表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
キッサキハシレ、ツキトワラエ  作者: 葛城 聡
一章 恋々風塵
11/85

不安を解き放て!

 結局、長生(ながたか)らは自分たちを襲った賊たちと一緒に歩いていた。

 最初、女が呼び止めたとき、長生は頭を振って拒否した。

 でも、ヒナギクが言った。

「長生、この子らにも、やさしいお前を分けてやってくれ。お願いじゃ」

 目が真剣だった。どうにもならない。

「女、余計なことをしたら、俺がお前たちを斬れることは理解したな」

 背丈のある女はうなずいた。

 長生は振り返って、死んだ偽坊主を埋める差配をした。殺さなかった6人に導かれ、山中に分け入る。長生の後ろにヒナギクとツキが続いた。


「もてなしができる連中とも思えんが……」

 黙って進む6名の後で、長生はヒナに言う。

「長生がもてなすことになる。でも、そうしてほしい」

 ヒナギクが答える。何もわからずに言っているわけではないようだ。

「ならば、ヒナは知れ。人助けには、それなりの覚悟がいる。長生やツキを失うこともある。いいのか?」

 彼女が驚く。目を見開く。でも、絞り出す。

「そのときは、ヒナも死ぬ。それでも、これを見過ごすのはイヤじゃ」

 若すぎる娘の緩い覚悟だった。でも、心意気はいい。長生の心が澄んでくる。

「よかろう。長生はヒナギクの君の家臣じゃ。この命、縦横無尽に使え」

「長生、お前の武勇に甘える。あの子らの不安を解き放て!」

 長生の顔が恐ろしくねじ曲がった。うれしかったのだ。大切だった小さな命は、主君と仰ぎたいほどキレイな心を宿していた。

「承知! 心を安んじてお待ちくだされ」


「廃寺に唐山坊(とうざんぼう)の手下が3人。人質の子どもと女、年寄りが12人……」

 背の高い女らの説明で、大まかは理解した。大将が唐山坊程度であれば、手下3人はたいしたことではなかった。だが、配置が悪い。

 人質の女らが作業している場所に2名。そして、もう1名は子どもと年寄りの近くにいる。

 長生は考える。

「女、長巻(ながまき)で人を斬ったことは?」

 背の高い女は下を向く。

「ない。打ち合ったことも、手足を斬ったこともある。でも、命を絶とうとしたことは……」

 長生は少し笑う。女に微笑む。

「よかった。そういう人間が、役に立つ」

 女は驚いた。

(つぶて)の男よ、投げられるか?」

 頭を布で巻いた男がうなずく。

「女と組んで、こっちの2名をやれ!」

 長生が言うと、聞いていたヒナギクが、いきなり怒る。

「む、ムチャ言うな!」

 だが、冷たく長生が返す。

「黙れ、ヒナ! ふたりは陽動じゃ。礫は石を投げ、女は遠くから長巻を振り回せ。動いた瞬間に、ワシが離れたひとりを殺す。女と礫は、2名に近寄らず、ワシの方に逃げてこい!」

 意味が全員にわかった。

「子どもや年寄りが騒ぐと、うまくいかん。残りは俺についてきて子どもらを鎮めろ。ヒナとツキは、藪で待機!」

 作戦が決まる。配置につく。


 一発目はツキだった。

「ウオォォオォーンッ!」

 陽も明るい内に、突如、犬が吠えた。

 何事か、と思った賊のひとりが飛び出してきた。人の声ではないので無防備だった。そこに投じられる石礫。

「ガァッ!」

 叫びに、もうひとりが飛び出す。女が長巻を振り上げ、怒鳴る。

「お前らの好きには、もうさせん!」

 

 ほぼ同時に、子どもらが幽閉される棟に長生が飛び込む。

 土間で賊が振り返った。でも、遅い。

 長生は無言でその男の喉を貫いていた。手で合図し、味方を呼び込む。

 そして、すぐさま建屋を飛び出す。こちらに駆けてくる礫と女。思った以上に賊らと距離が近い。危ない。

 長生は地面を蹴る。驚いた相手の顔を見た。その目を切っ先で絶った。

 さらに蹴る。女の背に迫る刃。それを跳ねる。

 ギャッ!

 鋼の交わる音。

 体勢は長生の方が崩れていた。足先に力をぶち込む。後ろの足で蹴る。

「いっ!」

 一気に身体を回した。

 賊のこめかみを切っ先がとらえた。斜めに顔面を絶った。瞬間、早かった。


 長生は斬った男の絶命を確認した。その仕草を見て、生きている者らが、喜びを表現しようとした。だが、長生は制する。

「まだ、出てくるな!」

 そう言って、礫の男の方を見る。

「そいつは死んでない。お前を斬ろうとした男だ。殺せ」

 そう言って離れた場所にいるヒナを呼ぶ。

「唐山坊の太刀を持ってこい」

 あわてて走ってきたヒナギク。

「その太刀で、そいつの命を絶て。お前が、ここのみなを守る柱になるしかない」

 礫の男がうなずく。手足が長いだけの若い男だった。

 でも、長生は太刀を渡す。礫の男がそれを抜く。

「眉間、喉、心の臓、はらわた。いろいろあるが、剣を長持ちさせたければ、やわらかいところを突け。剣を磨き、切っ先が走るようになれば、固いところも斬れる」

 長生はそう助言した。礫の足元には目を斬られた男が倒れている。

 礫は小さなため息をつき、太刀でその喉を貫いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ