12話 母親
「私はルリナ・インヴィディアっ!七紋家が一つ、インヴィディア家の名の下、この男カナタの入国を許可しますっ!」
ずっと気掛かりだった存在の七紋家。そいつはずっと俺の側にいた。
「七紋家の…それもインヴィディア家の御息女様っ⁈」
「ええそうよ。家紋の刻まれたこのペンダントがその証拠よ」
深い海のような青さを持つ水晶に家紋と思われるその紋様が金色で刻まれていた。その意匠は簡単に偽造など出来ないと思うほど精巧な作りだった。
「で、ではそれに、魔力を流していただけますか?」
兵士の言われた通りにルリナは魔力を流す。すると青い水晶がその色を美しい鮮やかな銀色に変えた。
「色が銀に…。間違いない、あなたは銀の魔女の家系。インヴィディア家のお方ですね。お時間を取らせました。申し訳ない」
二人の兵士は頭を下げ謝罪する。
「もういいわ。早くそいつの身分証を発行してもらえるかしら?」
「はっ!直ちにっ!」
一人の兵士が門の隣にあった検問所へ駆け出してから数分後、少し肩で息をしながらこちらに戻ってきた。
「どうぞ。これがこの国での君の身分証になります」
そう言って俺は一枚のカードを貰う。
しかしそこには何も書かれていなかった。
「すいません。これ全部空白なんですが…」
「ああすまない。門をくぐればすぐに浮き出るから心配はない。さあ通ってくれ、インヴィディア家の従者よ」
まだ従者になった覚えもないが余計なことを言えば、
門の前で圧をかけているお方の機嫌がまた損なわれそうなのでぐっと堪える。
俺は大きな門をくぐり再度カードを確認するとそこには俺の名前や種族、今現在の階級なんかが浮き出た。
名前:カナタ
種族:勇者
階級:銀の配下
早速俺に銀の配下という文字が出た。なんで分かるんだこんなこと?
大方門に魔法がかかっているんだろうが原理が分からん。結構興味深いものだ。
それに銀の配下というのはルリナの配下という意味だろう。それぐらいしか心当たりがないしな。だとしてもなぜ銀なんだ?彼女の髪の色が関係してるように思える。
「城へ急ぎたいところだけど、まず家に寄らないといけないわよねー」
嫌そうな顔をしてルリナはため息を吐いた。
さっきルリナは七紋家と言った。恐らく彼女はこの国の上層部に食い込んでいる家の出身なんだろう。
兵士の態度を見ていても魔女がこの国で高い地位におり、その中でも七紋家は頭一つ抜けているのは分かる。
この国の街並みはフォルネ帝国とは少し違った造りが多く見られた。フォルネ帝国は石造りの建物が多かったがこちらは木と煉瓦が主流だ。
煉瓦で出来た家や店が軒並み、所々ではあるが大きな木をそのまま利用した建物があった。木の中身をくり抜いたと思われるその建物には窓が付いておりそこから灯りが見えたことからオブジェなどではなかった。
辺りは自然に囲まれほとんど森の中だ。だが整備されているのもあってちゃんと町に来たというのが意識できる。田舎の村のようなものではなく、むしろ自然と一体になるようにした都会だ。
俺は道の所々に立つ窓の付いた木を指差してルリナに聞いた。
「なあ、あの木って人が住んでるのか?」
俺の前を歩いていたルリナが指差した方向に振り返る。
「ああ、あれは本屋よ。木を使った建物のほとんどはお店よ。こんな樹海の中じゃ木なんて腐るほどあるけど家を建てたりするのって簡単だけど面倒じゃない?だからああして手間を省いているのよ」
こいつ家を建てるのが簡単とか言わなかったか?
造りとかは簡単だろうけど、普通は大変だろに。
だが、木の中身をくり抜いて部屋を作るというのは中々に興味を唆られる。オサレなカフェとかありそうだな。
ルリナを前にして俺達は道の真ん中を歩いていた。
人がいないわけではないのだが、端に寄ってさっきからずっとちらちらと見てくるのでどうも落ち着かない。
よく見ると魔女の国というだけあって女が多い。男が少ないから珍しいのか?いや、男に珍しいなんてないか。じゃあやっぱりこの不本意な形で付けられた首輪だろうか。
そんな奇異な視線に耐えかねた俺はルリナに話し掛けて少しでも気を紛らわせようと思った。
「ルリナ、そういえば家ってどこにあるんだ?さっきから歩いてるけどいつになったら着くんだ?」
するとルリナは真っ直ぐ指を指した。
「あの塔の近くよ」
指し示した場所はどこに居ても目に入る立派な白亜の巨塔だった。その足元にはこれまた大きな屋敷が建っていた。後ろにある塔と比べるとなんとも子供のように小さく見えるが、決してそんなことはないと分かったのはその屋敷を目の前にした時だった。
「ここが私の家よ」
お貴族様のような立派な屋敷を前に正直ビビっていた俺はもう少しルリナに対して丁寧に接していこうかと悩んだ。
「これからはお嬢様って呼ぶよ…」
「…キモいからやめて」
俺は冷めた声音で放たれた直球を受け止めきれず、クリティカルヒットを受けた俺の精神は崩壊手前まできてしまった。
魔法を使って門扉を開けたルリナはまた一つため息を吐いてから中に入って行く。そしてそのすぐ後ろから俺が付いて行く。
憂鬱といった雰囲気を醸し出しながら進む彼女を不思議に思う。この国に着くなりずっとこんな感じだった。
「なんか気が滅入ってるみたいだけど、家で揉め事でもあるのか?」
「揉め事ってほどでもないわ。ただ…少し気まずいだけよ」
そう言ってルリナは屋敷の扉に手を掛けて前へと押した。
屋敷の中は綺麗に整えられており、壁には大きな絵画が飾られていた。赤い絨毯が床に敷かれていて、キラキラと照らすシャンデリア。中央より少し奥に大きな階段があり、二階には多くの個室が見受けられた。
「あらあら、誰かと思えば…。もう帰って来たの?それも男を引っ張って」
「ただいま、かあ様。二日ぶりね」
階段を優雅に降りてきた銀色の長髪をした美女。艶かしい雰囲気を放ち、着崩した格好はそれでも彼女の魅力を引き出した。ルリナと似たような格好で白いシャツに黒いローブを羽織っていた。ただ違う点はルリナはスカートを履いており、彼女へ黒いパンツを履いていた。その容姿は二人ともよく似ており、親子だというのが誰の目からも明らかだった。
ただ母親と思われる彼女はとても若く、姉妹でも通じてしまいそうだ。
ルリナにはない大きな胸に視線を吸われそうになる。
「それで家出娘、口だけの未熟者。一体何をしに戻って来たのかしら?」
「かあ様、大事な話があるの。もうすぐここはフォルネ帝国に奇襲を受けるわ」
小柄なルリナと違ってルリナの母親は長身だ。出るとこは出て引っ込むところは引っ込む。そのスタイルの良さは見るものを虜にしてしまいそうだ。
俺もたまに視線を外すが、結構凝視している。
「それで、その根拠は?」
そんな俺の男としての本能を上書きするように、濃厚な威圧感を放った。そのプレッシャーを感じ取り、俺もルリナも一瞬たじろぐ。上に立つであろう人としての格の違いというやつを本能的に感じた。
気圧されながらもルリナは言葉を絞り出す。
「この男、カナタです」
ルリナの母親は対面してから俺にも視線を配っていたが、今度は集中して俺を見る。値踏みするようにじっくりと観察した。
「あなた、名前は?」
先ほどの威圧感は弱まったがそれでも緊張の糸は切れない。切ってはならない。粗相のないように振る舞うことを何よりも意識した。
「カナタです。フォルネ帝国で召喚された勇者の内の一人です。ですが訳あって彼等とは決別して、ここにいます」
一拍置いて、ルリナの母親は口を開く。
「私はそこな未熟者の母にしてこの国の柱である七紋家が一つ、インヴィディア家現当主、エイナ・インヴィディア。さて、話を聞いてあげるわ坊や」
柔和な声音で話しかけるエイナさんから、先ほどの威圧感は見られなかった。
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次回は二日後に更新予定です。




