69.撮影は恋の中で③
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再会を喜ぶのもほどほどに撮影は始まった。最初は二人での表紙撮影…なんだけど、僕も中々感覚が鈍っている。表情も上手く作れなければ、ファッション誌のメインはあくまでも服だというのに潮谷さんから「服に着られている」とまで言われる始末。
少し撮影したところで一旦休憩を入れることになってしまった。
「ごめん亜咲ちゃん……」
「大丈夫よセンパイ。ブランクがあるのはみーんな分かってるもの。ほら、カノジョも心配そうに見てるわよ?」
「情けないなぁ…。自分に気合いを入れる為にわざわざ見に来てもらったのに…。あと彼女じゃないからね?」
「ジョーダンよ。じゃ、ワタシ個撮行ってくるわね。戻ってくるまでにちゃーんと準備しておいてネ」
はぁ…本当に嫌になる。モデルの仕事を舐めていたとしか言いようがない。昔出来たんだから今でも出来るだろうと、全く勘違いをしてた。こんなはずじゃなかった、もっと出来るはずだ、そう言うのは簡単だけど。
そもそも、昔だって最初から上手く出来た訳じゃない。あの頃だってコーディネートを完全に活かせたことは数えるほどしかなかったのだから。
あの頃はどうしていたっけ。そうだ、自然体だ自然体。それを意識してれば…。
「真琴くんっ!」
「わ、びっくりした。ごめんね、とても見れたものじゃないよね…」
「ぜーんぜん?真琴くんってばいっつも完璧だし、失敗するとこ見るのも結構新鮮だなーって。でもプロの眼はやっぱ凄いんだねぇ。潮谷さんとか他の人の眼もそうだよ、仕事に入った瞬間に鋭くなって。良いものを作ろうとしてるのが伝わってくるんだもん」
だからね、と月奈は続ける。
「あたしが居るの、やっぱ場違いかな。真琴くんも集中できてないみたいだし、お邪魔になってる気しかしないんだよねぇ…」
「…ふぅー………よしっ。月奈、悪いのは全部僕だから何も気にせず見ててよ」
「え?いやそういう訳には…」
「いいから見てて。もう大丈夫、最高の現場を見せてあげるから」
……僕は、また昔みたいになるのが怖かったんだ。月奈とどれだけ仲が良くなっても、僕のことをモデルとしか見てくれなくなるんじゃないかって。
でもさっきの言葉を聞いて、そんなことにはならないと…いや。
信じたいんだ。僕を見つけて、正体を知っても普通に接してくれていた月奈のことを、僕は信じたい。
「よーし、再開するぞー。KuRaMくんは……大丈夫そうだね」
「すみません、ご迷惑をお掛けしました」
「やれんの?」
「亜咲ちゃん、どこでそんな言葉覚えたの……」
「にしし、センパイはワタシと表紙を飾るんだから、さっきみたいな弱気じゃだめよ?」
「任せて、最高の画にするって誓うよ」
それからの撮影は順調そのものだった。自分の中にあった不安が消えて、すっきりとした気持ちで撮影に臨めたからだ。私情を持ち込むなんて本当にどうかしてたな。
早朝から続いた撮影は気づけばお昼過ぎ。流石に皆さんもお腹が空いたようで一度お昼休憩を挟むことに。
楽屋に月奈の分のお弁当も用意してくれているとのことなので、メイク直しも兼ねて楽屋に戻る。するとなぜか楽屋では亜咲ちゃんがお弁当を頬張っていた。
「亜咲ちゃんがどうしてここに?今日はお父さんは一緒じゃないのかい?」
「センパイ………ワタシだって今年からハイスクールに通っているのよ?パパはお家でお留守番。マネージャーさんも新しい人を付けてもらったの」
「そうだったんだ…。色々お世話になったから会えるならご挨拶しようと思ってたんだけど」
「パパにはもったいないわよ。ほら、センパイもルナちゃん…で合ってるかしら?も一緒に食べましょ?」
「本物のエミリーちゃんとお話ししてる……!真琴くん、これ夢じゃないよね!?」
ほっぺたつねって!と現実かどうかを疑う月奈。軽くぷにぷにしてちゃんと現実だと理解してくれたようで、昔からファンだったとブンブン頭を下げていた。
ちなみに亜咲ちゃんの本名は亜咲・エミリア。月奈が言っていたエミリーちゃん、というのはファンの間での呼び名で、亜咲ちゃんからそう呼んでほしいと発信している。
それから僕は蚊帳の外。勝手に昔の撮影中の黒歴史を暴露され、亜咲ちゃんと意気投合した月奈は連絡先まで交換していた。僕でさえ持っていないのに。
「でねー、センパイがカッコつけると大体失敗するのよ!ナチュラルが一番カッコいいのにー」
「それ全然褒めてないでしょ!僕だって偶にはいい格好したいんだよ!」
「やめた方がいいわよ。センパイは何もしなくてもカッコいいんだから。あ、これとかバチバチメイクした時のツーショット!」
「すごい、真琴くんにしては微妙というか…」
「エミリー、もうやめて………」
真琴は、亜咲の呼び方が昔のように戻っているのに気付かないほど、黒歴史の暴露に動揺していたのだった。




