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銀の魔女の勇者  作者: 星川ぽるか
一章 帝国の勇者と魔女の勇者
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20話 慈愛の魔女

 現れたのは美しい少女。翡翠色の瞳の魔女だった。


「き、みは…?」


「すぐに治療するから待っててね」


 優しく声をかけてくれた彼女は白虎へと近づいていく。


「流石はAランク…、そう簡単には倒れないわね」


 白虎は自身の攻撃をもろに受けていたのにケロッとした様子だった。しかし明らかに少女を警戒していた。


「様子を伺うあたり他の白虎よりも賢いわね。それに雷系統の魔法は効果薄そうだし…、燃やすわ」


 両手を前に突き出すとそこから魔法陣が現れる。


「フレイムパレード」


 そして白虎のいた位置に魔法陣が浮かびそこから炎が噴水のように噴き出した。

 白虎は避けるがその先にも炎が噴き出す。断続的に続く炎の噴水に白虎は避けるだけしかできなくなっていた。

 そしてここで大きく宙に飛んで避けた白虎に彼女は指先を真っ直ぐ向けた。

 白虎は大きな隙を作ってしまってことに気がつき少女が仕掛ける前に攻撃をした。それはまたしても三つの尾を使い魔力を溜めた攻撃だが、さっきのボールのような塊とは違い極太の帯電した光線だった。


 その攻撃に慌てる様子はない少女。すると俺の視界に広がったあの緑色の魔法陣が展開された。


慈愛の反撃(アンチカーリス)


 その電撃の光線は魔法陣に当たるとまたしても跳ね返り、白虎は撃ち抜かれてそのまま力無く落下し燃え盛る炎に焼かれた。

 その光景を俺は黙り込んで見ていた。


「君、大丈夫かな?」


 少女は少し前屈みに俺の前に立っていた。


「え?ああ、うん…平気」


 出会い頭に言葉を詰まらせた。まさかのコミュ障再発に俺の心は泣いた。


「良かった。それじゃあ今から治療をしてあげるわ…ってあれ?なんか最初見た時よりマシになってる?」


 傷口が僅かに閉じ始めていた俺は慌てて誤魔化すことにする。


「ああいや…血が沢山出たってだけだよ。傷も大きなものじゃない…さ」


 噛まれた時はドリルで穴を開けられたみたいに広がってたのにな。


「でも怪我はしてるし…、治してあげるわね」


 そして彼女は俺の肩口にそっと触れて魔法を唱えた。


「ヒール」


 帝国の王宮を出たあの日にクラスでも美少女だったリカに怪我を治してもらったことをふと思い出した。

 その時は治す箇所を間違えていたんだが…


 そして帝国にいる勇者―クラスメイト達のことが頭をよぎる。彼らは今何をしているのかと。

 俺はもうあいつらとは敵対する関係になっているから何をどう思ったところで関係はないんだけどな。



「はい、終わり」


 笑顔で少女は治療を終えた。

 思い(ふけ)っていると治療が終わったことに気がつく。


「あ、ありがとう。おかげで助かったよ」


「ふふ、どういたしまして」


 柔らかな微笑みが俺を襲う。彼女の纏う雰囲気が物語っていた。この子は…いい子だと。


 少女の格好はルリナの格好ととても似ていた。

 黒のローブを羽織り頭にはとんがり帽子を被っていた。


「魔女の人…かな?」


「ええそうよ。私はこの樹海に用があって来たのだけれど…。君は冒険者なのかな?」


「いや、俺は冒険者じゃないよ。俺もここに用があったんだ」


 やはり彼女は魔女だったか。ルリナと服装が似てたからもしやとは思ったが…、それにしてもちょっと強くないか?だって白虎ってA級だよ?それがああもあっさりと…。


「ところで君は?」


 今回助けてもらった恩人の名前を知らないというのはどうかと思い、俺は声をかけた。

 決してお近づきになりたいとかそんなんじゃない…とは言えそうにないな。


「ああ、私は―――」


 少女がそう言いかけた時、俺が白虎に飛ばされた方から長い銀の髪を揺らしながら息を上げて駆ける人影があった。青い瞳がこちらを真っ直ぐに見ているのが分かる。


「カ、カナタッ!」


 必死で追いかけて来たルリナだった。

 ルリナは俺のすぐ側まで来ると心配そうに声をかけてくれた。


「…あんた何したの?」


「はい?」


 急に何を言ってるんだこいつは?


「だって白虎がこっちに来なかったのってあんたが足止めしてたんでしょ?挑発とかしてさ」


 なるほどな。まあ俺の怪我の様子から見ても持ち堪えられるとは思えなかっただろう。


「ああいや、実はそこにいる人に助けてもらったんだよ」


 俺は少女がいる方へ視線向けるとルリナも振り返る。


「久し振りね〜、ルリナ」


 軽く手を振り、微笑む少女。


「ティナッ!!」


 どうやらこの二人は面識があるようなだった。見た目的にも同年代だろう。しかし一応国では貴族の令嬢のようなルリナにこうも馴れ馴れしく声をかけられる辺り彼女の家も位が高いのかもしれないな。


「もしかして泉の管理に来たの?」


「そうよ。周期的に今日だからね。それで泉の近くを歩いていたら白虎に襲われてるのが見えたのよ」


 泉の管理というのはおそらく慈愛の泉のことだろう。ティナと呼ばれた少女は一つ咳払いをする。


「改めて、私はティナ・カリス。ラーグナー王国の七紋家がひとつ、慈愛の魔女と呼ばれているわ。よろしくね」


 やっぱり七紋家だったか。ルリナと親しくしてたしそうじゃないのかとは思っていたが…


「君の名前を教えてもらえるかしら?」


「俺は、カナタだ。ルリナのところで最近家臣になった者だよ」


「私の従者でしょ」


「何も変わってねえよ」


 ちょっとしたやり取りのあと、ティナは結構食い気味に俺へ詰め寄って来た。俺の手を両手で掴み程よく膨らんだ胸の感触が伝わってくる。


「き、君があの!一週間前にやって来た勇者の人⁈」


「そ、そうだけど…」


 なんだ?この急なテンションの上がりようは?

 俺が若干引いてるのも全く気にした様子はなく、ティナは益々興奮した。


「銀の魔女が取り込んだ不死身の男にして裏切りの勇者ね!フォルネ帝国に嫌気が刺して他の仲間だった勇者達の説得も聞かず単身で王宮から脱出したあの!」


 そんな風に言われてるのかよ。間違ってないけど、なんだろ…別人に感じる。それ俺か?


「ま、まあ帝国や他の勇者とは縁を切ったけど…。あの、なんでそんなに盛り上がってるの?」


 ティナはその翡翠の瞳を輝かせて、夢を描く少女の顔だった。彼女の中で勇者というのはきっと英雄のように思ってるのかもしれない。


「だって銀の魔女お抱えの勇者に借りを作れたのよ?こんな美味しいこと中々ないわ!」


 ティナという慈愛の魔女。俺を助け傷を治し、優しく包むような微笑み。正直惚れそうだった彼女に俺が軽く幻滅したのは仕方ないことだったと思う。




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