最終話 いつか必ず……
カナタに託した一行は水神獣の注意を引くために各々が最大火力の攻撃を撃つ。
まずボルドが水神獣の正面に立ち、大剣を頭の上に構える。
「轟剣・烈破」
彼の異名となった技。
大気を割るその一振りは、一人の男の手で起きたことだと疑うほど、怪物の域に達していた。
しかし、相手はその怪物の域を逸脱する神獣。
それでも水神獣はその一撃の危険性を察知、すぐさま海水に自らの力を干渉させカナタに破られたものよりも、何十倍も強固の守りを形成した。
「いい加減その殻は破らせてもらう!」
アリアは水神獣に向けて手を伸ばし、全身に力が込められる。
鼻血を流しながら、開かれた手は徐々に握り締められていき、
「はああ!」
握った手と同時に水神獣を守っていた水のバリアが弾け飛ぶ。
そのタイミングでボルドの攻撃が命中した。
苦悶の声を上げる水神獣に畳かけるエイジとギニア。
「氷炎魔剣イフリート・クロセル! 氷炎獄の剣尖!」
「風の運び」
炎に包まれた氷の剣が真っ直ぐ水神獣に放たれ、そこにギニアが魔法で加速を与える。
ボルドの攻撃に怯んだ水神獣はエイジとギニアの合技を防げず直撃。
「知恵の書庫解禁、海楼の書第三章、珊瑚の妄愛」
トーラの手に現れた光る一冊の本が現れ、突如水神獣が暴れる海の中から白と桃色の珊瑚が海上に飛び出し、水神獣の体を締め上げ、体の自由を奪った。
「今よ!」
トーラの合図にシエラとルリナが応える。
「鮮血の三つ首!」
水神獣の巨体の周囲に血塗りの杭が取り囲むように出現。三つの輪っかが一斉に水神獣の体に刺さり込む。
「鉄屑の雨!」
そしてルリナが水神獣の頭上から鉄の豪雨を降らせた。
無骨ながらも鋭利に尖った鉄屑が水神獣の体を切り裂き、鱗の上から突き刺さる。
彼女らの絶え間なく繋がった猛撃は、カナタにとって十分な時間を稼いだ。
「カナタ!」
「ああ!」
カナタはトーラの魔法で動けない水神獣の頭に着地すると同時に構築した魔法を展開する。
「白銀の鎮魂」
水神獣に突き刺した愛刀によって起動した術式は古代の産物。
水神獣の体はみるみると体を縛る珊瑚と共に、白銀に輝く鉱石の結晶と化していく。
最後の抵抗とばかりに水神獣は一度カナタを殺した息吹を放とうするも、絶咸淙の能力によって、生命力を吸い取れて息吹を放つ力を失う。
呻き声をあげ、それが水神獣の断末魔となって轟く。海上に神々しく恐ろしい水神獣の結晶が出来上がった。
結晶となった水神獣は体内まで結晶化している。しかし、その瞳に宿る憎悪の炎は未だ消えていないように見えた。
「眠れ」
最後にカナタは魔力を流し、水神獣の結晶体は崩壊した。
ここに、水神獣は討伐された。
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「終わった……」
「そうね。それともうあなたの限界」
アリアの予告通り、カナタの体は段々と銀色の粒子となっていく。
「今から死ぬのに随分穏やかな顔ね。怖くないの?」
「怖いさ……でも、実感がないからじゃないか?」
消えていく感覚というものはあまり感じられず、いつの間にか足は消えていたりしてる。
もしかすると、元の世界に帰るのだろうか。
でもこれは希望的観測だ。きっと帰れない。魂を犠牲にして蘇生した。本物の肉体じゃないでせいか、何度も死んだあの痛みと脱力感をともわない。
優しい本当の死が訪れた。
「カナタ……」
刀を鞘に納めて港に降りた俺は戸惑うルリナを見て、困った顔をしてしまった。
俺の体の部位は次々と粒子となり宙に舞う。
「ごめん、俺はここまでだよ」
ルリナは涙を溜めて、震えた声で言った。
「なに言って……」
「最後にみんなを助けられてよかった。本当に……」
「待って……」
「エイナさんにも、お世話になったって伝えてくれ」
「……」
「ルリナも、ありがーーー」
「待ってよ!」
「……」
「どういうことよ! なんで死ぬのよ! 冗談でしょ! 何も聞いてないし、勝手に契約を破ろうなんて、許さない!」
「……」
「悪戯でしょ? 帰るまでAランクに上がれって、無理なこと言われたことへの仕返しでしょ!」
「……無理ってわかってたのかよ」
「あんたが、わかったとか馬鹿な返事しなかったら、命令しなかったわよ……お願い、謝るから、ぃかないで……」
「……」
「いかないで……死なないで……私の、臣下でしょ? まだ、私当主になってない、勝手に出ていくな……」
俺の体は左腕が消えて、足は太腿まで消えていた。
「ルリナ」
「……」
「また、会えるさ」
そんな保証はどこにもない。
それでも俺は、彼女にそう伝えた。伝えたかった。嘘でも、でまかせでも、俺もルリナと別れたくなかった。
「……」
「大丈夫。だからーーー」
「……いいわよ。そんな確証のないこと、聞きたくない」
「確証がないって」
「魔女は、約束を守る。あんたなんかの言葉、信じない。絶対に破る口約束、私は嫌い!」
「……ごめん」
「あやまんなアホ……」
涙を流しながらルリナは俺の消えていく体に飛び込んできた。
「おい!」
突然の行動に戸惑いながら、その体温すら感じ取れない俺の胸の中で、ルリナは力強く宣言した。
「絶対に、あんたを捕まえる。契約したのは私で主人は私。それから逃げようだなんて、許さない」
「……ああ、期待して待ってる」
ルリナの強気で傲慢な態度が愛おしく、まだ残っている右手で彼女の頭に手を乗せる。
「魔女は、約束を守る人たちだからな。俺は、信じるよ。銀の魔女」
「あんたは、一人じゃすぐ死ぬ弱虫。いつも助けるのが遅い薬頼りの勇者。だから、いつも助けが必要な、手の掛かる馬鹿」
「ひどいな」
俺がいなくても、いない間も、きっとルリナなら大丈夫だ。
せめて、俺の最後の我がままを。
「いつか必ず……俺を捕まえてくれ」
「いつか必ず……あなたを捕まえる」
こうして、銀の勇者は嵐の止んだ陽光の差す半壊の港で姿を消した。
遺物となった彼の愛刀は彼の主人である銀の魔女が、強く、優しく、愛しく、焦がれるようにして深く抱きしめた。
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水神獣のとの戦いから二週間は経ち、使者として役目のを果たした三人の魔女は祖国に帰還した。
「そう。坊やが……」
エイナはひどく落ち込んだ様子で、なんとも言えない悲しい気持ちが胸に広がる。
「ええ……勝手に死んだわ。だから連れ戻す」
「ルリナ、死者の蘇生は不可能よ」
「あいつの魂はまだ生きてる。契約のつながりはまだ消えてない。それに、これがある」
「それは……坊やの刀。あなた……」
「これにはあいつの生命力とその記憶がある。これを媒介にしてあいつの魂を入れる器を銀の魔法、その先にある白銀の魔法を使えば、構成できる。あとは契約のパスを使って魂を引き戻せるはず」
「……白銀魔法は終末晶石に認められなけりゃいけないわ。とても厳しいものになる……それでもやるのね?」
「約束したから」
「そう……なら止めないわ。やりなさい」
「ありがと、母さん」
「いいわよ。私も、坊やにはまた会いたいしね」
数年後ーーーーーーーー
どこまでも、白い世界。
俺は、何をしているんだ。
俺は、なんだ。
俺は、俺だ。 俺で、俺だ。 だからなんだ? 何か重要な、いや、いや……
永くここにいたのは覚えてる。
懐かしい、目を覚ますといつもこの謎の感覚にあう。
何か、もう一つ、思い出さないといけないことがあった。
いつの日かも、思い出せず眠ってしまった。
あれは、なんだったか……
確か、そう、色だ。指針となる色があった。
目の前にいるこんな、銀色の、かミをシターーーー
やクソくシた
「い……ツかカナラズ」
「……捕まえた」
暖かく包まれる感触で、やっと思い出した。
無廟のような世界で彷徨う俺を捕まえに、約束を果たしにきた銀の魔女。
彼女は涙を流していたけれども、少し大人っぽくなった笑顔は幸せに満ちていた。
ご愛読、ありがとう!
現在、10話まで連載している「革命少年 〜最終番の願い〜」もよければ読んでね!
まだ回収していない伏線などありますが、一度この作品は完結とさせていただきます。
また続きとなるアフターは、強い要望があるか、興が乗ったら書きたいと思います!
グッドラックッ!




