表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
61/85

足利の策

 赤坂城に丹波(たんば)のヒナギクの使いとして、支石(しせき)がやってくる。彼は、おかしな人物を伴っていた。足利家の家宰(かさい)高師直(こうのもろなお)だ。

「師直殿、なんでここにおる? 足利勢は、あそこで城を囲んどるぞ」

 久しぶりに会ったにもかかわらず、関長生(せきのながたか)は師直をとっつかまえて、陰に連れ込む。

「長生殿、問題ないぞ。ヒナ様と一緒に、殿は赤松則村(あかまつのりむら)に会った。ワシはそのつなぎも兼ねて、伊賀で服部(はっとり)紫苑(しおん)殿に会い、楠木殿にも会いに来た」

 用意周到な師直の動きと、そこにヒナと紫苑らが絡んでいることに長生が驚く。

「長生殿が思う以上に、あなた方はこの乱の中心におるぞ」

 言われた長生は、ヒナと紫苑の立派さを感じるが、同時に危険も嗅ぎとる。

「師直殿、ヒナをねらうヤツはおらんか? 紫苑は危なっかしいことに首を突っ込んどらんか?」

 必死に聞く長生は武将失格だと思う。どちらかの身柄を抑え、関長生を好きに使ってやろうかと師直が一瞬考える。

 でも、そこにサクラの声がよみがえる。

(師直様、ありがとう)

 一瞬で自分はバカだと思い知る。ヒナギクや紫苑を自分が捕らえられるだろうか? それでサクラが泣いてしまったら?

 そんなことは、何があってもしてはイカン! するヤツをぶち殺したい。

「ああ、ワシは心が歪んでおる。し、死にたい!」

 師直は急に悔恨する。長生は変な顔になって見つめている。

「どうした? 師直殿」

 ポカンと師直を見る。師直は気づく。

(ああ、こいつじゃ。こいつがクソ豪傑のくせに、なんかええ男やから、姫君たちがあんなに美しいんじゃ。こいつを味方にしないと……)

 師直が思考の深みにハマっていると、大きくはないが強い声が聞こえる。

「足利殿の懐刀が来たか。高師直よ、初に目にかかる。楠木兵衛(くすのきひょうえ)じゃ」

「天下の足利の家宰は有能で飾らぬと聞いた。腹蔵なく、この大塔宮(おおとうのみや)と語れ」

 師直は混乱をひと呼吸で鎮め、ゆっくりと顔を上げた。


 ここに高師直を伴った支石は当然かもしれないが、その横には関長生が座ってくれた。両者とも、この状況で後ろから斬る人間ではない。護衛の意味を殺気の方向で示す手練れだった。おかげで師直は強力な武勇を左右に置く形で、大塔宮、楠木正成と対面できた。

 異様な安心感だった。関羽(かんう)張飛(ちょうひ)を従える劉玄徳(りゅうげんとく)の気分がわかる。

「高師直、天下の豪剣、関羽を従えた気分はどうじゃ?」

 大塔宮が聞いてくる。師直は平伏した。

「従えた気などありません。でも、安心感は比類ありませぬ」

 次に正成が言う。

「なんで、お前がその関羽の庇護を受ける?」

 負けているわけにはいかない師直が返す。

「関羽のご主君はわが足利の領地で保護しておりますから、当然の形でしょう」

 返した師直に、その関羽からの殺気が飛んだ。

(調子に乗るな。ヒナギクを人質とすれば、誰であろうと両断する)

 長生の殺気は師直だけでなく、宮や正成にも向いていた。さらに、横の支石も長生の道を切り開くという顔をする。受けた側が同時に怯んだ。

「ヒナ様を取り引きに持ち出すと、この場で死ぬようじゃ」

 正成が長生に降参し、人質抜きのやりとりをするしかなくなる。宮と師直もうなずく。互いの脅しが消え、利益を語り合う時間になった。


「足利に天を回す気があるのは理解した。ワシらもいるので、六波羅は落とせる。じゃが、鎌倉はどうする?」

 宮と正成にはその懸念があった。京を制圧しても、鎌倉が残れば、いずれ関東以北の圧倒的な軍事力で京は陥落する。河内からは遠すぎる地の制御が、楠木党の中からは見えない。

 師直がヒザを進めて、低く応じる。

「殿は関東の韓信(かんしん)を使うでしょう」

 正成が何かに納得した。

「小太郎か、あれならできるかもな。ただ、あれでは人は集まらんぞ」

 その懸念を掃う秘策も足利にはあった。

千寿王(せんじゅおう)を預けます。東も西も、足利が人集めの役に立つ所存です」

 師直は足利高氏の子を使うと言う。そこまで聞いて、正成が鋭い目をして口をゆがめる。笑ったのだった。

「それなら、目はある。さらにもう一枚、策を施そう。後で細かく話すぞ」

 正成は低く小さな声で師直に言う。師直も頭を下げた。

「よし、面倒な話は終わった。どうせ攻め手も今日は動かん。酒を持ってこい。飲むぞ!」

 大塔宮の大きな声が響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ