不安を解き放て!
結局、長生らは自分たちを襲った賊たちと一緒に歩いていた。
最初、女が呼び止めたとき、長生は頭を振って拒否した。
でも、ヒナギクが言った。
「長生、この子らにも、やさしいお前を分けてやってくれ。お願いじゃ」
目が真剣だった。どうにもならない。
「女、余計なことをしたら、俺がお前たちを斬れることは理解したな」
背丈のある女はうなずいた。
長生は振り返って、死んだ偽坊主を埋める差配をした。殺さなかった6人に導かれ、山中に分け入る。長生の後ろにヒナギクとツキが続いた。
「もてなしができる連中とも思えんが……」
黙って進む6名の後で、長生はヒナに言う。
「長生がもてなすことになる。でも、そうしてほしい」
ヒナギクが答える。何もわからずに言っているわけではないようだ。
「ならば、ヒナは知れ。人助けには、それなりの覚悟がいる。長生やツキを失うこともある。いいのか?」
彼女が驚く。目を見開く。でも、絞り出す。
「そのときは、ヒナも死ぬ。それでも、これを見過ごすのはイヤじゃ」
若すぎる娘の緩い覚悟だった。でも、心意気はいい。長生の心が澄んでくる。
「よかろう。長生はヒナギクの君の家臣じゃ。この命、縦横無尽に使え」
「長生、お前の武勇に甘える。あの子らの不安を解き放て!」
長生の顔が恐ろしくねじ曲がった。うれしかったのだ。大切だった小さな命は、主君と仰ぎたいほどキレイな心を宿していた。
「承知! 心を安んじてお待ちくだされ」
「廃寺に唐山坊の手下が3人。人質の子どもと女、年寄りが12人……」
背の高い女らの説明で、大まかは理解した。大将が唐山坊程度であれば、手下3人はたいしたことではなかった。だが、配置が悪い。
人質の女らが作業している場所に2名。そして、もう1名は子どもと年寄りの近くにいる。
長生は考える。
「女、長巻で人を斬ったことは?」
背の高い女は下を向く。
「ない。打ち合ったことも、手足を斬ったこともある。でも、命を絶とうとしたことは……」
長生は少し笑う。女に微笑む。
「よかった。そういう人間が、役に立つ」
女は驚いた。
「礫の男よ、投げられるか?」
頭を布で巻いた男がうなずく。
「女と組んで、こっちの2名をやれ!」
長生が言うと、聞いていたヒナギクが、いきなり怒る。
「む、ムチャ言うな!」
だが、冷たく長生が返す。
「黙れ、ヒナ! ふたりは陽動じゃ。礫は石を投げ、女は遠くから長巻を振り回せ。動いた瞬間に、ワシが離れたひとりを殺す。女と礫は、2名に近寄らず、ワシの方に逃げてこい!」
意味が全員にわかった。
「子どもや年寄りが騒ぐと、うまくいかん。残りは俺についてきて子どもらを鎮めろ。ヒナとツキは、藪で待機!」
作戦が決まる。配置につく。
一発目はツキだった。
「ウオォォオォーンッ!」
陽も明るい内に、突如、犬が吠えた。
何事か、と思った賊のひとりが飛び出してきた。人の声ではないので無防備だった。そこに投じられる石礫。
「ガァッ!」
叫びに、もうひとりが飛び出す。女が長巻を振り上げ、怒鳴る。
「お前らの好きには、もうさせん!」
ほぼ同時に、子どもらが幽閉される棟に長生が飛び込む。
土間で賊が振り返った。でも、遅い。
長生は無言でその男の喉を貫いていた。手で合図し、味方を呼び込む。
そして、すぐさま建屋を飛び出す。こちらに駆けてくる礫と女。思った以上に賊らと距離が近い。危ない。
長生は地面を蹴る。驚いた相手の顔を見た。その目を切っ先で絶った。
さらに蹴る。女の背に迫る刃。それを跳ねる。
ギャッ!
鋼の交わる音。
体勢は長生の方が崩れていた。足先に力をぶち込む。後ろの足で蹴る。
「いっ!」
一気に身体を回した。
賊のこめかみを切っ先がとらえた。斜めに顔面を絶った。瞬間、早かった。
長生は斬った男の絶命を確認した。その仕草を見て、生きている者らが、喜びを表現しようとした。だが、長生は制する。
「まだ、出てくるな!」
そう言って、礫の男の方を見る。
「そいつは死んでない。お前を斬ろうとした男だ。殺せ」
そう言って離れた場所にいるヒナを呼ぶ。
「唐山坊の太刀を持ってこい」
あわてて走ってきたヒナギク。
「その太刀で、そいつの命を絶て。お前が、ここのみなを守る柱になるしかない」
礫の男がうなずく。手足が長いだけの若い男だった。
でも、長生は太刀を渡す。礫の男がそれを抜く。
「眉間、喉、心の臓、はらわた。いろいろあるが、剣を長持ちさせたければ、やわらかいところを突け。剣を磨き、切っ先が走るようになれば、固いところも斬れる」
長生はそう助言した。礫の足元には目を斬られた男が倒れている。
礫は小さなため息をつき、太刀でその喉を貫いた。




