9話 勇者の裏切り
ルリナから俺は正座をしながら色々なことを教えて貰った。
「魔女はこのフォルネ帝国から西の方角にある
"魔の樹海"その先にに魔女の国があるの。相当な実力がないとたどり着けない。森の魔獣に食べられてお終いね」
「それじゃあ魔女の人達も出られないんじゃないのか?」
話から察するに"魔の樹海"というのは危険な場所なんだろう。異世界ならではだな。
だがこの世界はゲームなんかじゃない。なら魔獣が蔓延るその森が国の近くにあるんじゃあ一般人は、少なくてもこのフォルネ帝国の方には来れないはずだ。
魔女の国とかいわれてる場所に一般人がいるのか怪しいが…
「それは対策がバッチリしてあるから大丈夫よ」
ルリナは対策と言っただけで詳しくは言わなかった。あまり他言していい情報じゃないらしい。
「それであなたは本当に勇者なの?」
ジト目を俺に向けながら確認を取る。
「正真正銘の勇者だよ。名前負けしてることぐらい分かってる。ステータスが低すぎるしな」
ルリナはまだ信じていないのか再び質問をする。
「じゃああの復活してきたスキルは何?再生系とかじゃないだろうし、だって死んでるしね。回復系とか更にありえないし…」
「不死者ってスキルだよ。死んでも生き返るし重度の怪我も治る。」
「何よその反則的なスキルは」
不死者のスキルを簡単に説明するとルリナは驚きと呆れが入り混じった顔をした。
だがスキルというのは必ずしも万能というわけではない。俺のスキル”不死者”だってショウキの聖属性の前では何も出来ず死んでしまうだろう。悪魔や幽霊を成仏するような感じで再生が効かない可能性が高い。
それに何人かクラスメイトが放つスキルや魔法を食らったことはあるが、申し分ない威力ではあった。
実際痛かったし、四肢も吹っ飛んだ。それでも身体の一部は必ず残っていた。
これは憶測だが俺のスキルは消し炭になるほどの高い火力を持った攻撃は耐えられないのではないだろうか。ここでいう耐えられないとは、つまり再生することによる復活だ。
そして当然、確かめようとも思えないことだ。仮に確かめるとしてもそれは今ではなくてもいい問題でもある。
「反則的とはいうが、他の勇者の方がそれこそ反則的だぞ」
「あんたみたいに弱くなくてその上厄介なスキルを持った勇者が十人以上…、本当この国も焼きが回ったわね」
さっきから呆れっぱなしのルリナはまた大きなため息を吐いた。
ルリナと会話を続けていた俺は、今さらながらにふと湧いた疑問を投げた。
「なあ、ルリナが帝都にいたのは帝国への敵情視察か?」
「敵情視察?何のために?」
きょとんとするルリナ。何のことかさっぱりといった具合に分かっていない様子だった。忘れているという訳でもないのはその様子で分かる。
「いやだって帝国と戦争するんだろ」
突如ルリナは固まり青い瞳を大きく開いた。
豆鉄砲を食らった鳩のように、驚愕を受けたルリナは信じられないというように、口を開く。
「嘘を言わないでよ…、そんな話聞いてない…」
その言葉に俺の方も驚きを隠せなかった。
ルリナの居た魔女の国とフォルネ帝国が戦争をする。
それは俺がここまで逃げる直前、クラスメイトが言っていたから俺は知っている。戦争が決まったということは当然どちらかが宣戦布告をしたからだ。
そしてもう時間も結構経っているはずだ。
何故、知らないのか。
いくつか考えられる可能性を潰していくために俺はルリナに聞いた。
「宣戦布告をしたのか?」
ルリナは首を横に振る。
「出していないし、受けてもいない」
「帝都もそこまで慌ててなかったみたいだし、お前だけ知らないとか?」
またしても首を横に振った。
「私たち魔女は国の一大事になれば各々どこにいても知らせの手紙が来るようになってるの。それもあんたが思うより、驚くぐらい早くにね。それこそ戦争ならもう手紙が届いてもおかしくない…いや、戦争なら尚更のこと」
「そうなると、残る可能性は…"奇襲"か?」
青褪める少女の顔、一目で危機感に駆られているのが分かる。
「魔女を相手に勝算があると考えてるの?攻めるにしてもこの国の騎士では樹海を超えられない。勇者がどれだけ強くて大勢居てもあり得ない!」
ルリナは考えるも否定する。それもそうだ。嫌なことは必然的に考えたくないもの。日本でも外国でも異世界でも…
人間ならなんら不思議はない。
だが、それで良い理由もないのは明らかだ。自国が攻められそうなルリナの心境は焦燥が溢れて仕方ないだろう。奇襲なら尚のこと。
ここで俺も考える。
取引の話が有耶無耶になりつつあるがおそらく身体の一部を提供することは無くならない。今はそれよりも重要な案件が発生しただけのこと。
それに俺は俺のスキルで死ぬことは限りなく無い。今回の取引内容も問題は無い。
しかし、俺はまだ帝都を出ただけでフォルネ帝国自体から出国した訳ではない。そして俺は王宮の外を知らな過ぎる。それも致命的な程に…
このままでは俺は路頭に迷うことは明白。今頃帝国では俺を犯罪者にでもして捕まえようと動いていても不思議じゃない。
俺はまだ逃げきれていないのだ。俺は俺の身の安全を確保するために、恩人であり、現状俺の命綱とも言える存在のルリナに一つの提案をすることにした。
俺の思惑通りに持っていくため、まずは匂わせるように会話をする。
それは対価で動く魔女が行う"取引"。それをより確実に、俺への利益をもたらせるため行う下準備。俺という存在の価値を口で述べて説明するのではなく、ルリナ自身が認識することが重要だ。それでルリナは俺の価値を正しく理解できるはずだ。それが出来て初めて、価値の説明は活きる。
「なあルリナ、お前は国が大事なのか?」
真剣に、それでいて煽るように尋ねる。
「当たり前でしょ!16年も住んだ故郷を邪険に思う訳ないじゃない!」
「なら今すぐにでも奇襲のことを伝えたい方がいいんじゃないのか?」
「分かってる!でも…、情報が足りない。奇襲だけが分かっていても意味がない!いつどんなルートでどのくらいの規模の兵士が動くのか、とにかく奇襲があるという情報だけじゃ対策を立てられない!そもそも女王も七紋家の人達も、誰も樹海を超えられないと高を括ってる!」
女王は分かるが、七紋家?
ある程度の地位に就いている貴族みたいなもんか?
だがルリナは事態を相当危険に捉えている。それが俺の考えていた下準備だ。ルリナに危機感を抱いてもらうこと。知っているのが奇襲されることだけでは足りない、その詳細な情報を現時点で持っていない。
しかし魔女であるルリナ自身が探りを入れれば気づかれる可能性が高い。今から攻めようとしている相手だ。王宮の連中もそこまで間抜けな訳がない。
それに奇襲の決行日すら分かっていなければ、余裕を感じることなど中々出来たものではない。
それを理解させることが下準備だったが、手間が省けたようなものだった。ルリナは事態をしっかり把握しようとしている。
俺の話を真実かどうかも探らずにいたのは気になるが、上手くいったといえる展開だ。
ここで考えていた取引を持ちかける。
「俺が勇者だってことは言ったよな?」
「…だから何よ?」
「当然他の連中のことも俺は知っているし、勇者は王宮にいる。俺は他の勇者達と決別してその王宮から逃げてきたんだ」
ここで少し苛立っていたルリナから段々とその雰囲気が霧散していく。
俺の異世界での生い立ち、今ルリナが欲しいものを俺は持っている。それが俺の価値、情報だ。
昔の世の中や創作物の中にもよくある裏切り行為を俺は実行する。
勇者としては失格もいいところだろう。だが、日本でもボイコットなんてよくある話だ。ぞんざいに扱い、死なないからと俺を殺すクラスメイトに同情は欠片もない。
「俺なら王宮にいた兵士の大まかな規模と俺を除いた残り29人の勇者、その能力と装備の詳細を知っている」
ほんの僅かに考え込んでルリナは冷静な態度を取る。
てっきりもっと食いつくかと思ったが押しが足りなかったか?
「教えるとは言わず知っている、って言ったってとこは当然"タダで"ってことではないんでしょ?」
考え込んでいたのは俺の真意を読み解こうとしたからか。こいつは中々頭が良い。いや、重要な場面では慎重になるんだろう。
「そうだ。俺がお前に求めるのは俺の身の安全、見返りはフォルネ帝国が抱えた勇者と兵士達の規模、その情報だ」
「あんたがくれるのは情報で、私の保護を求めているってことで良いのよね?」
「そうだ」
戦争に勝つため、敵国に負けることを恐れたフォルネ帝国。皮肉にも帝国は自分たちが召喚した勇者によって裏切られた。




