23.思い出
小可さんは、少し離れたところからオレ達の様子を見守っていた。と思えば、近くにいた観光客らしき人に一方的に話しかけたり、いつの間にやら手にしていたカメラで辺りを撮って回っていた。
忙しない人だ。
「そこの美男美女のお二人さん」
小可さんはフィルムカメラを顔の前に掲げ、レンズをオレ達に向けた。
「君たちを被写体に写真を撮らせてもらっても良いかな?」
調子の良い媚びるような言い方にまんまと釣られて、ユキさんはうっすらと頬を赤く染める。
「希くん、美男美女ですって。どっちが男の子で、どっちが女の子なんでしょうか」
「……少なくともオレは女には見えないだろうな」
見えてるとしたら、この小旅行を即刻中止して、小可さんを頭の病院に連れていく必要がある。
「大丈夫、希くんも頑張れば女の子に見えますから!」
別に、見えたくはないんだけどなぁ。
「ほら、二人とももっとくっついて。高嶺くんはもっと笑って! 不機嫌な顔は禁止!」
ユキさんがオレの腕をぎゅっと抱きしめてくる。上目遣いに見上げられ、気まずさに顔を逸らしたところを、即座にカメラが切り取る。
「はは。イケメンくんの照れ顔ゲットだぜ」
「照れてない。消せよ」
「残念。削除なんてハイテクな機能はこのカメラにありませーん。ほらほら、もういっちょ撮ってやるから並んだ並んだ。ユキさん、そいつのこと逃げないようにしっかり捕まえといてくれよ」
「分かりました!」
ユキさんは先程以上に強く、オレの腕に手を絡ませてくる。ご存知の通り、ユキさんは見た目に似合わず異様な馬鹿力の持ち主なので、オレは拘束から抜け出せずに大人しくする他なかった。下手に動くとまた脱臼する。
「希くん、ちゃんと笑わなくちゃダメですよ?」
「そんなこと言われても……」
「笑わないと、魂を抜かれてしまうんですよ?」
そんなことはない。
小可さんにポーズを取るように言われ、ユキさんはノリノリでピースをする。オレは萎れかけの野菜みたいなピースを披露し、歯茎を剥き出しにして笑ってやった。
写真を撮ると言われるとふざけたくなるのが、男の性である。知らんけど。
「次は君ので撮るから、ケータイ貸して」
「オレの分は結構です」
「良いから良いから。ユキさんのこと、喜ばしてやりたいんだろ」
「……」
ユキさんの名前を出されるとオレは弱い。スマホのロックを解除して、渋々小可さんに差し出す。
「じゃ、撮るよ。3、2、1……」
小可さんはスマホを縦にしたり横にしたりして、何枚も写真を撮っていく。
オレ達の様子を見ていた観光客の人が、「良かったら皆さんの写真を撮りましょうか」と小可さんに話しかけてきた。小可さんは「あざす!」と大袈裟にお辞儀をして、オレ達の元へと駆け寄ってくる。
ユキさんが二の腕に絡みつき、小可さんは腰を屈めてオレの肩を抱く。両脇をガッチリと固められ、いよいよ一ミリとして動くのを許されなくなってしまった。
「笑えよ、小可くん。嘘でも良いから笑うんだ。さっきみたいに誤魔化すのはなしな」
カメラに目線を送ったまま、小可さんが話しかけてくる。
「お前の親父が一緒に来なかったことを後悔するくらい、楽しんでるとこを見せつけてやれ」
あの堅物が、むくれ顔になる様を想像して苦笑する。
あり得るはずがない、そんなの。
オレが笑うタイミングを狙い澄ましたかのように、パシャ、とスマートフォンのシャッター音が響き渡る。




