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Desire  作者: 雷仙キリト


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30/39

30.Ether

 何度となく通い続けてきた建物に到着する。インターホンを鳴らすと、今度はすんなりと鍵を開けてくれた。


「こんにちは、高嶺さん。お会いするのは」

「昨日ぶりだ」

「ええ。今回はご予約済みですね。歩望さんはいらっしゃらないのですか」

「同意書には昨日サインをしただろ」


 長い廊下を、二人分の足音が響く。


「実は今日、大切なお話があったんです」

「それ、親父がいなくても大丈夫なやつ?」

「ええ、まあ。お二人に聞いてもらうのが最良ですが、今回は高嶺さんだけでも大丈夫でしょう。刹那にはそのように言っておきます」


 メンテナンス室に連れていかれる。例の如く、刹那さんは机に向かって熱心に何かを書きつけており、こちらを見向きもしない。

 ベッドにはユキさんが静かに横たわっている。


「……ユキさんの容態は?」

「率直に言えばモモの寿命は残り僅かです」


 レイの容赦のない物言いが、オレに現実を突きつける。


「本来なら、予定通りあと五年はもっていたはずです。しかし、刹那さんにもボクにも予測できなかった不具合が発生したことで、イーサに急速な劣化が生じています。協調運動機能の悪化、記憶障害、スリープ障害。どれも覚えがあるのではないでしょうか」


 イーサ、というのはオレ達でいう脳と心臓のようなものらしい。イーサが動かなくなれば、体を動かすことも、人間らしい思考をすることもできなくなる。


「今回は応急処置として直近一ヶ月の記憶を削除しました。これによりイーサへの負荷がひとまず軽くなるはずです。とはいえ長くは持ちませんけどね」

「記憶を消した? 一ヶ月も?」

「何か問題でもありますか?」

「……いや。ありがとう。助かったよ」


 こいつは自分の役目の通りに動いているだけだ。修理するのが仕事だから、記憶を消した。それだけ。

 レイに文句は言えない。


 でも……消えてしまったんだ。小可さんと一緒に海に行ったことも、それ以外のことも、全部。消えてしまった。


「これからは、あまり外出させない方が良いよな」

「面倒事を避けたければ、その方が賢明です」


 ユキの正体が他人にはバレないようにしろと、刹那さんとレイには散々釘を刺されている。人目のあるところで倒れてしまえば、今回のように穏便に済むとは限らない。

 ユキさんは、現代のテクノロジーでは説明がつかない存在なのだから。


 これから先、ユキさんに思い出を作ってやることも難しいだろう。

 こんなに早くいなくなると分かっていたら、もっとたくさん色んなところに連れていってやったのに。


 後悔しても、しきれない。


「……そうだ、高嶺さん。あなたからお預かりしているものがあるんです」


 オレの様子を窺いつつレイが言う。


「昨日ここに来た時に忘れ物をしましたよね? ちょうど良いので、持って帰っていただけますか?」


 ……そんなもの、あっただろうか。


「ボクの部屋で保管しています。ついてきてください」

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