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銀の魔女の勇者  作者: 星川ぽるか
一章 帝国の勇者と魔女の勇者
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10話 首輪の勇者

  「カナタ、あなたのその取引に乗るわ」


 同意を得られた俺は内心ガッツポーズした。

 これで俺は安全かつ、あいつらに一泡は吹かせられる。いたずらなんかよりも性質(タチ)の悪い喜びを感じた。


「それじゃ、今からあなたと契約します」


 だが勇者達へのちょっとした報復をするという愉悦に浸れていたのは、ほんの僅かな間だけだった。


 俺はここでひとつの失敗をした。それは保身の余り、ルリナのことを全く見ていなかったことだ。


  ーーーーーーーーーーーーーーー


 私、ルリナは目の前の雑魚勇者の取引を聞いた。

 はっきり言って今私が欲しいものをあいつは提示してきた。それも有力過ぎるものだ。


(だからこそ気に食わない!)


 私は結構プライドの高い人間だ。

 こいつが必死なのは分かる。魔女が欲する情報を提供しようとしながら見返りは自身の保護、それがあいつの必死さを物語っている。


 普通なら魔女に対してかなり有利な立ち位置に立てる状況だ。さっきこの世界のある程度の常識は教えた。だから有利なことくらいあいつも分かっているはずだ。

 例えば食料に飢えた村人に対して相場よりも高い値段で食料を売ったとする。栄えてる町なんかでは中々売れたものではないが、食料を誰よりも求める村人は多少なりと高くても買うだろう。

 村人にとっては死活問題だからだ。


 今もそれに似たような状況だ。


 それも相手は魔女。大抵の望みは何とかなったり出来る。要するにもっと欲張ってもいいのだ。それが身の安全? 悪いがこけにされているとしか思えなかった。人間の汚い部分なんて私は沢山見てきた。人に取引を持ちかけて自分達は何も出さない奴もいた。魔女を裏切ることは出来ない。故に恐れられる。一般人も、よっぽどの理由か無ければ貴族も寄らない闇の部分。そこによく噛む魔女など不気味しか感じないだろう。


 だから私は思った。あいつは今上手くいったと思っている。本当に生意気だ。私はあいつにせめて少なくても動揺を与えたかった。欲を言えば度肝を抜きたい。


 私の庇護下になる。あいつが欲しいのは信用のおける安全だ。なら私はあいつの望みを聞いた上でさらに()()()()()()()と思った。


  ーーーーーーーーーーーーーーーー


 "契約"それは魔女やエルフ、魔法使いが行う精霊や使い魔と交わされるものだ。そこには確かな主従関係が存在する。

 彼女は今それをしようとしたいた。


「え、なんで?」


 契約は王宮にいた他の勇者が使っていたものだから、俺もどんなものかは知っている。

 こいつは俺を自分の所有物にしようとしていた。


「私との取引も残っているじゃない。今ここにいられるのは誰のおかげかしら?」


 これまた一段と圧をかけてくるルリナ。その正論を跳ねのける言葉を俺は持っていない。


「これも全部あんたのためよ」


 そういってルリナは片手を前に突き出し、瞼を下ろしてじっと集中をした。


「汝に縛る鎖、その手綱を握るは我、その我が求めるは汝の力、授けるは我が寵愛」


 淀みなく紡がれた詠唱、そこに割って入ろうなんて思えないほど神秘的な感覚を覚えた。

 周囲は青白い光の粒子で満たされて、無風なのにルリナの肩より少し下まで伸びる美しい銀髪は不思議となびいてた。


「我、ルリナ・インヴィディアは汝、勇者カナタとの契約を結ぶ」


 その直後真っ白な魔法陣がルリナの片手から浮かび、そこから白く光を発する細い帯がゆっくりと俺の首に巻きついた。するとその白い帯に俺は激しく首を締め上げられる。


「ぐあああああぁぁっ!!」


 苦悶の叫びをあげるが帯の力はますます上がる。


 声をあげられなくなるほど締められ、意識が朦朧とし、視界がぼんやりと白みがかっていく。


「くっ…」


 とうとう意識を手放すという瞬間、帯の力は突然消えた。何事もなかったかのようにパッタリと消えた。

 なんとか耐えて気絶まではいかなかった。ゆっくり呼吸を整える。だが苦しさは感じなかった。問題なく酸素が体へと取り込まれる。

 落ち着いた頃に俺はやっと首にある違和感に気づいた。

 首周りにある程度のゆとりを持った黒い首輪が付いていた。

 触ってみると鉄のように硬く、しかしさほど重たいわけではなかった。ぴったりと首についている訳ではなく、指二、三本はゆとりがある。


「これで契約は完了よ」


「…なんでここまでするんだ?」


 今首を絞められた苦しみは余韻も無い。だから咳ごむこともないし、呼吸も問題ない。だが、確かに覚えている。記憶として絞めあげれた痛み、苦しさを覚えている。不思議な感覚に違いなかった。

 あんな苦しい思いをさせたこいつに俺は殺意ほどではないが、それに近い怒りを抱いた。


「あんたの要望通りにしたんじゃない。お望みの保護よ。しかも私という偉大な庇護の下によ」


 ふふん、と誇らしげに腕を組みどこか満足そうなルリナの顔はうざいの一言だった。


「そもそもあんたが侮辱みたいなことを要求したのが問題なのよ!」


「何が?俺は別に無茶なことを言ったつもりはないぞ」


 日本でも度々ある、観光に来た外国人に道を聞かれた日本人が案内するような可愛いものを頼んだつもりだ。


「絶対魔女舐めてるでしょ?魔女はね、基本的にに大抵のことは自分で何とかするのよ。素材集めも金稼ぎもある程度のことはね。だから魔女が求めるものは必然と手に入りにくいものに限られる。人の臓物なんかがそれね。人殺しを進んでやる魔女なんてそうそういないわ」


「そんな魔女が今求めていたものをあんたは持っていた。ならもっと大きく出てもいいはずでしょうに、それなのに見返りは自分の保護⁈馬鹿にしてるとしかおもえないわよ!」


 憤りを爆発させたルリナは鋭い目つきをしていた。

 どうやら彼女は相当プライドが高いみたいだ。


「あー、分かった分かった。もうお前の所有物でいいから」


 もうこの際なんでもよくなった俺はルリナの怒りをさらっと流した。



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