33話 戦争終結
隕石のような大きな塊が全てを飲むこむかのように容赦なく襲う。
多くの兵が狼狽え、悲壮な顔をしていた。とても防ぎ切れる攻撃だとは思えなかった。ただ呆然とする中、女王が隕石の落ちる中心に立つ。
「へ、陛下…」
横にいた騎士の一人が震えた声で女王を呼ぶ。自ら落下地点の中心に来た王を心配する騎士の忠義に女王は感心した。
「よい、皆の者下がっておれ」
「し、しかし…、いくら陛下でも」
「私は魔女を統べる王だぞ?その力はお前たちが一番よく知っているはずだが?」
何が可笑しいのかとでもいうような笑みをした女王はここにいる誰よりも勇猛な姿だった。
「さて、あの無粋なものを消すとするか」
一瞬にして女王のもとに多くの魔力が集まり、同時に周囲から渦に吸われるように何かが集まる。
それは才能のある者にしか見えないといわれる"妖精"と呼ばれる存在だ。
これはラーグナー王家の血統にあたる能力の一つ。王家の者の大半は妖精を見ることが可能だ。
妖精は魔法や魔力の根源である魔素に一番密接に関わっている存在で未だに謎が多い。しかし妖精はごく一部の者にしか見えず、姿が見えない者は関わることもできない。しかし姿が見える者は妖精と契約を結んでその力を借りることが出来る。
他の魔法使いよりもワンランク上の魔法を使うことが出来る。それがラーグナー王家の最大の特徴であり強みだ。
「我、ラウフェス・ラーグナーは故国を救う為にその力を行使する。守護の精霊たちよ、契約のもと我に集え」
女王ラウフェスのいる地面から光の粒子が上へと風船が空へ飛んでいくかのようにゆっくりと舞う。
「俺もいっちょやるか!」
女王の神秘的な姿を見たエイジもちょっとした対抗心を燃やして胸の前で剣を構える。
「魔剣"クロセル"!」
エイジの持つ魔剣"クロセル"。氷系統の能力を有する魔剣だ。輝く刀身に鍔は黄金に光る豪華な意匠だ。そして持ち手の柄に紐で結んだ蒼く澄んだ宝玉がある。
「性質変化、限界増加、魔剣"イフリート"!」
エイジの持つ魔剣に結ばれた宝玉が蒼から燃える紅のような真っ赤な色に染まった。
その刀身からは炎が吹き荒れる。
「ボルケイノ!」
放射状の炎は満遍なく光の隕石を覆う。その出力は並の戦士では骨すら残らないほど強烈な威力だ。
炎が消えると光の隕石は風化にあったかのようにその大きさは小さくなっていた。
「精霊の盾!」
そこに幾重にも重なった魔法障壁が出現する。精霊の力を借りた女王の魔法だ。
光の隕石はエイジの放った炎に揉まれてその大きさは削れたが、それでもここにいるほとんどは殺せるだろう。
いくつかの障壁はガラスが割れるように甲高い音を出しながら砕ける。しかし光の隕石は障壁を全て破壊しき切ることなく途中で消えた。
――――――――――――――――――――――
落罪が防がれる光景を目の当たりにした帝国兵は皆きょとんとしていてた。
「何故だッ⁈」
静まり返った本陣で皇帝の慌てた声だけがやけに響いた。頭を掻き毟り、事態を飲み込むことができていない。
「あの魔女どもッ…、粗悪品を売りつけよったのか!クソッ!おいッ!今すぐ次弾を放て!」
わめき散らし怒りを周囲にばら撒く皇帝は二発目を放とうと兵士に命令する。
「む、無理です陛下!魔術師たちの魔力はもうほとんどありません!」
たった一発だがその消耗は驚くほどに大きく、勇者たちも同様だった。
「クソッ…、何故こうなる?兵器の威力はこの目で見ていた。あれを何故防げるのだ!」
皇帝が中立の立場にあった魔女の国に攻めた理由はいたってシンプル。それは単純に勝てる算段がついていたからだ。でなければ正規の貿易で魔道具などはもう手に入らない。攻めてきた国に便利な魔道具を流す理由なんてない。
そしてこちらが攻めれば当然魔女の国はサルナ王国側に必ずつく。それでサルナ王国が援軍を寄越せばあの兵器"落罪"で一網打尽にできた。
完璧なはずの計算が狂っていき、皇帝は酷い焦燥感に駆られ顔には青筋としわが浮かぶ。
「皇帝陛下!」
荒れる皇帝に声をかけたのは勇者組にて後方で指揮官として動いていたスズコだった。
「ここは一度撤退すべきです!」
真っ直ぐはっきりと皇帝に進言したスズコに周りの兵士たちは騒つく。
「お、おい…。あいつ陛下に言いやがった…」
「今の陛下に言っていいことじゃないだろ…」
ちらほらと兵士たちはスズコが皇帝の怒りに触れたと呟く。
そして皇帝アルドラは獣も萎縮するほどの鋭い視線をスズコに向けた。
「いくら勇者といえど…、頭が高いぞ。余にみすみす敗北を認めろと言っているのか?」
冷たい怒気が皇帝の体から溢れていると思うほど、彼の怒りは頂点に達していた。
「敗北ではありません。向こうがこちらの猛攻を凌ぎ切っただけのことです。別に我々の国が無くなったわけではありません。皇帝陛下…。どうかより良い判断を」
一切目を逸らさずスズコは皇帝に言った。凛としたその態度、臆さないその心意気を周囲の兵士たちは見ていた。
場が静寂に包まれ皇帝は大きく声を張り上げた。
「全軍!帰還の準備をしろ!」
帝国軍は撤退を決定した。
帝国軍の撤退を魔女軍は追撃することはなく、ディラー平原の戦いは幕を閉じた。
なお、両軍の被害は帝国軍が当初いた数から半分近くが戦死。斥候部隊は勇者三名と隠密活動に長けた兵士で編成されたが、勇者二名を残し兵士は全員戦死。勇者一名は魔女軍にて捕虜にされた。
魔女軍の全体的被害は大きくはないが、銀の魔女率いる部隊は銀の魔女と部隊長が重症。勇者による大打撃を受けた。
しかし魔女軍についた一名の勇者が帝国の勇者を抑えて被害の拡大を阻止。
この戦争は世界の勢力図を変えたものとなった。
ここで一章の完結になります。
読んでくださった方々ありがとうございます。
最後の方主人公の出番がなかったですが次回よりしっかりと出る…予定です。
次回より二章に移ります。ブックマーク登録やポイント評価、感想などぜひぜひお願いします!




