60.君に夢中になって
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約束した食事会の日。会場である山倉家には月奈と美波が一足先にやって来ていた。月奈はともかくなぜ美波?と思うかもしれないが、単に暇だっただけである。
そして暇なりにさりげなくアシストしようと思っていたのだが、仲睦まじく料理をする二人の様子を見てそんな気は起きなくなっていた。
「真琴くん、これはどうするの?」
「これは皮を剥いて軽く水洗いしてから切るんだ。それが終わったら次は―――」
「なるほど……」
「なんでこれで付き合ってないのかなぁ………」
振られた私としてはすっごいもやもやするんだけどなあ。本人たちにはそれぞれのペースがあるっていうのは分かるんだけど、ちょっと遅すぎないかな?
二人並んでキッチンに立ってるなんて、恋人どころか夫婦じゃん。はぁ〜あ、なーんかアホらしくなってきちゃった。この場にいても…いた……痛いの痛いの飛んでけ?…絶対違う。えーっと、いたたまれないだ!だから一回帰ろっかなー。
「美波ー、凛ちゃんたちいつ来るってー?」
「あ、そろそろ駅着くって。私ここにいても暇だから迎えに行ってくるねー」
「ありがとー」
「………ここ、僕の家なんだけど。あまりにも馴染みすぎてないかな?」
美波が一旦去った後、そんなことを口にする真琴。実際、月奈はあり得ないほどリラックスしており、それは自らの家が落ち着かない環境であることも無関係ではない。
親子関係の修復以降、月奈となんとか距離を縮めようとする父親。しかしそのどれもが空回りし、いつしか家の中には以前とはまた違った異様な空気が流れていた。
一方の山倉家は真琴の一人暮らしであり、年末年始にそこそこの期間泊まったことのある月奈からすれば、こちらの方がよほど落ち着く環境だと言える。
「そりゃあ勝手知ったる山倉家ですから。はぁ〜、またお泊まりしたいな〜」
「だめです。そんなこと言うなら本当にケダモノになっちゃうよ?」
「……やっぱ真琴くん、あたしに対して軽い言葉使うようになったよね」
「君たちの悪ふざけが過ぎるからだよ。僕の理想の日々をぶち壊したのは一体誰だったかな?」
「や、それあたしじゃないし。普通に美波だし。あたしはただそっちの方が良いと思ったから乗っかっただけだから。真琴くんだって今の高校生活も悪くないと思ってるんでしょ?」
それは…まあそうなんだけどさ。ぶっちゃけ結構楽しんでるんだけど、ここで正直に答えるのはなんか癪だな。
でも実際、こうしてみんなと気軽に話したり遊んだりできるようになったのは二人のお陰だ。去年までの僕じゃありえないくらい充実した日々を過ごせているからね。それくらいは認めてもいいかもしれない。
まさか好きな人まで出来るとは思わなかったけど。しかも隣で一緒に料理してるし。これじゃまるで―――。
「どったの真琴くん。急に黙っちゃって。さては心の中であたしたちにめちゃんこ感謝してた?」
「それは当然。というかいつも感謝してるよ。哲也を犠牲にしてくれるから笑いが生まれやすいし」
「ヒドい言い草だなぁ。そこに火種が転がってるんだから燃やすのはあたしの仕事じゃん?」
「月奈こそ相当酷いこと言ってる自覚ある?」
やっぱ真琴くん、言葉に堅さが無くなってる。前まではどこかぎこちない感じで、たまーに柔らかくなるところにキュンと来てたんだけど、無くなったら無くなったで距離が近い感じがしてこれまたドキドキさせられっぱなし。
あたし、ほんとに真琴くんに夢中なんだなぁ〜って思う。こうやって隣で料理するのもなんかグッとくるし、エプロンしてる真琴くんはもっと良い。
てかこの状況じゃまるで―――。
((夫婦みたいだなぁ…))
お互いそう感じてしまったのだが、当然口にすることはできないので沈黙の時間に入ってしまう。またもや犠牲にされた哲也くんはご愛嬌。
黙々と作業を続ける二人だったが、玄関から来訪者を告げる音が。誰が来たかは確認せずとも良いだろう。
「たっだいまー!みんな連れて来たよー!」
「ありがとう美波。狭いしなにも無い家だけど上がっていってよ」
「全然狭くはないが本当になんも無いからな…。つーか別に俺だけで十分だったんだけどな。俺としては美波が迷わずに駅まで来れただけすごいと思うぜ」
「あったりまえじゃん!真琴くんと同じマンションに住んでるんだし、いっつも通ってる道だから迷うわけないもん。哲也くん、ちょっと私のこと馬鹿にしすぎじゃない?」
「え、みーちゃんって琴くんと同じマンションだったの?初耳なんですけど」
「あれ、話してなかったんだ。あ、詳しい話は後でにしようか。もうすぐ完成するから」
月奈の「真琴くーん、焼けたよー」という声を聞いて即座にキッチンに戻っていく真琴。腹ぺこ高校生たちによる食事会の開幕だ。




