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Desire  作者: 雷仙キリト


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3/8

3.チョロい人

「ただいま」


 公園でたっぷり時間を潰してから家に帰る。

 オレを迎えてくれたユキさんは、どこか不機嫌だった。


「希くん……」

「どうしたんですか?」

「実は、晩ご飯を作ろうと思って準備してたんですけど……失敗しちゃいました」

「失敗? ユキさんが?」


 ユキさんは紛うことなきドジっ子だが、作る料理はマジで美味い。ユキさんにしては珍しい失敗だ。


「考え事してたら、調味料を入れ間違えちゃって……希くんが帰ってくるまでに作り終えたかったんですけど……ごめんなさい」


 しゅん、と肩を落として落胆するユキさん。


「とにかく、少し待ってくださいね。すぐに作ってきますから」


 ユキさんはそう言い残し、颯爽とキッチンに去っていく。

 ユキさんは変なところでプライドが高いというか、意地っ張りなところがある。そして、自分の仕事に対して完璧主義だ。

 ここで下手に慰めの言葉をかけると、ユキさんは意地を張って、余計肩に力を入れ過ぎてしまう。そして今度は本当に大失敗してしまうかもしれない。

 こういうときオレは、下手に口出しをせず、満足するまでユキさんの自由にさせている。


 リビングで寛いでいると、嬉しそうな顔をしたユキさんが、オレの分の食事を持ってきた。オレはダイニングに座った。ユキさんはオレの真向かいに座り、テーブルに頬杖をついた。


「美味しいですか?」

「はい」

「よかった。作り直した甲斐がありました」


 オレがご飯を食べるのを、嬉しそうに見つめるユキさん。

 不意に、その表情が曇る。


「希くん」

「はい」

「あのね、今日学校から連絡があったんです」


 あ、やべ。


「ここ最近、希くんが無断欠席を繰り返してるって。だから、親御さんからも何か言ってほしいって言われたんです。私、希くんに何を言えばいいんでしょうか」

「……怒ればいいんじゃないですか」


 自分のことながら、他人事な返答。


「怒ることも、もちろん考えました。でも私、怒るっていうよりも、心配の方が大きいんです。何か、学校で嫌なことがあったんじゃないかって、だから学校に行ってないんじゃないかって……心配で」


 うわ、ここまで心配されるとは思ってなかった。今更ながら、罪悪感。

 何とか言い訳しなければ。


「それは杞憂ですよ、ユキさん」

「え?」

「確かにオレはここ最近学校に行っていない。でもそれは学校が嫌とかではなくて、地球を救う旅をしていたんです」

「地球を、救う旅?」

「話すと長くなりますが、あれはおよそ一ヶ月前のことでした。学校に登校しようとしたオレは、子供達に虐められている亀を見つけたんです」


 そう、一ヶ月前のこと。オレは子供に虐められている可愛そうな亀を見つけ、助けたんだ。亀はオレの強さに大層感激したのか、足元に必死に縋りついてきて、こう言った。

「地球を救えるのはあなたしかいません。どうか、力をお貸しください」と。


 たった今地球には人類滅亡の危機が降りかかっている。

 かつて、人類を滅亡の危機に陥れた魔王ゼロアス。勇者によって長い間封印されていた魔王は、今にも長き眠りから目覚めようとしているのである。

 ゼロアスはとても強い。よって並の人間では到底倒すことができない。しかし、亀を助けた心優しい青年ならば、魔王を倒すことができるかもしれない。


 というわけで、オレは亀のために、ひいては地球を救うために、学校に行く時間を犠牲にして旅に出ていたのだ……というようなことを、長い時間をかけユキさんに説明する。


 ここまで言ったことはもちろん全部嘘である。


「そ、それで」


 ユキさんはゴクリと唾を飲み込む。


「人類はどうなってしまうんですか? 助かるんですか?」

「それはまだ分かりません。ですが、ゼロアスの勝手にはさせませんよ。オレが必ずや人類を救ってみせます」

「流石希くん。私の自慢の息子なだけあります! 頑張ってください、応援しています!」

「はい、もちろんです」


 こうしてオレは、話題を逸らし、楽しい楽しい夕食の時間を手に入れることができた。

 流石ユキさん。今日もチョロくて可愛いね。

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