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銀の魔女の勇者  作者: 星川ぽるか
一章 帝国の勇者と魔女の勇者
32/60

28話 ディラー平原の戦い その5

 ショウキが駆けつけて現場にいる帝国軍は希望の眼差しで彼を見た。


「ショウキッ!」


 ショウキに駆け寄ってきたのは赤毛の女の子で先に援軍に来たアイだった。


「アイ、無事だったんだな」


 ショウキは仲間の無事に心から安堵した。エイナによる銀の魔法を遠目で見て、ショウキは急いでやって来たのだ。その時僅かだが魔法は発動していたため、ショウキの心中は穏やかとは程遠い状態だった。


「ショウキ、あの銀髪の魔女と魔剣を持っている騎士には気をつけて」


「ああ、わかったよ。少し休んでてくれ。あとは俺が片付ける」


 そう言ってショウキはアイに微笑み、目の前の敵に歩みよる。


 仲間を殺されかけたショウキはその怒りを闘志に変えて燃やしていた。



「エイナ様、あの男…」


 ゼイドはエイナに歩み寄り警戒の色を濃くした。先ほどの魔法で敵はほぼ殲滅できたはずだった。その魔法をどういうわけか吹き飛ばしてしまったのだから。


「分かってるわゼイド…、あの力にあのハンサム具合、坊やの言っていた勇者の中でも最強の男って奴ね」


 怒気を孕んだ目で一歩、また一歩と距離を詰めてくるショウキ。


「あなたたちを倒せさてもらいます」


 聖剣アスカロンの切っ先を向けて聖剣に魔力を込める。

 それに対して同じようにゼイドも魔力を魔剣アポロンへと込めた。


「あまり図に乗るなよ、小童」


 双方共に充分に溜まった魔力を技として繰り出す。


聖斬鉄(せいざんてつ)ッ!」


紅炎(プロミネンス)ッ!」


 ショウキは光の塊を斬撃という形で飛ばした。その密度は高く、光の渦を無理矢理押し込めた斬撃だ。

 それに対してゼイドは深紅に染まった接し何万度という高温の炎をぶつける。


 互角と思われた二つの技はゼイドが押し負けて大ダメージを受けた。膝をつき、胴体が斬りつけられ、なぜがいたるところから血が流れていた。


「クソッ、これが勇者の力か…」


 ただの斬撃ではなく、無数の斬撃が閉じ込められた塊だったのだ。

 技と技がぶつかり減衰した一撃で隊長であるゼイドを追い詰め、無傷のショウキはそのターゲットをエイナへと移す。


「次は銀の魔女、あなただ」


 ショウキがエイナに斬りかかろうとした時、上からボールのような雷の塊が降って来た。


「くっ!」


 ショウキはそれを避けてエイナとの距離を大きく開けた。


「大丈夫、かあ様!」


「ルリナ…」


 雷の魔法を打ったのはルリナだった。


「あいつの相手はあたしがするわ。だからかあ様は全体の指揮をお願い!ゼイドがあれじゃあ何もできないわよ!」


「あなたでは無理よ。それに私以外であれをどうにかできることができるの?」


「で、でも、いくらかあ様でも…」


「だからあれは二人でやるわよ。ついて来れるわよね?」


「は、はい!」


「じゃあ私も微力ながらお手伝いしましょう」


 ゼイドは笑って何とか立ち上がる。


「あらゼイド、まだ動けるの?」


「なーに、まだいけます。問題ありませんよ」


 三人の強者がショウキの前に立ちはだかった。


 そのやり取りをショウキは邪魔することなく、傍観していた。手を出さなかったわけではなく、二人の親子から何か感じるものがあったのだ。


 しかしショウキは頭を振り考えるのをやめる。それは彼女たちと戦う時、最後の最後で邪魔になるものだと直感した。


「俺を止められると?」


「あら、随分と自信があるのね。そういうの嫌いではないけど…、誰を相手にしてるか分かってるのかしら?」


 ショウキは加速し、三人との距離を一気に詰める。まずは二人の魔女から潰そうとした。魔女の遠距離攻撃を嫌がったからだ。

 しかしすかさずして間にゼイドが割り込む。


「素直な動きだ」


 そして互いの剣が交わり合う。ショウキは上段から振り下ろし、ゼイドはそれを水平に構えた剣の腹で受け止める。ゼイドは力で押し返してショウキを仰け反らせた。


 二人の魔女はその隙を見逃さない。


「「銀の蛇(シルバースネーク)!」」


 手から銀色に輝く二匹の蛇がショウキの横側から食らいつき、蛇の牙がショウキの腕へと食い込んだ。そのまま二匹の蛇はショウキの体を縛る。拘束に重きを置いたこの魔法は勇者であるショウキでも簡単には振りほどけないでいた。


螺旋の太陽(アトミック)ッ!」


 そこへ更にゼイドが追撃を仕掛ける。渦巻く螺旋の炎が剣に纏い、その凶悪な熱がショウキへ向けられた。


 コンビネーションに狂いはなく、完璧な流れだった。だが、それでも勇者には届かない。


「"英雄化"」


 目を閉じたくなるほどに眩しい光がショウキを包む。その光景に攻撃を仕掛けたゼイドも目を閉じてしまうが、剣だけは振り抜いた。


 再び目を開けると髪が金色に変わり、白金の輝きをその身に宿したショウキが片手でゼイドの剣を受け止めていた。

 縛られていた銀の蛇もいつの間にか消えており、ショウキの魔力は尋常じゃないほど高くなっている。


「そろそろ、こっちから行きますよ?」


 ショウキは聖剣アスカロンをゼイドへ向けて横に一閃、その剣速は達人レベルにまで達していた。

 ゼイドはそれに反応できずに斬られた胴体から血を吹き出し、地面へ倒れた。


風穿孔(ウィンドウェア)


 エイナが風で出来た鋭利で巨大な槍を五本作り出し、ショウキへ向けて放つ。先ほどのショウキの剣速よりも速い速度のこの魔法はエイナが更に魔力を込めて洗練されていた。

 それほどスキル"英雄化"によって戦闘力が跳ね上がったショウキを危険視したエイナ。

 しかしショウキはその五本の槍を全て聖剣で撃ち落とす。


「流石は七紋家。帝国兵のみんなが恐れるわけだ。今まで見た魔法で一番速かったですよ」


 ショウキは手を前に突き出してその手の平から魔法を繰り出した。


聖光の一線(ホーリーライン)


 真っ直ぐ飛び出たのは白く清らかな極太の光線。光属性の上位にあたる聖属性という希少属性の使い手であるショウキが初めて習得した魔法だ。初級魔法といわれても誰も信じない程の高威力魔法と化した光属性の魔法。


「渦の盾ッ!」


 咄嗟にエイナの前に出て水属性の盾を出したルリナ。円を描いた渦が光線を吸い込むようにして受け止める。渦巻く螺旋の盾は中心であらゆる攻撃を飲み込み殺す守りの魔法だ。しかし今にも渦は弾けて飛び散っていきそうになっていた。


「下がりなさいルリナッ!」


「うるさい!」


 魔力を込め続けて渦を維持したルリナ。彼女とってどれくらい長く感じた時間だろうか。ルリナは半分以上の魔力を使ってショウキの攻撃を防ぎ切った。


「や、やった……」


 短距離を思いっきり走ったようにルリナは肩で息をしていた。その疲労感は顔を見れば分かるほどにだ。


 そこへ狙い澄ましたかのようにショウキが懐へ飛び込んだ。


「終わりだ」


 聖剣アスカロンを目の前の少女に向けて突き刺そうとした。そしてルリナの視界に真っ赤な血が映る。自身の血、ではなく彼女の瞳に映る光景は母エイナが貫かれる姿だった。


「かあ…様?」


「がはっ!…逃げ、な、さい…。ルリナッ…」


 ルリナがショウキに突き刺される瞬間、背後から飛び出してエイナはルリナを庇った。

 ただただ呆然とするしかなかったルリナの思考は真っ白になっていた。


 エイナは力無く倒れ、ルリナも腰を抜かしたように地面に座り込んだ。


「まずは…銀の魔女。そして、残るは鮮血と慈愛だ」


 ショウキはゆっくりとルリナに近づく。


「これで…、終わりだ」


 ショウキは震えそうな手を力を入れて止める。ここに来るまでも敵である魔女の騎士達もその手にかけた。今更の罪悪感が密かにショウキを襲っていた。

 そしてそれを振り払うように剣を頭上に構えて振り下ろす。


 そこへ剣と座り込んだルリナの間に一人の男と一本の刀が入り込んだ。


「…無事か、ルリナ?」


「……カ、ナタ?」


 やって来たのは彼女の従者となった一人の男。強化状態である銀色の髪に変わったカナタだった。


「こいつは、俺が相手をする」


 憤怒を(たぎ)らせる魔女の勇者は目の前の金髪の男に殺意を向けた。


「ッ⁈…カナタ!」


 驚きを隠せないショウキは、さっきまでの感じていた罪悪感は全く消えていた。


 聖剣を持つ帝国の勇者と妖刀を手にした魔女の勇者、二つの刃が再び激突する。


読んでいただきありがとうございます!

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