70.撮影は恋の中で④
短めです
閲覧感謝です
お昼を食べ終われば午後の撮影が始まった。表紙は潮谷さんが納得いく写真が撮れたようなので、今度は個人撮影の方に移る。
………表紙だけだと思ってたんだけど。聞いて…いや聞いてないな。
どういう事だと詰め寄りたい気持ちもあるけど、仕事を放り出す訳にもいかないので一旦撮影に向かうことに。
「じゃあ行ってくるね。月奈はどうする?」
「どうするって何?普通に真琴くんの撮影見学させてもらうけど」
「そうかい?ほら、僕はいつでも見れるし亜咲ちゃんの撮影の方が見たいんじゃないかなって」
「いやいや、真琴くんのモデル姿はもう見れないだろうし目に焼き付けたいもん。それに真琴くんはあたしが居ないとダメダメみたいだし?」
「うぐっ。………まあ、確かにその通りだよ。月奈が来てくれなかったら本当に危なかったかも」
さっきの醜態を晒した件と合わせて謝罪と感謝を伝える。僕は純粋にかっこいいところを見せようとしただけなのに、こんな形で感謝することになるとは。でも余計に気合いが入った。
仕事である以上、一番に考えるべきは読者の人たちに喜んでもらえるかどうか。ファッションの魅力を伝え業界に貢献するのと、僕を人間的に成長させてくれた現場の人たちに恩返しをする為に今日は来たんだ。もう失敗は許されないな。
気持ちを入れ替えてスタジオに入ろうとすると、その前でタブレット端末を操作する潮谷さんが待ち構えていた。
「お熱いな二人とも。ちょっと聞きたいんだが真琴くん、これとこれ、どっちが良い?」
「お熱くないです。僕の好みだけでいうなら右ですけど、最近のトレンド的には左じゃないですか?」
「なら右にしよう。流行に乗るのは我々の役目ではない。我々がすべきは流行の波を作り出す事だからな。悪いけど着替え直してきてくれるかな」
「分かりました。月奈、ちょっと待っててくれるかい?」
「ゆっくりで良いよ。私も月奈ちゃんに聞きたいことがあるからね」
「これ以上黒歴史をバラすのはやめて下さい」
無駄だと分かっていても一応注意する真琴。しかし潮谷にそんな意図は無く、それよりも月奈に聞かなければならない事があった。
「さて…聞きたいことというのはね。月奈ちゃん、学校での彼はどうだい?」
「…必要以上に人と関わるのを避けています。たぶん、まだトラウマが消え去ってないから…」
「そうか………。君以外に友人は居るかな?」
「居ますよ。モデルのことを知っている友達も。彼が親友として隣に立っているので、あたしが真琴くんと出会った時よりもかなり明るくなったと思います」
「良かった…。朝言っただろう、責任を感じている…と。彼をスカウトしたのは偶然だった。次の題材にしようと資料集めに彼の故郷に赴いた時、私は運命を感じたのだ。彼とは出会うべくして出会った、モデルになる為に生まれてきたような少年だと」
そしてそれが、編集者人生で最悪の選択だった。
私の身勝手な行動は一人の少年の人生を壊し、自らの生きる道さえも捻じ曲げてしまった。人の感情を舐めていたのだ。こんな事になるなど、全く想像もしていなかった。
涙は既に枯れて久しいが、彼の前では涙を流す訳にはいかない。後悔と共に一生背負って行かねばならないのだ。
私の罪と…覚悟を。
「月奈ちゃん。もしも彼と共に歩みたいと願うなら、覚悟しておく事だ。彼の持つ魔性が惹きつけるのは、決して明るいものだけではない」
「潮谷さん…?」
「今号が発売すれば、また昔のようになってしまうかもしれない。だから彼のことを誰よりも近くで見ていてくれ。とても身勝手な頼みだと分かってはいるが、彼を支えられるのは恐らく君たちだけだ」
「そんな、頭を上げてくだ…」
「私に出来る事なら何でもする。たったこれしきで贖罪になるなどとは微塵も思ってはいないが、私を慕ってくれる彼を守らねばならないのだ。彼には、幸せになる義務がある……」
失望されても良い。慕われなくなっても良い。彼が幸せであるのなら、それが私の幸せだ。
だからこそ私の全てを賭けてでも果たさなければならない。この贖罪の先にあるのは変わらぬ笑顔だと信じて。




