、酒がただうまかった。時代は変わるのだろうと、3人は思う。


 高師直(こうのもろなお)が陣に戻ってきた。だが、指揮する軍勢をそのまま吸収すると、足利勢の兵力が増えすぎる。赤坂城攻めの正面に立つのは避けたかった。

直義(ただよし)、師直に代わって、後方かく乱の軍を率いろ。ただし、何があっても戦うな。伊賀の近くをうろつき、できれば、服部右衛門(はっとりうえもん)という者に会っておけ」

 兄である足利高氏の言葉に直義は黙ってうなずく。これだけまとまった軍を任されるのははじめてだった。

「戦での手柄なんか、どうでもいいのじゃ。お前も足利の先、いや、天下の先を考えてみい。そのために人に会え」

 鎌倉と足利本貫(ほんがん)の行き来が多かった直義だった。上方に来ることさえめずらしかった。さらに兄は何かを経験させようとしてくれている。

「ありがとうございます。経験もなく、不安なのですが、やってみます」

 直義は正直に兄に言う。神経質な自分に比べ、鷹揚で立派に見える人だった。だが、それはちょうどいい、いい加減さにも見える。少しうらやましくも感じていた。

「堅苦しく考えるな。辛気臭い顔をせず、なるべく笑い、相手の信を得よ」

 もう一度、頭を下げて直義は兄の前を去った。


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