18話 銀の魔薬
小瓶に入った液体、それは"魔の樹海"に入る前エイナさんから貰ったものだ。
"銀の魔薬"と呼ばれるポーションで銀の魔女インヴィディア家に古くから伝わるものだ。普段の用途は実験の際に少量使用したりするらしく、その効果は魔力を増幅させたり薬に魔力を与えたりするんだとか。
要は魔力の塊のようなものらしい。
回復薬や魔力回復薬など兵士や傭兵、冒険者といった戦闘を生業とするもの達が必要とする回復系のポーションに混ぜるとその品質は飛躍的に良くなるため、その価値も高い。
だがこの"銀の魔薬"はあくまでも一つの材料に過ぎない。酸素が単体では猛毒であるように、銀の魔薬をそのまま飲んでしまえばその濃厚で膨大な魔力に人間の体は拒絶反応を起こす。その魔力の処理に体は追いつかず溢れ出る魔力に内側から壊される魔力暴走というものに陥る。
すなわち死に繋がるのだ。
昔、銀の魔薬を飲んだ者の体は内側からズタズタに壊れていたらしい。だがその銀の魔薬を飲んだ者は直後全身から溢れ出る魔力をその身に纏い、驚異的な身体能力を手に入れ、そして髪の毛が銀色に変わったという。
そして今魔の樹海の中で俺はその劇薬を飲んだ。
俺の状態はエイナさんから聞かされた状態と一致していた。魔力が湧き出るのが分かる。減る様子が全く見えない。ずっと蛇口をひねっているように延々と湧き出ていた。
それにさっきへし折った牙は芯が太くとても薬を飲む前の俺に出来た真似じゃない。
しかしこれで確信した、今の俺は目の前の巨大な猪を仕留めることが可能だと。
俺はサーベルバッファローの牙を使い攻撃を開始した。
横薙ぎに振った牙をサーベルバッファローは避けようとはせず受け止める。しかし俺の今のステータスは間違いなく高い。それを示すかのようにサーベルバッファローは吹っ飛ばされる。だが踏ん張ってなんとか持ちこたえた様子だ。
俺はよろけた隙を突く。真っ直ぐ今度は牙の切っ先を前に突き出し突進する。サーベルバッファローの反応は速く、すぐに向かってくる俺へ向き直ると突進を仕掛けてきた。下手に守るより攻めに出たのだろう。互いの牙がぶつかり押し合いになる。
だが力は向こうの方が上なのか、俺はジリジリと後ろへ押される。
ならばと思い、俺は牙を手から離す。
サーベルバッファローは俺の抵抗が急に消え、そのまま真っ直ぐ進んでしまう。動きを変えられない敵を仕留めるのは勇者にボコボコにされていた俺でも出来る。すれ違い様に持っていた剣を鞘から抜き、頭から尻尾へ線を引くように深々と斬りつけた。
サーベルバッファローは大きな音を立てて地面に倒れた。
「はぁ…はぁ…はぁ…」
戦っていた時には感じなかった疲労感が今俺を襲った。
「おかしいな…体が動か、ない…」
尋常じゃないほどの汗を流し、同時に体の中は熱くなぜか寒さを感じた。朦朧とする中、ルリナが叫ぶ声が聞こえる。そこで俺の意識は途切れてしまった。
目が覚めると空は夕暮れで相当気を失っていたみたいだ。夕暮れの空と一緒に映ったのは少し安心した様子のルリナだった。
「え、えっと……結構寝てたか?」
「ざっと二時間ほどよ」
二時間か…、思ってたよりは短かったな。
ルリナは膝の上に俺の頭を乗せてくれていた。いわゆる膝枕というやつだ。俺は動揺に動揺を重ねて起き上がろうとする。
「わ、悪い」
しかしルリナは俺を押さえて「じっとしてて」と言った。
ルリナは心配をしてくれていたのか、なんだか優しく感じた。
「…正直ひやひやしたわ」
「なんで?」
「だってそりゃあんな風に殺された直後に"銀の魔薬"丸々一瓶飲み干すなんて…、正気とは思えないわ」
確かにあれは毒みたいなもんだし、そう感じてしまうのは無理もないだろう。
「まあでも、こうして生き返ったし大丈夫だよ」
しかし銀の魔薬を飲んでから五分くらいで倒れてしまった。使い所の見極めが必要になるな。というか人には毒というのがよく分かる。倒れる直後の状態はとても覚えていた。正直もう飲みたくない。突然高熱に襲われて苦しくなり、でもどうにも出来ない。
飲めばどうなるかは教えてもらったし覚悟はしていたが、その割には特別強力な力という感じはしなかった。
「なあ、あの時俺どうだった?」
「すっごくかっこよかった!!……とでも言って欲しいの?」
向日葵のような眩しい笑顔から氷のような冷たい目になる。やはりインヴィディア家の者は何かしらのスイッチを持っているようだ。
「……いやどれくらい強かったのかなって」
「そうねぇ…、冒険者でいうところのランクD、Cくらいかしら。この国の騎士団くらいね」
俺がよく分からない基準で教えてくれたので詳しく聞くことにする。
「冒険者のそのランクってどうんな感じなんだ?」
「ランクEから上へD、C、B、A、Sという順番よ。だからD、Cは普通くらいね。まあサーベルバッファローもそのくらいの強さだし、銀の魔薬を使ってあんたはそんくらいなのよ」
それってドーピングの割にはあんましじゃないか?
きっと俺のステータスが低い位置からの上昇だからそれなりには強くなった状態ではあるんだろうな。
「参考までに聞くけど…。普段の俺ってどんくらいの強さなんだ?」
「冒険者にもなれないほど酷いわ」
スキルなかったらマジで終わってたな。
しばらくの静寂のあとルリナは改まって口を開いた。
「ねぇ、カナタはどうしてここまでするの?」
少し理解が出来なかった俺は「どうしてって?」と聞き返す。
「私がむりや…、ちょっと強引に契約したのもあるけど国までついてきたり更には女王陛下まで……」
まあ言い直してももう遅いが…
ルリナは俺の行動が気掛かりだったのだろう。取引したとはいえ、無理矢理契約をしたとはいえ、本気で逃げようと思えばできたはずだと思っている。
たまたま、こうなっているだけだと思ってやまないのだろう。
「むしろ俺は…幸運だったと思ってるよ」
「…幸運?」
「帝国から逃げる時、お前に出会ったことや魔女の国まで連れて行ってくれたこと。ルリナと共に行動できたことが大きな奇跡だった。女王に認めてもらうことも必要なことでそれも上手く運んだだけだよ」
これは俺の本心だ。
「だから…ありがとう」
むず痒いがそれでも本当のことだ。出会ってまだ間もない俺とルリナ。しかしなんだかもっと前から一緒にいた気がした。
「…そ、そう…」
頰を赤らめ戸惑ったルリナ。一陣の風が吹き、彼女の髪がなびく。鮮やかで綺麗な銀色の髪。
夕日が差し込む樹海はとても穏やかに感じた。
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