62.編集長の厄介な頼み事
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もうすぐ待ちに待った夏休み。高校生にとってこれほど嬉しいことはないのに、その前にあまり嬉しくないものが控えているせいでいまいちテンションが上がらないんだよね。
言わなくても分かると思うけど。
「たすけて真琴くん………。期末テスト全然わかんないよ……」
「でも美波、中間テストの結果は良かったよね。だったら今回も大丈夫だと思うけど」
「無理です!真琴くんと月奈が教えてくれなかったらヤバかったと思います!」
「自信満々に言うことじゃねえな…。でも俺も結構やべえんだよな。なんせ現代文の範囲が広いだろ?それに数学も―――」
「赤点取ったら夏休み中に補習だっけ?哲也も心配することないと思うけど、分からないところがあったらHINEで言ってくれれば少しくらいなら教えられるはず。あんまり期待せずに自力で解けるようになってくれればベストなんだけど」
特に涙目で助けを求めてくるこの二人は随分と表情が落ち込んでいる。美波はともかく、哲也は極端に成績が悪いわけではないからそこまで心配しなくてもいいと思うんだけど。
でも哲也の言う通り、今回のテストは範囲がかなり広くて重要なところばかりだから、どの教科も疎かにすることが出来ない。僕ももしかしたら危ういかもしれないけど、だからといって二人を見捨てるわけにもいかない。
そこで今まで口を開かなかった月奈が一つの提案をする。
「じゃあみんなで勉強会すればいいんじゃない?図書室で集まって勉強してる人たちも結構いるみたいだし」
「そうだね。それなら二人に教えながら僕たちの勉強時間も確保できるし、僕は賛成かな」
「「ありがとうございます真琴様……」」
「おい、あたしは。あたしだって教える側だぞー」
土下座…というか平伏するような姿勢で感謝される。まだ教えてもないし赤点回避も確実になってないからちょっと困っちゃうな。月奈は若干拗ねていたけど、ちゃんと頼りにされてると思うよ。
ちなみにテストまではもう二週間を切っている。なので今日の放課後から早速集まることになったんだけど、最初は学校の図書室にしようとも話したけどすごく混み合っているらしいので却下。
どこにするかと悩んだ結果、やってきたのは学校から少し離れたところにあるファミレスだった。
「よーし、何食う?」
「てっちゃん、何しに来たの…。そんなんするなら教えないよ?」
「待て待て早まるな。夕方だしぼちぼち腹減ってんだよ。なんか食わねえと死んじまう」
「死にはしないでしょ。でもお腹減って集中できなくなりそうなのはあるかも。真琴くんと美波もなんか頼む?」
「私パフェ食べたーい!」
「それは後にしなさい。勉強頑張ったご褒美に食べたらもっと美味しくなるよ」
哲也はがっつり、僕たちは軽い料理にドリンクバーも追加で注文して、机の上に教科書とノートを広げる。基本的には各々の勉強をしながら、分からないところがあれば教え合うといった感じで進めていく。
問題の二人は、そんなに悪い状況にはなっていなかった。致命的ではないし、もう少し頑張れば確実に赤点は回避できそうな感じだった。自習はしていないような口ぶりだったけど、それでもこれだけ出来るならどうにでもなりそうだ。
ただ強いて懸念を挙げるなら、集中力が続かないことだろうか。これが今話題になっているドーパミン中毒というやつか…。
でもこれなら何度も勉強会を開く必要はないかな。二人がちゃんと自習してくれれば、の話だけど。
僕も上位を維持するために頑張らなきゃな。メロンソーダの入ったコップをテーブルに戻し、もう一度集中して勉強しようとした矢先、ポケットに入れていたスマホが着信を知らせていた。しまった、電源切るの忘れてたな。一応誰からの連絡なのか見てみると。
「………ごめん、ちょっと電話に出てくる。すぐ戻るから」
「おーう、ゆっくりでいいぞー」
「もしもし。お久しぶりです、潮谷さん」
電話の相手は僕のモデル時代の恩人である潮谷さん。最近は編集長に出世して忙しいと聞いていたけれど、そんな人が僕に何の用事だろうか。まさか、この間の布団を買った件か…?
『いやいや、本当に久しぶりだねえ。元気にしてたかい?』
「はい。最近は新しく友人もできたので楽しい毎日を送っていますよ」
『それは何よりだ。君はなかなか引っ込み思案な部分があったから、少しばかり心配していたんだよ。さて、世間話はこれくらいにして、今日は頼み事があって連絡したんだ』
「断ってもいいですか?」
既に嫌な予感しかしない。潮谷さんの頼み事は本当に碌なことがないから。
『引き受けてくれるなら口座の使い道を聞くのをやめようと思っていたが』
「とりあえず話は聞きましょう」
『物分かりが良くて助かるよ。今回頼みたいのは、『RiiPs』の夏の増大号の表紙を飾ってもらいたくてね』
「………やっぱり断ってもいいですか?さすがに僕には荷が重すぎますよ」
『RiiPs』。かつて僕が専属モデルを務めていたファッション誌で、今なお若者の間で絶大な人気を誇っている、彼女の働く編集社の主力雑誌だ。僕が引退してからも毎号家に送られてくるので、かなり参考にさせてもらってたりする。
そんなリップスの表紙をもう引退した人間が?無理だ、僕より人気のあるモデルなんて山のようにいるし、正直気が引ける。
『そういう訳にもいかないんだよ。もう企画書出しちゃったし☆』
「良い歳こいて何が、出しちゃったし☆ですか。一年以上経っても全く変わりませんね、悪い意味で」
『年齢は関係ないだろう。私だって心はいつまでも乙女なのさ。じゃあ、場所と日程はまた連絡するから。しかし、初夜はベッドではなく床でとは、君も中々ロマンチ』
「よし、次会ったら絶対殴ろう」
いつも下らないことばかり言ってるし、絶対に成績維持して気持ちよく殴れるようにしないとね。
潮谷 香織:業界屈指の美貌を持つカリスマ編集長。ただし中身はおっさんである。




