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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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宮様と長生様

笠置(かさぎ)が陥ちたぞ」

 赤坂城で楠木正成(くすのきまさしげ)が主だった者らに告げる。どちらにしても、ムリな話だった。天皇が鮮明にした反幕の姿勢に、畿内周辺の小さな武装勢力が集まっただけだ。幕府が関東の兵を動かせば、その兵力差は歴然だった。

 完全包囲され、兵糧が尽きたところで公家らが騒ぎ出す。承久の乱の例を鑑みれば、帝と皇子らは配流。実戦を担った武将らが処刑という流れになる。公家らが、自分たちの生き残る間合いを探った。

大塔宮(おおとうのみや)は逃げた。ここにお迎えする。ここで勝つ味を知ってもらう。そこから先は、何度も話した通りに進める」

 正成が言うと、長生(ながたか)らはただ頭を下げる。やるべきことをやるだけだった。

正遠(まさとお)、長生、準備は?」

 正遠だと、言いたいことが言えないだろうと思った長生が言う。

「だいたいはできてる。これ以上は大将の資質の問題じゃ」

 正成が顔を軽くゆがめて長生をにらむ。正季(まさすえ)も正遠も、諸将も、兵士も、これができるのが、豪勇、関長生(せきのながたか)だと理解した。


 数日後、大塔宮の一行が赤坂城に至る。夜陰に紛れて進み、昼も敵から逃げ回ったのであろう。宮も部下もおそろしい血相でやってくる。

 正成があわてて出向き、迎える。紫苑(しおん)も参加したので、長生も太刀を佩いて出た。

「宮様、ようご無事で」

 城主の正成が拝礼して迎える。城内の者は、倣うしかない。

「正成、ありがとう。世話になる。だが、すまんが、頭を下げられると、誰が誰かわからん。早々に上げてくれ」

 大塔宮は少しイライラして言った。みなが頭を上げる。探していた顔を見つける。後ろに精悍な大きな男がいた。少し恐怖したが、宮は欲求に負けた。

「紫苑殿、ひどい目に遭ったわ」

 言われた紫苑は朗らかに笑った。

「宮様、眠いじゃろ? 腹減ったじゃろ? 先に身体を洗ってもいい。寝てもいい。その間に、おいしいものつくっとくよ。則祐(のりすけ)様は、どっちにする?」

 言われた赤松則祐のヒザが落ちる。

「すまんです。寝て、いいですか? 長生様がおるんやから、もう、宮も絶対に安泰じゃあ……」

 安心したのか、そのまま、地面に突っ伏して寝た。

 それを見た宮はうらやましそうな顔をし、次に長生を見て、少し笑う。

「関長生、初見じゃが、すまん。私も寝たい。紫苑殿に免じて、許せ……」

 そのまま、ヒザを折り地面に落ちた。長生は笑って正成を見る。正成も笑う。

「御一行を、館に運べ。関長生は宮の護衛に、他の者は、宮が起きたときに備えよ」

 城は不思議な活気に包まれる。敗残の宮が来ただけだ。だが、その宮は関長生と紫苑という、城の華のようなふたりに声をかけて崩れた。次に何が起きるのかを見てみたいと思うのだ。

 しかも、さらなる話題があった。

「宮様と長生様って、なんか、雰囲気が近いの」

 みんなが口々に話す。


 陽が沈んで少しの後、ようやく、大塔宮は目を覚ます。

「宮様、起きる? まだ寝ててもいいよ」

 近くに座っているのは紫苑だった。その笑顔が、素直にうれしい。しかし、視界の端に床几に座る関長生が見えた。宮の脳が覚醒する。

「護衛の任、礼を言うよ。紫苑殿、そして、関長生」

 長生は言われて、床几から立ち、座って拝礼しようとする。

「長生、そのままでいい。私を守るためにそうしているんじゃ。形を変える必要はない」

 言われたとおりに長生は拝礼をやめ、膝立ちで留まる。

「不思議じゃなあ。紫苑殿に前に言われたが、たしかに、そなたと私は似ている気がする。少し、身体を洗いたいが、つき合ってくれんか?」

 長生は不思議な男だと感じた。あけっぴろげに知己になろうとしているのがわかる。だけど、彼は皇子だ。

「お望みならば」

 そう答える。宮は身体を起こし、立ち上がる。背丈は長生には及ばないが高い。

「紫苑殿、そんなわけで、そなたの兄を少し借りる。則祐はそのまま寝かせてやってくれ。そいつは、私に少しの眠りをくれたが、本人は不眠不休じゃった。そっとしておきたい」

 紫苑は笑う。

「じゃあ、兄様と清めてきてくださいな。サッパリしてから、温かいものをいただきましょう」

 やはり、とても美しいと宮は感じてしまう。


「長生は洗ったのか?」

 宮は水場に向かいながら言う。

「今日はまだですが、宮様ほどは汚れてはいない」

 言われて、大塔宮がカラカラ笑う。

「汚いよなあ。ここまでなったのは、はじめてじゃ」

 長生も笑うしかない。

「まあ、戦やってりゃあ、そうなりますよ」

 ふたりで井戸の近くで裸になる。長生は汲んだ水を宮の頭からぶっかける。

「おお、気持ちいええの! もう少し、かけてくれ」

 数度、水をかけられると、今度は宮が桶をとる。長生に水をかける。

「互いに擦ろうか?」

 宮が言うと、長生が笑う。ゴリゴリと垢を落とす。

「お前が豪傑なのは、垢の落とし方でわかるわ!」

 愉快になった宮が、今度は長生の垢を落としにかかる。

「宮様も、なかなかの金剛力(こんごうりき)じゃ」

 互いにやって、水をザブザブとぶっかけ合う。大塔宮は、おもしろくて仕方ない。

「長生、メシは一緒に食え。似たワシらで並んで食うのじゃ。不思議な感じになるぞ」

 長生は笑ってうなずく。


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