37話 会談
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「あんたもあたしのものを奪おうとする気?」
不機嫌になり始めたルリナ。
魔女というのは本当に所有欲が強い。ティナの時と同じで俺のことが珍しく手元に置きたいといった魔女がいた。
それもルリナが返り討ちにした。その時言い寄って来た魔女は泣きながら帰っていったけな。
「何よルリナ…。この私とやるの?」
しかしそのルリナからの圧力に決して怯むことなく少女は睨む。
「上等じゃないシエラ。受けて立つわ」
どうやらあのロリっ子はシエラという名前らしい。
殺伐とした空気の中にいる二人の少女の頭に拳骨が落ちる。鮮血の魔女とエイナさんが立ち上がり拳骨をお見舞いしていた。二人の頭から湯気のようなものが見えるのは気のせいだろう。
「いい加減にしなよシエラ。何喧嘩吹っ掛けてるのよ」
「は、母上ツ…」
両手で頭を押さえて痛みに悶えているシエラという少女。にしても母上?あの二人は親子なのか。
「ルリナもその短期な性格はなんとかならないの?それにここが今から何をするか…、忘れたわけじゃないでしよ?」
お、おう…。
エイナさんが怖い。さっきのルリナよりも数倍怖い。よく考えたら女王や他の七紋家もいる上に今から会談だ。そりゃあ怒るよな。女王とティナはクスクスと笑みをこぼしていたが、他の七紋家の人達は目を瞑ったりぼうっとしたりでこちらには無関心だ。
「ご、ごめん…、なさい」
涙目でシエラと同じく頭を押さえるルリナ。さっきまで怒気は霧散して小動物のように大人しくなった。
あいつの中ではエイナさんが絶対的に上なんだな。
「うう…、タンコブできてる」
ルリナは痛そうに頭をさすりながら呟く。俺もあれだけは受けないようにしよ。
二人の説教が終わり、しばらくしてから俺達をここまで案内してくれた執事が部屋に入る。執事は優雅に一礼してから口を開いた。
「サルナ王国の方達がお見えになりました」
そして大国、サルナ王国の面々が部屋に入って来る。人数は六人で上質な衣服に身を包んだ明らかに位が高い男。その男の両脇に目を引く容姿端麗な凛とした顔立ち、碧眼で金髪の美人な女性。そして帯剣した男。その男を俺はどこかで見たような気がした。
残りの三人は護衛と思われる騎士だ。
「お初にお目にかかります。ラウフェス・ラーグナー女王陛下。私はサルナ王国にて外交官を務めております、ダイア・ジョイルと申します」
ダイアという外交官は胸に手を当て腰を曲げ敬意をこめて一礼する。そして両脇に居た二人も同じような動きをした。
「サルナ王国五英傑が一人、レイアと申します」
「同じく五英傑が一人、エイジです」
数席だった三つの椅子に名を名乗った三人が座り、いよいよニ国の会談が始まった。
まずは帝国との戦争について話していた。
今回はこちらが侵略を防ぐ戦いだったため賠償金や土地なんかは手に入らない。だが救援に駆けつけてくれたサルナ王国に何もしないというわけにもいかないので、ラーグナー王国からは魔道具二百点と金貨五百枚を贈ることとなった。
「この程度のお礼しか出来ず申し訳ない」
「何をおっしゃいますか女王陛下。この国の魔道具の性能はどこの国が作っても届かない程高度な技術です。それを進呈してくださるだけでも大変嬉しいですよ」
会談は主に女王とダイア外交官の二人の会話で進められている。
「もう少し何か要求してくるかと思っていたけどな…」
気になったことを何気なく俺は口に漏らした。数こそ多いがお金と魔道具の二つだけ。助けに来た側だったらもっと無理を通そうとしてもおかしくないと思った。
俺の言葉に隣のルリナが答えてくれた。
「サルナ王国にとって戦争の救援に対する礼はどうでもいいのよ」
「なんでだ?」
俺はルリナの言ったことに聞き返した。
「今までこの国は二つの陣営、フォルネ帝国とサルナ王国が争っていた時もずっと中立を謳っていたのよ。それが今回サルナ王国に流れようとしている。サルナ王国はね、魔道具や金品なんかよりも私たちの国そのものを自分達の陣営につけたいのよ」
「だから戦争に関しては何も要求しないってことか」
「そうよ。多分今からがこの会談の本番ね」
ルリナからの話を聞いた途端、戦争の話がひと段落して次の話題へ進もうとした時の空気の変化に俺は気づいた。
さっきまで緩やかな空気が緊張感に包まれ始める。
「では我々サルナ王国とのこれからについて話したいのですが…」
張り詰め出した空間の中で言葉を発したのはダイアだ。そしてそのまま続きを言う。
「同盟を結んだ中ですし互いに使者を送るというのはどうでしょうか?」
「一つよろしいでしょうかダイア外交官」
ダイアの言葉に反応したのは女王ではなく、眼鏡を掛けた黒髪黒目の七紋家の魔女だった。
あの席は確かソフィア家、知恵の魔女だったか。
知恵の魔女からは理知的な印象を受けた。この会談はこの国のトップ達によるものだから七紋家の発言も許されている。
「なんですかな?ソフィア殿」
「我々はあくまでも対等の関係ということを忘れないで下さいね外交官?」
圧を乗せた声音で外交官に釘を刺すように言った。
それを聞いたダイアは大きくは表さなかったが顔が引きつったのを俺は見た。
「そ、それは私めも重々承知しておいますよ。で、では一定期間使者を送り、帝国に対する情報交換や他にも我が陣営に所属する各国との会合などその使者を通して行う…というのはどうでしょう?」
しばらくの沈黙の後、女王は了承の返事をして会談は終わった。使者に関してはサルナ王国が帰国する時に一緒について行くこととなった。その人選も追って伝えるという話だ。
サルナ王国の面々が退出した後も女王から人選についての話をここでこのままするということになった。
「さて、サルナ王国への死者だが…、我が国の威信の為にも七紋家に任せようと思う」
女王がそう言うと、さっき発言した知恵の魔女が挙手をした。
「どうしたマイア殿?」
「はい。その人選について意見させてもらいたいのですが、よろしいでしょうか?」
「申してみよ」
「はい。その人選ですが我々当主陣は先の戦争の後処理で動けないというのが現状です。そこで三家からそれぞれ次期当主を向かわせるというのはどうでしょうか?」
三家ということは三人使者に送るということか。しかし何故次期当主なんだ?
動けないにしても仕事を任せられる人ぐらいいそうなもんだと思うし。
女王も怪訝そうに顔を歪ませる。そして俺と同じで疑問を抱いたのか、知恵の魔女に理由を聞いた。
「何故次期当主で三人なのだ?」
その質問に知恵の魔女マイアは淀みなく答える。
「はい。まずこの戦争の援軍として向こうは五英傑を送りました。それも二人もです。これは明らかに我々を味方につける為に確実に助けられるようにだと考えます」
この言葉を聞いてこの場の誰もがうんうんと頷いて聞いていた。
大丈夫、俺もちゃんと理解している…多分。
マイアさんは更に続ける。
「このことからサルナ王国は何が何でも我々を取り込もうとしています。そこで三人の次期当主です。ここで次期当主を送るのは格の違い、その高さを示す為です。戦闘能力や使者としての仕事の能力、それらを次期当主が飛び抜けた能力で行えば今の現当主の力もそれ以上だと思うでしょう」
そこで俺はこのマイアという知恵の魔女がとんでもない策士だと震えた。
彼女は次期当主を使者として送ることで、その彼女達が飛び抜けた仕事を熟せば、それを使者として送る現当主達の力が恐ろしく大きいと考える。
それだけで魔女の国の力というのを示すことが出来る。それも戦後処理をしている現当主達が動かなくていいというコストの削減も行なっている。
名案とはまさにこのことだろう。
「その三家はもう決めてあるのか?」
「はい。イーラ家、我がソフィア家、そしてインヴィディア家からがいいのではと」
そして女王はその提案を受け入れてその三家の次期当主が使者としてサルナ王国に向かうことが決まった。
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