65.今は君が、みんながいるから
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「うん、そだよー。今度プール行くから水着買いに来たんだー」
「へぇ〜、山倉くんと二人で行くの?」
「ち、違うし!美波とてっちゃんもいるから!今日は予定が合わなかっただけでぇ…」
「で、お買い物デートですかぁ?熱々ですねぇお二人さん?」
「だから違うってばぁ!」
必死になって釈明している月奈を横目に、僕は僕で男子陣から羨ましいだの美波の水着姿がどうだのって詰められていた。最近は何も思わなかったけど、そういえば美波って物凄い人気があったんだった。
さすがに月奈が可哀想になってきたから僕も助け舟を出す。それですぐに引き下がってくれたのは、たぶん彼女も月奈を揶揄っていただけだからかな。月奈は若干涙目になっていたけれど。
別れる時も僕の後ろに隠れてまるで野良猫のように威嚇していた。後でそれとなく宥めておこう。
「はぁ、まさかこんなとこで会うとは…」
「仕方ないよ。この辺りで一番大きいショッピングモールなんでしょ?夏休みも始まったばかりだし、誰かが来ててもおかしくないよ」
「だよねぇ…。なーんか余計に神経使ったせいでお腹空いてきちゃった。お昼ごはん食べに行こー」
月奈の提案で僕たちはフードコートへ。もうじきお昼だから少しずつ人も増え始めていたので、先に席を取ってから各々食べたいものを買いに行く。
僕はこの暑さなのでさっぱりしたものを食べようとうどんを、月奈は女子らしいと言うべきかサラダボウルを選んでいた。
「それしか食べないのはやっぱり心配になるよ。その…あれだけ軽かったんだし」
「照れながら言わないでよ。あたしの方が恥ずかしくなってくるじゃん。あーもう、ただでさえ暑いのに〜…」
僕はお泊まりの時のことを思い出す。あの時は信じられないくらい軽くて驚いた。女性としても小柄な部類に入る月奈だからこそ余計に不安になってしまう。
一方の月奈は、ハンディファンを真っ赤になった顔に当てながらサラダを頬張っていた。今度、タンパク質多めの料理を振る舞ってあげよう。
二人の間に微妙な空気が流れる。なんとか話題を変えようと、月奈に夏休み中の予定を聞くことにした。
「る、月奈は夏休みの間にどこかに行く予定とかあるの?」
「い、いや?特にはないケド。ほら、お父さんも忙しいし、お姉ちゃんと一緒に遊びに行くのもちょっとね…。そういう真琴くんこそ予定あるの?なんかプール行く前にやらなきゃいけないことがあるって言ってたよね」
「いやぁ、実は潮谷さんに呼び出されちゃって。布団買ったのをバラされたくなければ撮影に来いってね」
誰にバラすのかは知らないけど。親は嫌だなぁ…たぶん親なんだろうなぁ…。僕が潮谷さんの嫌がることを熟知してると同時に、あの人も僕が嫌がることを熟知してるから。
僕が微妙そうな表情をしていると、反対に月奈は体を乗り出して目も輝かせていた。
「そ、それってまさか…2年ぶりに雑誌に載るってこと…?モデル復帰…?」
「そこまではしないけど、夏の増大号の表紙にするとは言ってたよ。普通に役不足だから断ったのに、もう企画書出したとかのたまってたし…」
「命懸けで買わせていただきます」
「そこまで…?なんなら撮影も見に来るかい?いくつか弱みは握ってるからそれを盾にすれば見学くらいならさせてもらえると思うよ」
「うわぁ…!行きたいけどぉ……でもそこまでしてもらう訳にはぁ……」
僕の提案に、月奈は色々な感情が渦巻いている様子。そういえば前に、ただのファンだから特別扱いしてもらう訳にはいかない、みたいなことも話したね。
でも僕はなんでこんな提案をしたんだろう。今までの僕なら見られるのが恥ずかしくて、むしろ来ないでとまで言ってたと思う。
理由は明白だ。月奈のことが好きだから。好きな人が見ているんだから、僕はきっと頑張れる。別にモデルの仕事が嫌いな訳じゃないんだ、どうしてもその後に起きることを考えると憂鬱になってしまうから引退しただけ。
今の僕にはみんなが居るから、そんなことを考える必要もなくなった。本当に僕は恵まれてる。
「僕が見に来てほしいんだよ。月奈が来るなら、僕はかっこいいところを見せなきゃいけなくなるからね」
「……そういうことなら…いやでもぉ…」
「…そうだよね。月奈が来てくれたら百人力だったんだけど。月奈にも予定があるだろうし、全然無理にとは…」
「もぅ…そんな言い方されちゃったら行くしかないじゃん。にひひ、そんなに見に来てほしかったんだぁ〜」
悪戯っぽく笑う彼女に、僕は言い返すことなくただ可愛いとしか思えなかった。




