13.銭湯
「着きましたー銭湯!」
オレたちが到着した銭湯は大きかった。スーパーなみ、いや、それ以上の大きさ。
ああ、だからこういうのをスーパー銭湯って言うのか。スーパー並みにデカいから。
オレが入り口で突っ立っていると小可さんがオレの手を引っ張った。
「ほら、そんなところでぼーっとしてないで早く来なよ」
「あ、うん」
入り口に行けばコインロッカーが並んでいた。
「銭湯来るのは初めて?」
「はい」
「それじゃ、お兄さんが手取り足取り教えてあげようではないか。まずはここで靴を脱いでロッカーに入れるんだ」
「これ、お金返ってきます?」
「ちゃんと戻ってくるよ」
「それはよかったです。もし返ってこないって分かったら帰るところでした」
「ここまで来て!?」
「ここまで来て」
「それはちょっと酷すぎない?」
「まあ結果的に帰らなくて済んだんだからいいじゃないですか」
靴を入れ、受付に行く。受付には係員が立っていて、小可さんがその人に人数を伝えると、二人分の鍵を手渡された。
「これはロッカーの鍵。中で欲しいものがあったらこのバーコードを使うと良いよ」
鍵にはバーコードがついていた。小可さんは近くの自販機に近寄ると、バーコードをセンサーにかざし、飲み物のボタンを押す。
「こんなふうに。会計の時に代金は一緒に支払うようになってるんだ」
出てきたコーラを手渡される。
「じゃあ、そろそろ本番に参ろうか」
銭湯に行くことを『本番に参る』なんて言ってる人、生まれて初めて見たわ。
受付を通り過ぎると、開けた空間にたどり着いた。椅子がいくつか置いてあって、そこでは人がスマートフォンを使ったり飲み物を飲んだりして寛いでいる。
ここは休憩場所みたいだ。
「……小可さん、ここってどの辺り?」
小可さんはオレが住んでる街から遠く離れた聞き馴染みのない都市の名前を言った。
そんなに遠くまで来てたのか、オレ達。
「この辺に来るのは初めて?」
頷く。
「オレ、地元から出たことは今までなかったから」
「じゃあ海を見たこともないんだ。すぐ近くだから後で連れていってあげようか?」
海。写真で見たことはあるが、実際に行ったことはない。だけどいつかは行ってみたいとは思っている。
「良いよ。行くなら一人で行くから」
「そう? 別に遠慮しないでも良いのに」
「あんたと一緒に行ったら、折角の感動が薄れちまう」
「ふてぶてしい奴だな、君」
「でも本当のことだろ」
脱衣所に入る。小可さんは服を脱ぎ、荒々しくロッカーに入れた。
「どうしたの、脱がないの?」
「あ、いや──」
学校の体育の時間を思い出す。自意識が過敏になるあの瞬間。誰もオレのことを意識していないと分かっていても、他人に体を晒すのは恥ずかしい。
元々筋肉がつきにくいタイプで、ちょっとでも食事を抜くと薄っぺらくなってしまうのだ。
脱衣所にはオレ達以外にも数人のお客さんがいて、それぞれが自分の世界に入り込み、他人など気にせずに服を脱いでいる。
分かっているのだけど……やっぱり恥ずかしい。
ロッカーの前で動かなくなったオレを見て、小可さんが不意にバスタオルを取り出し、顔の前に掲げた。
「これなら見えないだろ」
「あ……ありがとう、ございます」
オレは急いで服を脱いで、バスタオルを体に巻いた。
「もう良い?」
「はい」
視界を塞いでいたバスタオルが取り払われる。真っ先に飛び込んできたのは、小可さんのからかうような笑い顔だった。
「じゃあ、行くか」
小可さんが空いた手でオレの手首を掴む。
「ちょ、小可さん!」
「んだよ。お前、放っておいたら、ずっとここに突っ立ってそうなんだもん」
「それはそうかもしれないけど……」
良い歳こいて子供みたいに手を繋ぐのは、普通に恥ずい。




