44話 勝負
遅くなってしまいすいません。誤字脱字などがあれば教えてもらえると嬉しいです。
「 訴え…ですか」
話がいまいち見えてこない。
「あまりピンときてないって顔だな」
「まぁ……」
そこでずっと押し黙っていた秘書らしき女性職員が補足するように口を開いた。
「ライド・クローナーはこの国のクローナー伯爵のご子息なのです。そして伯爵は冒険者になりたいと言ったライド様の為にこのギルドへ融資をしてくれているのです」
あのいけすかない野郎は金持ち貴族だったってことか。
そしてギルドマスターのザムドも苛立ちの声音で彼女の言葉を続けた。
「だが、当のライドはクローナー家の三男坊で随分と甘やかされたらしい。そのせいか、ギルドでも好き勝手にして…、おまけにさっさと昇級させろときたもんだッ!」
机を強く叩き、あいつのことが大嫌いだということが十分伝わってきた。
「な、なるほど」
「そこで今回の騒動だ!上手くいけばあいつから冒険者の資格を剥奪できるかもしれん!訴えるだけでいいんだ!どうか協力してくれないか?」
「お願いします」
二人とも頭を下げて被害を受けたから訴えるという何ておかしくもない普通のことをこうして頼む辺り、相当あいつに頭がきてるみたいだ。
「わかりました。協力します」
俺が困るとことではないし、素直に協力することにした。
「本当か?助かるよ」
ほっとしたザムドは肩の力を抜いて椅子に深く体重を預けた。
「その代わりといってはあれなんですが…」
「どうした?何か頼み事か?」
「はい。出来れば昇級…、ランクアップがしやすくなる依頼を斡旋してほしいんです」
せっかくギルドのトップと話が出来るんだから活用しない手はないだろう。何も今すぐランクアップさせろなんて言ってないわけだし。
しばらくの沈黙のあとザムドは「分かった。受付の者に伝えておくよ」と言って彼から了承を得たあと俺は部屋を出た。
カナタが去ったあとの部屋でギルドマスターの秘書である彼女、テリナはザムドに声をかける。
「良かったのですか?」
「なーに…、依頼の斡旋なんてよくあることだ。問題なかろう。ランクアップをさせろと言っていれば流石に断ったがな」
そう答えるザムドだがテリナが聞きたかったことではなかった。
「そうではなく、魔女の国の人間…、それも七紋家の関係のある者に…」
「不安か?」
「少し…」
魔女の国。少し前にフォルネ帝国から侵略を受けたもののその国力はほとんど損耗していない未だに力の底が見えない国。
何より魔女ははっきり言って得体が知れない。それに付き従う者もまた訳ありというのが多いという話だ。
「知っているか?帝国が別の世界から勇者を召喚した話」
「え、ええはい…。三十人の大きな力を持つ勇者のことですよね?」
帝国がカナタ達を召喚した時、帝国はそのことを必死に隠そうとしたがどこの場所でも諜報員というのはいるもので…。ギルドのトップが持つ情報網も伊達ではない。
「その内の一人が帝国から脱走したらしい」
「ッ⁈本当ですかそれはッ⁈」
テリナはたじろぎ大きく驚いた。
「ああ、それも逃げた勇者は殺しても死なないらしい」
「それはあまりにも、信じられ……、ッ⁈ ちょっと待ってください!確か報告で職員が下で人が死んだとッ!」
騒ぎの報告を受けていたテリナとザムド。しかし二人が下に降りた時、報告で聞いたこととは違った光景だった。床に染みた赤い血の上に立つ男、衣服は破れているものの目立った傷ひとつ見当たらない。だがライドの反応や周りの冒険者とギルド職員の視線はあの男に向けられていた。
「そう、その話を聞いて俺らは下に降りたわけだが…、死人はいなかった。最初は職員が慌てて間違った報告をしてきたと思ったがいくらなんでも重傷と死を間違えるか?」
「言われてみればおかしいですね。ここの職員はみな優秀ですし…。となると報告は。…」
「間違いなく正しい報告だったってことだ」
ザムドが話した勇者の話と下で起きた騒ぎの報告をひとつひとつ丁寧に説明をし、テリナの中でパズルのピースがかちりとはまった感覚が起きた。
「まさか、彼が…?」
「ほぼ間違いないだろ。あいつが帝国から逃げ出した不死の勇者だ。話によると逃げた勇者の亡命先は魔女の国らしい」
カナタの身元が明らかとなりテリナはザムドに聞く。
「彼をどうしますか?」
七紋家の関係者というだけではなく帝国の勇者などはっきり言って迷惑以外の何物でもない。厄介ごとはごめんなのだ。
「今はまだ何もしないさ。それよりライドの件が先だ。書類は任せる」
カナタという勇者の話を流し、当初の問題を持ち出すザムド。
今はということは今後何かをするのだろうか…。テリナはそう考えるも口には出さない。ザムドがそれ以上を言わなかったからだ。だから彼女はただこう答える。
「分かりました」
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俺はギルドを出て泊っている宿に向かって歩いた。
ギルドから出る時ほぼ全員が俺の方を見てものすごく気持ちが悪かった。人の視線など気にするのも馬鹿馬鹿しいがその数も一度に多くあるとそうもいかない。
それに今日はよく分からない騒動に巻き込まれたしで散々な一日だ。
「帰って寝よう…」
夜の王都の町、魔道具で作られた街灯の下を重い足取りで進んだ。
翌日、ギルドに訪れると落ち着かないほどざわざわと騒がしい空気に包まれていた。
「聞いたか?ライドが訴えられたらしいぜ」
「聞いた聞いた。あの刺された小僧がギルドに申し出たらしいな」
「これでやっとあの生意気な坊々を追放できるといいんだがな」
どうやら昨日ザムドと話した訴えのことが既に広まっているみたいだ。たった1日で広めるとは流石ギルドといったところか。
「いやぁ、探したよ君」
突然後ろから声をかけられた。だがそいつの声は昨日聞いたばかりでよく耳に残っている。
「なんだよライド・クローナー」
下卑た笑みを浮かべてライドが取り巻き三人ほどを連れて俺に近づいて来た。
「ハハッ、こうしてギルドに来てみたらなんでも君が僕を訴えてるって話じゃないか」
なるほど。訴えた張本人がいればそりゃあ絡むよな。でももし裁判とかになれば被害者の俺が優位なのは明らかだ。口論に自信はないが負ける気がしない。
なのにこいつは随分と余裕だ。後ろの取り巻きたちの顔は青ざめているのに呑気な奴だと思ってるとライドが耳を疑うことを口にした。
「そこでッ…だ。あーー、君の名前は?」
「…カナタだ」
「そうかカナタ。どうだここで一つ、僕と勝負をしないか?」
「勝負?」
こいつは何を言ってるんだ?何をどうしてそうなるのか俺にはさっぱりだった。
「ああ。僕が勝ったらこの訴えを取り下げてもらう」
もしかしてこいつ、裁判とかじゃあ勝てないと踏んでそもそもの訴えを潰しにきたのか。だけどこの勝負、受ける道理はないし俺に旨味も何一つない。無利益なことはしないのが魔女の流儀だ。まあ俺は魔女ではないんだが…。
「俺にメリットがないし、受ける理由もない」
そう跳ねのけたがライドは思わぬことを提案した。
「君が勝てば謝礼として金貨三十枚、そして君を殺しかけた責任を取るため冒険者を辞めよう」
「…ッ⁈」
なんだよその提案は。自分の首を賭けているようなものだ。いや、それほど追い詰められてるのか?
でもたかが金と首だけで…。
俺が渋っているのを見てライドはもう一押しする。
「更にこの勝負をギルド公認のものとし、ランクアップに繋がるように計らってもらおうじゃないか」
ランクアップだって⁈ これはチャンスといってもいいんじゃないのか。しかしあくまでギルドが認めないと成立しない話ではある。まずはそれ確かめなければならない。
「その保証はできるのか?」
「任せてくれ。ギルドがバラされたくない機密情報を揺らせば向こうはうんと言わざるをえない」
流石お貴族様。そこらへんは抜かりがないようだ。
でもこの勝負を受ければザムドとの約束に背くことになる。ランクアップはこっちとしても嬉しい話だが、ここでギルドマスターとの信頼関係を壊すことに繋がる恐れもある。
深く考えた俺の結果は…
「やっぱやめとくわ」
そう言うと、ライドはがっかりするように大きくため息を吐いた。その表情には呆れの色が見て取れる。
「ここまでの好条件を出させておいて、勝負を投げるなんて…、魔女の国の人間はよっぽどの馬鹿らしい」
「何?」
「馬鹿だっていてるんだ。普通あり得ないだろ?ここまで君に譲歩したのに損得も測れないなんて君の頭はよっぽどおめでたいらしい。君の国にいる魔女たちもその程度の頭だってことだろ?」
このクソ野郎は言っちゃあいけないことを口にした。
安い挑発だと頭では分かってる。けど、ここでこの発言を見逃すことは俺には出来ない。恩人たちを馬鹿にされて黙ってるなんて人として失格だ。
「後悔するなよ?お前の言った勝負…、受けてやるよ」
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