17話 不死勇者の切り札
少しだけ手直しをしましたが大きな変更はございません。
今俺は謁見の間で女王に一通りの情報を伝えた。
「英雄化に爆弾魔、傀儡士、それに魔導士や癒す者……、狂戦士か」
一人女王が勇者達のスキルを呟きながら唸っている。
「どう思う、ラグルド」
「……戦場を知らない若者とはいえ恐ろしい才能です。それもそこのカナタという男を除いても29名もいる。帝国は本当に上手く引き当てた。特に英雄化、狂戦士は厄介ですな」
ラグルドと呼ばれた男は女王の隣に立っていた軍服を着たやつだ。女王が意見を求めるあたり、中々信頼されているのが分かる。まあ雰囲気からして歴戦の戦士という感じがするしな。
勇者達のスキル、ショウキは"英雄化"というスキルでステータスを跳ね上がることが出来る。
そしてもうひとつがクラスの男子でダイキという奴が持つ"狂戦士"というスキルだ。俺も前に何回か味わったがあれはやばい。
このスキルもステータス上昇系のスキルだが、"英雄化"が満遍なくステータスを上昇させるのに対して、"狂戦士"は攻撃特化に上昇し、正常な判断力が著しく低下して本能と反射神経だけで戦う。
過去の歴史でもそういったスキルの使い手がいたことからその情報は広く伝わっているらしい。
これは余談だがダイキは柔道部でガタイがとても良く、ショウキと仲が良い。
「ええ、戦闘力の高い勇者を先頭にしてそのあと爆弾魔や傀儡士あたりが撹乱、樹海の魔獣を操り攻めるという具合かしら?」
「それが一番妥当なところかと。それが二週間後に」
予想した戦術を淡々と述べる女王とラグルド。
それに横に並ぶ大臣達は顔を青ざめていた。
「最後に確認だ。エイナ殿、本当にこの話は真実なのだな?」
「はい。我が娘の魔眼でも確認致しました。インヴィディアの名に誓って間違いないかと」
「そうか…」
厳かな空気は段々と柔らかくなる。俺はただじっと女王の言葉を待った。
「よい。我が国にて勇者カナタの滞在と此度の戦争への参加を許可する。そしてインヴィディア家に仕えよ」
「…ありがとうございます!」
跪いたまま俺は深く頭を下げた。
こうして俺は正式に魔女の国へ身をやつしたことになった。そしてそれは正真正銘、あいつらクラスメイト達との本当の決別を意味した。
別にこれで良かったと思ってる。人生で一、二を争うほどの焦燥に駆られた。まあ一番焦ったのは間違いなく王宮から脱出するときだったが…
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謁見の間、今この場にはこの国の女王とそれを守る近衛騎士、そして魔女が認めたこの国きっての強者近衛隊長ラグルド。横には大臣達が立って並んでいる。
カナタを含めたインヴィディア家の者たちはついさっきここを後にしたところだった。
「どう思う、ラグルド?」
その一言だけで女王は何を聞いてきたのか長年護衛を務めているラグルドは理解した。
「そうですな。確かに勇者にしては弱すぎますなカナタという男は」
「やはりそう思うか…」
「ええ、ですが彼の持つスキル"不死者"はどうも魔女とは相性が良すぎます。それに魔道具や武器、そういった道具によっては化けますな」
少し楽しそうにラグルドはカナタの分析を女王に聞かせた。
女王は何も言わなかった。彼がどういう経緯でここへ来たとしても敵ではない以上、どうこうするつもりはない。何より貴重過ぎる情報を提供してくれた。
ここは勇者の一人を取り込めたということでプラスに考えるべきだ。
「ラグルド、部隊の編成を任せてしまっていいか?」
「ご命令とあらば…」
深く敬意を込めて頭を下げるラグルド。
そのあとラグルドは謁見の間を出て女王の命令を忠実に全うしようと動いた。
女王も他の大臣や騎士達を促して部屋を後にさせる。
誰もいなくなった空間で女王はただため息を吐いた。
「勇者が29人……、それもどれも名の知れた強力なスキルの使い手ばかり。全く…サルナ王国とは大違いね」
長年争ってるサルナ王国からしたらたまったものではないだろう。向こうの戦力は誰が見ても明らかに増しており、戦術の幅も広がったはずなのだから。そんな国の矛先がこちらに向くのも困った話だ。狙いもイマイチ腑に落ちないことが多い。
「サルナの方へは樹海を外側から回ればいいものを、わざわざ樹海を突っ切ろうとするなんて…」
考えられるのは魔女達が有する魔道具や魔法技術力が狙いか?仮にカナタという勇者を追ってきたとしても戦争を仕掛けようと決めたのはカナタがまだ王宮に居た時だろう。そうでなければ彼は戦争のことなんて知らなかっただろうしな。
何か狙いがあるのは確かだ。
「現状国には、銀と鮮血、それにと慈愛がいたかしら?でも鮮血のがいても今回ばかりは安心は出来ないわね。教会のほうにも呼びかけをした方が……」
女王は今国にある戦力の計算を行っていた。
周りが誰もいなくなったせいか、女王の口調は少し女寄りに戻った。実のところどうしても気を張り詰めてしまいあんな口調になってしまうのが女王の密かな悩みでもあった。
「でも保険を掛けておくのに越したことはない…か」
そうして彼女はカナタ達を連れてきた執事に一枚の便箋を持って来させた。
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何とか女王に認めてもらえた俺はとにかく安堵しかなかった。
「ほんと良かった〜!」
馬車の中で脱力しながら俺は心の底からそう思った。
異世界召喚はもっと心踊るものだったと思うが、もうそんな気持ちは微塵もない。面接練習しといて良かった。
「まっ、これでひと息つけるわ」
ルリナも俺に同意してくれるように頷く。
やっぱりこいつとは根本的な部分で気が合うな。
「そんなあなた達二人には悪いけどこのあと"魔の樹海"へ行ってもらうわね」
「「……はっ?」」
突拍子もないエイナさんの発言に俺もルリナも目を白黒させた。
☆
俺は今鬱蒼とした大地を駆け抜けている。酷く暗い木々が視界一面に収まらないくらい生い茂る。
それらを物ともせず薙ぎ倒す一匹の象のように大きな体をした巨大な猪。
赤い目に鋭く長い牙が俺に襲いかかろうとしていた。
ここは"魔の樹海"、魔獣が蔓延る無慈悲の樹海。
その広さは単なる森の範囲を大きく超える。そしてその強大な範囲の全てが禁忌指定区域だ。
そんな強者が正義のここに俺が放り込まれる数時間前のこと……
「だから今から二人には"魔の樹海"に行ってもらいます」
「ちょ、ちょっとかあ様っ!!何いってるのよ!樹海になんて行けるわけないじゃない!」
焦りからかキツい口調でエイナさんに抗議をする娘のルリナ。
この国へ来る途中で見かけたあの暗い闇を纏ったような樹海。確かに俺も出来るなら行きたくない。だって怖いし、聞いた限り物騒な場所だ。俺が行っても死ぬだけだし。まあ厳密には死なないんだけどな。
「二週間後には戦争よ?そのためにも多少なりとも強くなってもらわなくては困るわ。私も戦線には出るけどルリナと坊やのお守りなんて出来ないわよ」
要は今のままだと足手まといということか。
「そ、それは……」
「分かるわよね?」
「…はい」
どうやら折れたのはルリナの方みたいだ。
俺も行きたくないけどそうも言ってられないのが現状だ。俺はこれからこの二人、インヴィディア家に厄介になるのだから。
そして一振りの剣を手にルリナと樹海にやって来たというわけなんだが…
ルリナはほうきに乗って一人だけ安全圏の上空に逃げていた。一応俺の近くにいるがこれはいくら何でも酷い。
「早くなんとかしなさいよ!あんたそれでも勇者ッ!」
「だったらお前がやれよッ!」
「無理だから飛んでるんじゃないのよッ!」
そんなやり取りをしていたが余裕なんてものは当然なく、ひたすらに逃げていた。
追いかけてくる猪のような魔獣、サーベルバッファロー。凶暴な長い牙がとうとう俺に追いついた。
激しい勢いに任せた牙はそのまま俺の体を深く貫いた。
あまりの激痛に声を荒げることも出来ず、大量の血が噴き出した。
ルリナも空中で停止し、俺の呆気なくやられる様を俯瞰する。俺が死なないと分かっていてもその光景に顔を歪ませる。
「カ、カナタ…」
ピクリとも動かない俺にルリナは不安を抱えていた。
朦朧とする意識の中で俺はポケットから一つの小瓶を取り出して、中にあった液体を口に入れた。
牙が腹を貫いた時、ちょっとしたデジャヴを感じた。それはあいつらクラスメイトにサンドバッグにされた時だ。何度も何度も、同じように、ゲームのように、俺は何もできずやられるだけのままだった。
だけど…
「もう…やれっぱなしは…、ごめんだ…」
瞬間、俺の体は淡く光りその髪は黒から鮮やかな銀色に変わっていた。
俺は痛みが和らぐのを感じると同時に溢れ出る力も感じた。そのまま突き刺されたサーベルバッファローの牙に腕を絡めて力一杯入れへし折る。
唐突な獲物の抵抗に驚きを隠せないサーベルバッファローは俺を改めて警戒する。
「…次はこっちの番だ」
俺が飲んだのは"銀の魔薬"と呼ばれる服用者の能力を一定時間跳ね上げさせるポーションだ。
帝国との戦争、クラスメイトとの戦い、それらと真っ向から立ち向かうために俺はその手段を手に入れた。
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