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銀の魔女の勇者  作者: 星川ぽるか
二章 英雄の国と水神獣
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54話 最後の命

 圧倒的な存在が海を支配し、戦場を掌握していた。


 戦局は変わらず劣勢、否、勝敗は決した、


「もう、無理……」


 溢れた絶望の声が、銀髪の少女の気力を奪う。


「ルリナ……私が時間を稼ぐ。女王や他の七紋家がいれば、よかったんだけど」


「……トーラが、逃げなよ。私が時間を稼ぐ」


「今にも泣きそうな顔してる人が何いってるのよ。それにシエラに治癒魔法かけてもう魔力ないでしょ」


「……まだ、戦える。七紋家の次期当主として!」


「情緒不安定」


「うっさい!」


 戦いを挑もうとする二人の前に、颯爽と現れた銀色の髪をした男。


「ーーーー」



 体が淡く光っており、ルリナは言葉を失った。



「遅れて、悪かった」



「いっつも、あんたは遅いのよ……」



 彼女の臣下にして最後にその恩を返すため駆けつけた銀の勇者。



「あいつの相手は、俺がする」



 水神獣は一度殺した獲物を敵として認識した。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 なんとか間に合った。

 しかし残された時間は三十分とない。



「短期決戦ってやつだな」



 身を引き締めて鞘から刀を抜く。


「……あなた、その体」


「今は時間が惜しい。説明は後だ」



 周囲には半壊した港町に倒れてるシエラ。

 エイジさんが見当たらないのは、俺と同じで消し炭にされたかどこかで意識を失ってるか。



 感じ取れる魔力はトーラ以外感じない。微かに地下のようなところから途轍もない速さで上がってくる魔力がある。一応警戒はしておこう。



 俺は目の前の水神獣目掛けて地面を蹴り、跳躍する。



「銀の鉤爪(かぎづめ)


 五本の巨大な爪を水神獣の頭に向けて放つ。


 水神獣は俺の攻撃をもろに受けて、右目の上から血を流していた。



「ギャアアアッ!」



 甲高い苦痛の咆哮のせいで耳鳴りを起こしてしまう。

 しかしどうやら効いているようだ。



「嘘……」


「なんでカナタの攻撃が……」



 トーラとルリナが口を開けて茫然としていたが、カナタにはその姿は見えない。




「ふう……よかった。こんくらいの攻撃で傷ついてくれなきゃ困る」



 カナタはそれから何度も攻撃を繰り出す。

 白銀石と魂を引き換えに手に入れた力は、魔法の知識もカナタの頭に入ってる。


 繰り出される魔法に、ルリナはカナタに異変が起きたことを悟った。


「教えてない魔法どころか、私の知らない魔法まで……」



 銀の魔法は終末晶石(クリスタル)の一つ白銀石との誓約によって使える魔法。

 多彩かつ、臓器としての役目を果たせるほど万能性に優れた白銀石の特性を魔法として具現化している。



「銀の雷槍」


 無数の銀の槍が嵐によって生み出された積乱雲。それによって発生した雷が銀の槍に落雷し帯電する。



 凶悪な槍の攻撃を水神獣はエイジたちの攻撃を防いだ水のバリアを展開するも、雷を纏った槍の熱で蒸発、続く第二波でバリアを破り、第三波で水神獣に命中させた。



 水神獣はカナタに劣勢を強いられてた。



「このまま勝てるんじゃ……」


「どうかしら」


「どうしたのトーラ? 完全に水神獣が押されてると思うけど」


「火力が段々と落ちてきてる。このまま消耗戦になれば押しきれない」




 トーラの分析は正しく、カナタは魔力の多大なる消耗により体が震え始める。



「ほんとなら、とっくに倒れてるもんな」


 今のカナタの状態は銀の魔薬を飲んだ状態以上のものだ。それでも素体であるカナタのスペックは高くない。



「どうしたもんか」


「どうするも何も力押ししかないでしょ」


 頭に響いてきたのはアリアの声だった。


「なんで出てくるんだよ」


「出てこれたから出てきただけよ」


 ということは何かアドバイスでも持ってきたのだろうか。



「どうすれば倒せる?」


「力押し」


「……他には?」


「それしかない」


「なんだよそれ!」


 あー、クソ。魔力も残り少ない。



銀の破弾(シルバーブレッド)



 繰り出した俺の最高火力の出せる魔法。


 しかし水神獣にはあまり効いていなかった。



 鋭い眼光が俺を射抜く。

 その瞳の色は知っている色だった。


 なぜ人間如きに追い詰められてるのかという屈辱、憎悪、殺意、暗く淀んだ色だった。



「……封印されてたら、あんな目つきにもなるわよね」


「アリア?」


「なんでもないわ。それいんしれもさっきので致命傷を与えられないとか、あんた弱くない?」



「これでも頑張ってるんだけど」


「結果が伴ってなけりゃ意味ないわよ。しょーがない。私のとっておきの技を教えてあげる」



 そう言って頭に突如ある魔法が脳内に刻まれた。



「これで……」



「まあ、倒せるとは思うけど……魔力がぜっぜん足りないわね」


「そこは、こいつで!」


 俺は愛刀を力強く握り、この戦闘の間吸い取っていった俺の生命力を魔力に変換する。



「便利な武器ね」



「……こいつにも世話になった」


 何度も殺されたけど……



「さて……」



 魔法を発動しようにも覚えたての状態だ。

 それに大規模なこともあって集中が必要だった。



「どうするか」


 手段を考えていると、渦巻く炎が水神獣を襲った。



「おーーー、カナタ……来るの遅いんじゃねの」


「エイジさん!」



 ボロボロの姿のエイジさんと後ろには顔のキツそうな美人の女の人がいた。

 鎧をきてるから彼女も戦いに参加してるんだろう。



「エイジさん。今からあいつを倒す魔法を放ちます」


「そんな都合のいい魔法あんのかよ」



 悪態をつくエイジさんは珍しかった。

 それほど、追い詰められてたんだ。



「任せてください。ただ魔力を集中させるのに時間がいります。」



「なるほど。そーゆことか。任せとけ」



 エイジさんが徐に魔剣を構える。


「私も、手伝う」


「別に寝てていいんぞ」


「黙れ。五英傑としての責務を果たす」


「なら、俺もやらねえとな」



 今度は半壊した建物の方からやってくる壮年の男だった。



「将軍!」


「将軍ってば寝てたんですか?」


「小僧が言いやがって」


 どうやらエイジさんの上司のような人のようだ。


 うん。普通に強そうだ。



「ところで銀髪の坊主。水神獣を倒せるってのは」


「ええ……可能性はあると」


「なら賭ける価値はある。と言っても今更代案もクソもない」



 なんか全員相当水神獣にやられたみたいだ。


 すると一陣の優しい風が吹いた。



「将軍、ボロボロじゃねえっすか」


 彼はいつの間にか現れ、輪の中に溶け込んでいった。


「ギニア。祠のほうはどうだった」


「荒らされてましたよ。しかもかなりの手練れに。収穫はほぼなかった」


「そうか。ご苦労。今すぐ加勢しろ」


「人使い荒れえなぁ」



 着々と人が集まる中、



「私たちもやります」



 トーラとルリナ、そしてシエラがやってきた。


「やられっぱなしは、嫌いだからの」


 シエラが不敵に笑う。しかし重傷に見えた。



「お前は寝てた方がいんじゃ?」


「遅れてきたやつが私に意見するな!」


「あっ、はい」


 圧に押された。

 シエラも大分怒ってるようだ。


「後でどうなったか教えなさいよ」


 ルリナが俺に近づいて、ぼそりと呟いた。


「……わかったよ」



 俺はどう返事するか迷って、そう言った。

 それはきっと嘘になってしまうと思いながらも。



「最後の、命だ。気張れよ、俺」



 誰にも聞こえないように俺は独り言を溢した。

 

 結集した戦力は、水神獣に再び挑む。




最後の戦いに身を投じるカナタ。

大切な人を守るため、最後の刀を振るう!


次回、最終回!

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