71.撮影は恋の中で⑤
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僕が着替えを終わらせて戻ってくると、既に話は終わったのか潮谷さんは撮影準備を進めていた。月奈もスタジオの隅っこで見学していたけど、表情までは影に隠れてよく見えなかった。
それからは必死だった。思ったより撮影する構図が多く、一体僕だけで何ページ使うのかというほど色々なポーズや角度で撮っていた。途中からは潮谷さんやカメラマンさんの思い付きで予定にないコーデも試してみたり。僕も正直楽しかったから文句とかはなかったけどね。
結局、撮影が終わったのは日が沈む直前だった。
「「「申し訳ありませんでした」」」
「い、いやいやいや!!あたしはむしろ色々見せてもらって貴重な経験だったってゆーか、ほんと頭上げてください!」
「すみません…いつもはこんなこと無いんですけど…」
「私もつい興が乗ってしまって…」
「僕も釣られて楽しくなっちゃって…。長いこと拘束しちゃってごめん!」
「だから気にしなくていいですって!そもそもあたしは無理言って来させてもらってる身なんで、やりたい事やってもらって全然良かったんですから!」
そうは言っても、元々の終了予定時間より2時間も押してしまった。完全に僕らの責任だし、後で孝介さんにも謝罪の連絡をしなきゃ。
こうして僕の久々で最後になるであろう撮影は終わった。あまり遅くなってもいけないのですぐに帰ろうと出口に向かったんだけど、そこには亜咲ちゃんが見た事のない女性と一緒に僕らを待ち受けていた。
「ハーイ、センパイ♪やっと終わったのね?あんまり長いから待ちくたびれちゃったわ?」
「亜咲ちゃん、まさかずっと待ってたの?遅くなってごめんよ。それで、そちらの方がさっき話してた?」
「そうなの、センパイに紹介しておこうと思って。ワタシの新しいマネージャーのシノちゃんよ♪」
「初めまして!亜咲さんのマネージャーを務めさせていただいている三坂 信乃と申します!KuRaMさんのことは亜咲さんから沢山!まだまだ若輩者ですが、よろしくお願いします!」
「やめて下さい、僕はもう引退した身なので。本名は山倉 真琴です。今後会うようなことがあればこっちで呼んでいただけると」
そう、これだけは言っておかなければいけない。僕は絶対に復帰することはないし、KuRaMという名前とも今日でお別れだ。ほんの少しの間だったけど、また大好きなファッション業界に関わることが出来て楽しかった。
そのことを改めて噛み締める。僕はもうここに戻ってくる事はないのだと。
少しだけナイーブな気持ちになったところで、亜咲ちゃんがなぜ僕らのことを待っていたのか、だったよね。
「センパイ、ディナーに行かない?」
「ディナー?僕らは貧乏学生だからお金なんか持ってないけど…」
「ああ、心配しなくてもそんなにお高いお店じゃないわ。個室があるチェーン店を予約してあるの。ワタシのオゴリだし、ルナも一緒にどう?」
「真琴くん、行こう。あたしはお腹が空きました」
「…年下に奢られるのはなんとも言えないけど、月奈がそう言うなら。分かった、エミリーと久々のディナーと洒落込もうか」
「やったー!タクシーはもう呼んであるから早速行きましょ!」
まるで僕らが首を縦に振るのを分かっていたような手際の良さ…やるね。たぶん、僕が昔からエミリーの誘いを断らないのを覚えていてくれたんだろう。
さっき潮谷さんのことを手の掛かる姉と表現したけれど、エミリーは反対に可愛い妹のような存在だ。ついつい甘やかしてしまうけど、エミリーが頑張っている姿を見ていると誰だってそうなる。
そんな出来事を懐かしみながら僕らは待っていたタクシーに乗り込み、目的地に向けて出発する。助手席には三坂さん、後部座席には僕、エミリー、月奈という順番で座る。
車が動き出して早々に、若者ばかりの僕らのことが気になったのか運転手さんが口を開く。そういえば顔は見てなかったけど、多少ガタイは良いけど普通のおじさんって感じ…。
「やあ真琴くん、久しぶりだね。僕のことは覚えているかな?」
「えっ、小次郎さん!?どうしてあなたがここに…。ま、まさかエミリーちゃん…」
「サプラーイズ!今日のことを話したら、パパがどうしても会いたいって聞かなかったから連れて来ちゃった!」
「お久しぶりです小次郎さん…!僕もどうせ来るなら挨拶したいと思ってたところです。最近はお変わりないですか?」
「ハッハッ!もちろんこの通りピンピンしてるさ!有り難いことに、エミリーとママのサポートで忙しくさせてもらってるけどね!」
快活に笑う運転手さん改めエミリーの父親の亜咲 小次郎さん。潮谷さん同様とてもお世話になった人で、全く関係ない僕のマネージャーのような仕事を、エミリーの友人だという理由だけで引き受けてくれた。
都内に滞在している間は多忙を極めていた潮谷さんの代わりに面倒を見てくれたり、時間があれば東京観光に連れ出してくれたまさに“東京のお父さん”というやつだ。
まさか本当の父親より先に月奈に紹介することになるとは……って何を言っているんだ僕は。
「でも本当に会えるとは。……もう、会うことは無いかもしれませんけど」
「そんな寂しいことを言わないでくれよ。今はこっちに住んでいるんだろう?ならいつでも会えるさ。偶にはエミリーと遊んでやってくれ、忙しいエミリーにも息抜きが必要だろうからな」
「本当よ。パパといたら息苦しくてしょうがないもの」
「酷いっ!?パパのハートは繊細なんだぞ!」
僕らは再会を喜びながら、思い出話に華を咲かせるのだった。
現在2日に1話ペースで投稿していますが、次話の更新が1日か2日ほど遅くなると思います。
その際に纏めて2話投稿しようと考えていますので、気長にお待ちいただければと。




