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キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
二章 赤坂城赤鬼
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足利高氏の欲しいもの

師直(もろなお)~! 元気しとったか? お前が持たせてくれた書状での、旅は快適やったぞ。どこに行っても、うまく回った。師直はようやる、と長生(ながたか)も言うとった!」

 ヒナギクが起居している(やしろ)に入った瞬間、その本人が飛び出してきて、矢継ぎ早に馬上の自分に声をかけてくる。しかも、抜群に褒められている。高師直(こうのもろなお)は正直にうれしい。

「師直、今日も頼むぞ! でな、うまくいかすために、やっぱり、鳩をこれから射たいのじゃが……」

 師直は猛烈に楽しい気分になる。急いで馬を降りる。郎党に目配せして、馬つなぎへ移動させる。頭を必死に働かせ、うなずく。

「もちろん、そうしましょう。赤松殿を、それで饗応ですな!」

 すると、ヒナギクは変な顔になる。

「アホか? 赤松則村(あかまつのりむら)も一緒にやるんじゃ。ほら、もう、支度しとるぞ」

 見ると、覇気の塊のような坊主と山伏が、弓を携えてこっちに会釈する。師直の頭がまた高回転する。どうするか考える。そして、気づく。後ろの馬上の人物を振り返る。

「殿、そういうご提案なんですが……」

 足利高氏(あしかがたかうじ)は、まだ馬上だった。いや、ヒナギクが無視するので、降りる間を失っていたのだ。

 高氏は無言で馬を降りた。

「ヒナ様、1年ぶりですかな。それとも、私はご不要でしたか?」

 高氏が嫌味を言うと、ヒナギクも笑う。

「あのなあ、高氏。今の会話は、事務回りの談合じゃ。整ってから、お主に言うのが筋じゃ。私のような村娘は、そうするしかなかろ? で、お前は見知らぬ赤松と弓持って遊ぶなどはまっぴらじゃろ? それを確認したかったのじゃ」

 言われた高氏がムッとする。でも、すでにおもしろい人物との時間にいると理解していた。

「高氏がそんなことを臆するようでは、足利も終わりなのです。高経(たかつね)あたりがしゃしゃり出て、つまらんことになるのです」

 ヒナギクは満足した。赤松則村も笑う。近くの山へ、みんなで弓を持って向かう。


 会談の席、というよりは野営の宴だった。庭先に戦陣用の鍋が置かれ、競うように射た鳩やキジ、芋が煮られる。軒や地べたの(むしろ)の上に座り、好きなように食う。

「ほれ、高橋兄弟! 足利殿のみやげの山海の珍味じゃ。お前らが食え。こいつらは飽きとるから、鳥鍋でいいのじゃ」

 ヒナギクの言葉が、高氏は愉快だった。

「おう、赤松殿のお連れ。それを食うてみい。東海道のうまいものばかりじゃ」

 そう言いながら、自分はキジの骨を口から引きずり出し、ゴミの集まる場所に投げ込む。

「赤松殿も、さすがの弓じゃ」

「足利様こそ、さすが弓馬の道の棟梁ですわ」

 意気投合は、かなり前にしていた。弓で鳥獣を追い回している間に、人間関係の下地はできてしまったのだ。

「それにしても師直。お前、弓はそんなに下手か?」

 今日、全部外した師直がムッとする。

「あのですね、私のときだけ、妙に木の陰になったことが続いたんです!」

 高氏がニヤニヤする。

「でも、ワシと赤松殿は互いに2羽射たぞ。その差がのう、腕の差としか言えん域じゃ」

 師直がくやしくて高氏を軽くにらむ。

「気にしたらあかんぞ師直。そんな日もあるんじゃ。関長生(せきのながたか)もさっぱりの日があった」

 ヒナギクが言うと、師直がうれしそうにうなずく。

「その関長生に、赤松殿は会ったか?」

 高氏は則村と筵に座り込み、芋を食らいながら聞く。

「会いました。剣舞も見た。恐ろしく、強い」

 脇の瓶子(へいし)から直接酒を飲んだ高氏が聞く。

「赤松殿なら、どう使う?」

 則村は少し考える。高氏が飲んだ瓶子をとり、同じように喉に流す。

「ここ一番ですな。もう、何も出ないと相手が思ったときに、あれを使う」

 高氏はニヤニヤ笑う。

「いいですなあ。奥の手に関長生。最高じゃ。でも、私は違う。自分は坂東武者(ばんどうむしゃ)じゃ。あれを広い場所に放ちたい。劉邦(りゅうほう)韓信(かんしん)か、劉備(りゅうび)の関羽か、そういう使い方をしたい」

 則村が驚いた。どちらも、別動隊として使った将軍のこと。高氏は王たる者の用兵を語ったのだ。

「最強の将軍は、最強の敵にもなりますぞ?」

 高氏はニコニコ笑う。

「そんなのはいい。あっちこっちやっつけて、帰ってきた将軍に聞いてみたい。どんな戦をしたんじゃ? と。劉備と関羽の関係やったら、最高の酒が飲めるはず」

 則村は高氏の顔をまっすぐ見た。ウソは見つからなかった。そして、気づく。この源氏の棟梁が欲しいのは、友だ。心から信頼できる、強くまっすぐな男だ。そして、関長生はその条件を十分に満たしている。

「こんなワシにもな、関長生みたいな男がおる。すばらしい豪傑じゃ。世の中のこともよく知っておる。飲んでて楽しいんじゃ。さらに、関長生も、赤松則村、楠木正成(くすのきまさしげ)もみんな仲間にしたい。あそこの高師直を含めて、足利高氏の五将軍になってほしい」

 無邪気に笑う高氏を見て、則村は何かを理解した。同時に、高橋兄弟や支石、高師直を相手に笑うヒナギクが見えた。

 どこがどう違うのかは理解できなかった。でも、圧倒的にヒナギクらと飲みたいと思ってしまう。足利高氏に魅力がないのでもない。財力は高氏にある。ただ、関長生や関紫苑(せきのしおん)に会いたいだけかもしれない。だけど、そこにいたいと思わせる力をヒナギクたちは持っていると思ったのだ。


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