72.撮影は恋の中で⑥
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「カンパーイ!!」
「「「かんぱーい!!」」」
疲労と楽しかった気持ちを込めるように乾杯した僕らは、亜咲ちゃんに連れられて某居酒屋チェーン店にやって来た。支払いは小次郎さん持ち…と言いつつ実際は亜咲ちゃんの個人事務所に経費として計上するそう。会食費ってやつかな。
話の内容はもっぱら昔話だけど、僕らも良い空気の中久々の食事会を楽しんでいた。
「そういえば小次郎さん、ミレーヌさんって今どこに居るんですか?この間映画に出ているのはお見かけしたんですけど…」
「シャルラは今頃バンクーバーじゃないかな。真琴くんの話をしたら会えないのをとても残念そうにしていたよ。また一緒にご飯でも行こうって伝えてくれと言われていたのを失念していた。いやー、僕ももう歳かなぁ」
「そんなことないですよ。小次郎さん今でも鍛えてるんでしょう?とても若々しく見えますよ」
「それほどでもあるかなぁ?昔を思い出してついつい楽しくなってしまうんだ。そうだ、真琴くんも一緒にどうだい?今のままでも絞れていて良い肉体だとは思うけど、君ならもっと上を目指せると思っていたんだ」
そう言って僕を筋トレの世界へ誘う小次郎さん。小次郎さんは元々ボディビルダーとして活躍していた過去があって、引退した今も当時の生活が抜け切らずについ鍛えてしまうという筋トレ中毒者だ。
個人事務所の社長の仕事もあるのにどこから時間を捻出しているのか、不思議でならないよ。
ちなみに最初に話したミレーヌさんというのが亜咲ちゃんの母親でフルネームはミレーヌ・シャルロット。世界を股にかける大女優であり、バンクーバーにいるというのも出演した映画が著名な賞にノミネートされたからだそうだ。
これは本人たちも隠していない事で、多忙を極める亜咲一家を全員同時に取材できた者はただの1人もいないとか。
「面白いお話ですけど、僕は筋肉が付きにくい体質みたいなんです。格闘技やトレーニングも続けていましたけど身長ばかり伸びてしまって」
「なるほど、栄養が肉ではなく骨に行ってしまったのか。体型維持にはタンパク質が大切だからね。うんうん、それもまたトレーニングの成果だ。それでも僕は―――」
「パパ、センパイが困ってるじゃない。勝手にトレーニングの器材買ってるのママにバラすわよ?」
「オーケーエミリー!それだけは本当にやめてくれ!」
「ならセンパイにちょっかいかけちゃダメよ?あとアルコールは程々にしないとせっかく絞った身体が台無しよ」
亜咲ちゃんは中々お父さんに厳しい子に育ったらしい。昔はもっと小さくて、いつも小次郎さんの陰に隠れているような子だったのに、今や自分からグイグイ来るタイプに変わってしまった。こういう所はお父さん譲りなんだよな。
「センパイもよ?いつになったらワタシの事をニックネームで呼んでくれるのかしら。ずぅっと待ってるのよ?」
「そうだぞ真琴くーん。エミリーちゃん、「センパイがヨソヨソしくなっちゃった」って寂しがってたんだから」
「ちょっ、ルナ!?それは言わなくてもいいじゃない!?」
「なんだ、そういう事ならもっと早く言ってくれれば良かったのに。撮影の場だからって愛称で呼ぶのは控えてたけど…エミリー、僕には遠慮しなくていいんだよ?」
「もぅ…じゃあ本当に遠慮なくお願いさせてもらうわね?センパイ、連絡先交換しましょ?」
むしろ僕の方からお願いしたいことを先に言われちゃったな。とても嬉しいし全力で喜びたいところではあるけれど、ここは先輩の威厳を保たなくちゃね。
「もちろん。昔は連絡する手段が無くて大変だったよね」
「そうよセンパイ!毎日でも声を聞きたいくらいだったのに、センパイったらケータイは持ってないし、こっちに来る時も一人で来るからカオリちゃんに連絡するしかないんだもの!しかもカオリちゃんはずぅっと寝てるし」
「……潮谷編集長って、誰からでもそんな認識なの?」
「そうよルナ!カオリちゃんはコマッタさんなの!連絡は繋がらない…メールも見ない…最後の一言は決まって「寝てた」………思い出したらハラが立ってきたわね」
「真琴くんと同じこと言ってる…」
その話を聞いて、真琴は潮谷を殴るという大切な目的を今さらになって思い出したのだった。
お待たせしましたと短めですみません。3日連続投稿するので許してください。




