26話 ディラー平原の戦い その3
俺は刀を構えて上段から振り下ろす。
ケイタは槍を横に構えて俺の刀を受け止める。
そのまま体重を乗せて力を加えるが押し切れない。
ケイタは右足で俺の腹を蹴り自らが後方へと宙返りしてまた距離を取った。今のは距離を作りたいだけの蹴りだ。力もほとんど感じられなかったしな。
「へッ!何飲んだかは知らねぇけど、せいぜいがC級程度の力だな。最初は確かに驚いたけど大したことねぇよ!」
ケイタは余裕の態度を取る。結構慌ててたと思うんだが、虚勢を張っているようにも見えない。
(やっぱりイマイチ決め手に欠けるな…)
俺は低い可能性ながらもあることに賭けることにした。
俺が刀を構えるとケイタも槍を向ける。
「カナタッ!お前、少しはやるようにはなったけど俺にはついてこれねぇ!」
ケイタのスキルは確か…"槍使い"と"迅速"。"槍使い"はそのままだが、"迅速"はあいつの起こすアクションが全て途轍もなく速くなるというスキルだ。
そしてあいつの適性属性は雷を纏った攻撃をしてきたところを見るとおそらく風属性の派生、雷属性だろう。
ケイタは槍を片手で持ち胸を大きく開いて明らかな勢いをつけていた。その姿は陸上選手の槍投げのようだった。つまり、ケイタは今俺に向けて投擲をしようとしている。
「避けられるんなら避けてみろよッ!"ボルトレイジ"!!」
雷の布を多大に纏いバチバチと電気が迸る。その槍の形状をした雷をケイタは思い切り投げた。
俺が見えたのはケイタが投げたところまでで、実際の攻撃を目で捉えることはできなかった。この攻撃を目で捉えられればショウキの動きだって止まって見えただろうな。
当然、俺はケイタの投擲を防ぐことは叶わなかった。
いや、今に限っていえば防げなくてよいのだ。むしろ攻撃を受けることが重要だった。
気がつけば俺の左半身、特に上半身の部分は消し炭になっていた。体のほぼ半分近くが虫食いにやられたようになっている。
この時初めて痛覚が消えたような奇妙な感覚を体験した。そして俺は地面へ倒れる。もう力が入らず、目の前に落とした妖刀に必死に手を伸ばす。
「あれを受けて体が吹っ飛んでんのに…、まだ動けるのかよ」
手を前にかざすと投擲した槍はケイタのもとへ帰ってくる。まるで投げたボールを取ってきた犬のようだ。
カナタのそのしぶとさはケイタも思わず口に出てしまうほどのものだった。
「とりあえず…今度こそ終わりだ。念のために刀は回収させてもらうぜ」
ケイタはそう言って今に掴みそうなカナタの妖刀を取り上げた瞬間、とてつもない脱力感と吐き気が彼を襲った。
「な、んだよッ…これッ」
膝をつきどんどんと顔が青ざめていくケイタ。
「力、が…抜ける…」
ケイタは手に持っていた槍と刀を手放しその意識を失った。
これが俺が賭けた作戦。武器の回収ということでケイタに絶咸淙を触れさせることが目的だった。
あれは何の耐性もない奴が触れればそれだけで命が危ない。現に勇者であるケイタはなんてことなく倒れた。
これで障害は突破した。すぐに目が覚めるとは思わないが早くショウキを追いかけた方がいい。
だが俺の体は言うことを聞かず動かない。それもそうだ。何せ体の上半身半分は吹っ飛んでいるのだから。そして視界に靄がかかり、意識が掠れる。
(クソッ…!早く、行かないと…)
攻撃を受けた後に倒れて武器を拾わせる。ケイタの攻撃の度合いをもっと考慮すべきだった。
そう思うも虚しく、俺も気を失ってしまった。
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カナタがケイタと戦っていた頃、時を同じくしてある場所でも戦いが起こっていた。
一人の女に今も果敢に攻める屈強な騎士が一人。
騎士団長ガルダは皇帝から賜った一振りの魔剣を手に魔女の国で一、二を争う戦力の鮮血の魔女と対峙していた。
「はぁッ!!」
ガルダはイーラ家現当主、セリヌ・イーラに向けて烈風を放つ。彼の持つ魔剣"風神"、風系統の能力を有する高位の魔剣だ。それから放たれた烈風は硬い岩をも切り崩す。
しかしその攻撃にも動じない赤い瞳を持つ、ブロンドの髪をした魔女。敵戦力の中でもガルダは魔女の国も危険視していた。だからこそ彼女をぶつけた。
セリヌは魔法障壁を展開、それだけで烈風を防ぐ。それを読んでいたかのようにすぐさまガルダは障壁を斬りつける。
魔法障壁は脆く簡単に砕かれた。
「終わりだッ!」
そしてセリヌの首目掛けて剣を振る。
「転移」
ガルダの視界からセリヌが一瞬で消える。セリヌはガルダの背後へと移動していた。
「積極的なのは嫌いじゃないけど、お姉さん…おじさんは無理かしら」
「"旋風斬"!!」
ガルダは背後に移動したセリヌに向けて剣を振り風の斬撃を飛ばす。当たれば刃物よりも鋭い切れ味の斬撃だ。
「鮮血の十弾」
しかしセリヌの指先から放たれた十個の銃弾のような弾が風の斬撃を相殺する。
互いに冷静な状態で当たれば死の攻撃を繰り出す。
「いつになればその首を貰えるのか…」
「それは無理だと思うけれど?」
二人の強者の戦いはまだまだ終わりを見せなかった。
そしてその近くで援軍に駆けつけたダイキと、セリヌの娘シエラが戦っていた。
彼女も母同様、赤い瞳を持ち八重歯が特徴な長い金髪の少女だ。カナタより背の低いルリナのその更に背が低い。
「どうしたッ!勇者とはその程度か?」
彼女は身の丈に合わない真っ赤に染まった槍を携えている。
ダイキは大剣を手にしているが、それでも華奢な体躯の少女に防戦を強いられていた。
「ちくしょッ!魔女に武器を扱う奴がいるなんて聞いねぇぞッ!」
悪態を吐くダイキ。攻めるのが彼の戦術なだけに苛立ちが溜まりに溜まっていた。
「私は魔女の中でも数少ない武闘派なのだッ!」
「クソッ!もう後のことは考えねぇ!スキル"狂戦士"ッ!!」
ダイキの体を赤黒いオーラが包み、彼の身体能力は大幅に上がる。
「いくぜぇッ!!"剛剣"ッ!」
大剣を大きく上から振りかぶりシエラへと力強く叩きつけるがそれをシエラは難なく回避する。
地面は亀裂が入り、表面は砕けて石飛礫が舞う。
「能力は上がってるが、繊細さが欠けたか?面白いな、帝国の勇者よッ!」
笑うシエラ、しかしその笑みは弱者に向ける強者故に出た余裕の笑みだ。
「けど、それはスキルのことであって決してお前自身じゃない」
シエラは槍を頭上に投げると槍は赤く煌めき、そして弾けた。
「鮮血の雨!」
槍が弾けた上空から広範囲に渡って血の雨が降る。
その雨は全てが鋭く尖った細い針のようなもの。雨のように容赦なく降っているだけの凶器だ。
「ぐおぉぉぉッ!!」
頭を守りながらダイキはその場から動けない。彼の体を無数の赤く染まった針が突き刺さる。
その攻撃はさながらゲリラ豪雨のような、慈悲のかけらもないものだった。
ダイキはその圧倒的な攻撃の前に敗れた。
「勇者の中でも指折りとか聞いてたけど、大したことないな。あんなのスキルにしか頼っていない脳筋野郎だ」
鮮血の魔女軍と交戦している中央部隊。帝国でも切っての使い手の騎士達はトップであるガルダが鮮血の魔女であるセリヌに抑えられた上に、先ほどのシエラの広範囲攻撃でその数を大きく減らした。
「シエラ、ガルダは私に任せてあなたは他の援護に回りなさい」
「母上!独り占めは良くないです!」
好戦的なシエラは強者であるガルダとも戦いたいため、母親の独占を見過ごせなかった。
「勇者はあと28人もいるのよ?それをあなたに全部あげるわ」
「ぐぬぬぬッ…。わかった…、今回はそれで手打ちにする!」
しかしそこはやはり母親といった感じで、娘を上手く誘導して彼女は強者との対決を守り抜いた。
「さて、まだ踊れるわよね。団長さん?」
逃がさない、そういった笑みをセリヌは浮かべる。
「参ったな、これは…」
魔女のしつこさ、それにガルダはうんざりしてしまった。
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