19話 深域と翡翠の瞳
更新が少し遅くなりました。
すいません。
今回は少しいつもより長いかも?しれないです。
"魔の樹海"はある一定の領域を深域と呼ぶ。
その深域は魔の樹海の中心から約5km以内を指す。深域の魔獣はAランク以上の魔獣しかおらず、その強さは深域外の魔獣を軽く凌駕する。
魔素というこの世界にはどこにでもある魔力の根本的な元素。その魔素の濃度が異常に高いことが魔獣の強さに起因しているといわれている。
化け物が闊歩する深域の中心、そこには闇のように暗い樹海には似合わない清く透き通る綺麗な泉がある。
ある一人の魔女が手を加えた癒しの効能がある"慈愛の泉"。俺とルリナはエイナさんからこの慈愛の泉を回収してくるよういわれた。それが帰ってきてもいい条件として出されたのだ。
そしてこの魔の樹海に入ってから明日で一週間が経とうとしていた。
「じゃあ今日はここで野宿しましょう」
ルリナの提案に俺も頷く。
もう日が沈みかけ、樹海の深域まであと僅かの場所で野宿をすることにした。
ルリナが鞄から一つの卵の形をした魔道具を取り出す。それを床に置くと卵型の魔道具は真ん中が上と下に分かれて中にある青色の結晶が光る。
そこから一定の範囲に薄い水色の結界が張られた。
これは結界を張ることの出来る魔女お手製の魔道具だ。魔除けの術式も組み込まれている優れものらしい。これを張ることから野営の準備は始まる。
予め用意していた薪を出してルリナが火をつける。指先から豆粒ほどの火の玉を発現させてそのまま指で弾く。弧を描くような軌道のあと薪に当たった火は思いのほか勢いよく燃えた。
そして手慣れたようにテキパキと手分けして準備を済ませる。辺りはすっかり夜闇に包まれ樹海の不気味さは一層にも増す。焚き火の明かりが何よりも安心した。
「できたぞー」
今夜の夕飯は俺が作った。日本ではたまにしか料理をしなかったからレパートリーは少ない。
ちなみに今日はパンにスープという無難なものだ。ちなみに味噌汁は得意料理だ。しかし味噌なんてこの世界にはないし、何よりも洋風だからな。
スープはコンソメスープのようなものを作った。コンソメがないこの世界だが似たようなものはあったからそれを使った。ちなみにそれはコンソメの味がする葉っぱだ。
そのまま夕飯を済ませた俺とルリナは明日の予定について話し合った。
「明日は一気に中心に向かうわよ」
「深域の魔獣は無視するのか?」
「今の私とあなたじゃ一匹倒すのに精一杯よ。それも深域の手前のやつでね。泉の近くにはもっと強い魔獣がいるし、得策とは思えないわ」
俺とルリナはこの一週間近くでそれなりに戦えるようにはなった。
ルリナは最初ここに来た時からほとんど空へ逃げていたが、三日目にサンバードという太陽の光を浴びている間能力が高くなるという魔鳥と出くわして以来逃げるのをやめた。中型の魔獣で真っ白な体をしているが太陽を浴びている間は炎のように紅く変色する。サンバードに襲われてからほうきに跨らなくなり、絶望したような表情だったのはよく覚えている。
そしてサンバードは太陽が雲などに隠れると紅い色は真っ白に戻り、自分の巣へ帰って行くという習性がある。襲ってきたサンバードも太陽が雲に隠れて襲うのをやめて巣へ帰って行った。
ルリナはサンバードに襲われたあと……
「…なんで助けないの?あなたは私の下僕でしょ?従者でしょ?」
「いや、だって…空、だし…」
この時俺は本気で何もできなかった。だがルリナはサンバードと上手く距離を空けて水系統の魔法で応戦していたこともあって、言い方は悪いが放置した。
しかし俺が恐る恐るそう言うと…
「…信じられない」
と言ってなんか幻滅された。
その夜は赤桃という真っ赤に熟れた桃が実っている木を偶然見つけたので機嫌が直った。その味は甘く瑞々しい美味というほかない果物だった。
そのあとも俺とルリナは出会った魔獣を狩っていった。もちろん倒せなかった魔獣もいたが、その時は全力で逃げたり他の魔獣とぶつけたりして上手く危機を回避してきた。
俺はというとやはり素のままでは勝てず、今日までで計九回ものドーピングをした。そして死んだ回数はそな倍はある。
「銀の魔薬、そっちは何個残ってるの?」
俺は懐を漁り確認をする。
「こっちはあと二本だな。そっちは?」
「あと一本ね」
「俺のと合わせてあと三本か、ちょっと心許ないな」
エイナさんから渡された銀の魔薬は俺が八本、ルリナが四本の計十二本の銀の魔薬を持っていた。
銀の魔薬がなくなれば俺は武器をなくした兵士よりも劣る。消費のペースが思いの外早いため俺も中心へ真っ直ぐ向かうルリナの提案に賛成した。銀の魔薬が少ないということもあるが、俺もルリナも疲労が溜まってきていたからだ。
特にルリナはよく魔法を連発していたし、魔力の回復も満足にはできないような環境だ。
「今日は俺が見張りをするからルリナは寝ててくれ」
「そっ、じゃあお願いね」
鞄を枕にして布を掛けたルリナは一瞬で眠りについた。よっぽど疲れていたのだろう。
銀の魔薬、常人では命を代償にする代物。
そして俺の戦うための手段であり、切り札。
「勇者が薬頼りなんて、情けないよな…」
俺は懐の小瓶を見つめながら自嘲気味にそう呟いた。
―――――――――――――――――――
翌日、日が昇り始めた早朝に俺とルリナは出発した。
樹海は少し霧がかかっており、視界は良好とはいえなかった。
そして俺とルリナは深域へと足を踏み入れた。
「この奥に泉があるはずよ。急ぎましょ」
早いペースで樹海の中を進む。今日はいわば最終日、温存なんかは考えずただただ突き進む。
少し進んだところで俺たちは草むらの影に隠れる。シマウマのような白と黒の模様の入った獰猛な獣がいたからだ。
A級魔獣、その名を白虎。三つの尾に凶暴な牙、空色の猫目はどんな獲物も射殺す眼光を放っている。
勝てない…、そう直感した俺とルリナは互いにアイコンタクトを取り、気配を殺す。一瞬の緩みもなくただただその場に固まる。
時間にして約二分、白虎は俺たちに気づくことはなく歩いていった。
しかし二分ではあり得ない程の汗を俺はかいていた。実際、二分とは思えない程長く感じたし、それほどまでにやばい相手だったのだ。
「な、なんとか…やり過ごせたな」
「もうほんと嫌…」
見るとルリナも相当必死に隠れたのが見てわかる。
緊張が解け肩で息をしていた。
「…さっさと終わらせましょ」
そこからルリナが歩き出した。
バキッ!!
小枝を踏み折った音が辺りに響く。嫌な汗が額を伝い顎から垂れる。そして数秒の内に過ぎ去った三つの尾がゆっくりと暗い木々の中から見える。白の獣が獲物を見据えて姿を現した。
グルルルッ……!!
と喉を鳴らしジリジリと俺たちとの距離を詰める。
最悪の展開に悪態を吐きたい気持ちなぞ露知らず白虎は獲物に飛びつく。
白虎が最初に選んだのは僅かに震えていたルリナだった。
「ルリナッ!!」
俺は咄嗟に白虎とルリナの間に割って入る。恐怖がないといえば嘘になる。足はガクガク震えていたし、動物園にいるゴリラですら怖い。それが虎のような肉食動物となれば尚更のこと。
しかし俺の体は反射的に動いた。"不死者"というスキルで以前クラスメイトから酷い仕打ちを受けた俺は自分のスキルに不満という不満を抱いた。
なぜ? どうして? 何かしたのか? ステータスが低かっただけ……。ただそれだけだった!
死にゲーの最弱キャラ、殺される痛みと苦しみのオプション付き…。クソにも程がある!
だがこの時は少なからず感謝した。このスキルで俺は死への恐怖というのが若干薄れていたからだ。
だから反射的に動くことができた。
ルリナを強く押して俺は白虎の鋭利な牙の餌食となる。
「カナタッ!!」
ルリナが叫ぶ。いくら死なないといってもやはり襲われる仲間がいると動揺はする。
噛まれた肩から血が噴き出す。既に地面の草は薔薇のように真っ赤に染まり、水溜まりのようなっていた。
白虎は魔法を発動しようとしたルリナに反応したのか、俺をそのまま樹海の奥へと放り投げた。
そして空中を飛ぶ俺へ向かい走る。
(魔法を避けて手負いの俺から先に殺る気か…)
一本の大木にぶつかり俺はそこで止まる。気絶寸前に前を見ると妖しく光る二つの眼光が見えた。
(もう…、意識が…)
左肩を噛まれたため俺の左腕は上がらず、右手で懐から銀の魔薬を取り出そうとする。
俺が今ここで一度死ねば復活してる間にあいつはルリナを襲う。ルリナの魔法は強力だ。それはサンバードと空中戦を繰り広げてた時に分かった。でも距離を詰められては魔法使いは兵士よりも劣る。
俺が何かをしようとしたのが分かったのか、白虎は俺と数メートル程空けて立ち止まる。そして三つの尾を空に向けて上げ、尾を頭の方へ曲げる。三方向から一点に三つの尾の先っぽが集中する。そこに魔力が集まり、ボールのような塊が出来上がる。
「ま…、じか、よ……」
明らかな遠距離攻撃。俺が魔薬を飲むより速くにあれは俺に届いてしまう。白虎の知性は想像よりも高い。
これがA級といわれる魔の樹海、その深域、強者のみの領域に棲む魔獣。
バチバチと電気のようなものが迸り、塊は放たれた。
終わった……、そう思った時俺の視界一面に紋様が広がった。
大きく光る緑の紋様が電気を帯びた塊に当たるとそれを跳ね返した。
後から気づいたそれは魔法陣だった。
「白虎なんて久しぶりに見たわね」
跳ね返った塊はそのまま白虎に着弾した。
「さてと、あなたを助けてあげる。私の家訓に感謝してよね」
そう言ったのは、セミロングくらいの綺麗な茶色の髪をした翡翠色の瞳を持つ美しい少女だった。
よんでいただきありがとうございます!
気になった方は感想やレビュー、ポイント評価など下の方にあるのでぜひぜひお願いします!
次回の更新もなるべく早くにいたします!
応援のほどよろしくお願いします!




