59.ゆるっと体育祭④
閲覧感謝です
天幕に戻って来た真琴たち。待ち受けていた友人からは当然のように茶化される。そして不憫な哲也は当然のように月奈から鳩尾に重い一撃を見舞われ、その場でうずくまるのだった。
「なんで俺だけ………」
「世の中のことは大体哲也が悪いからだと思うよ」
「納得いかねぇ………ぐふっ」
「哲也…君のことは忘れない………」
力尽きた哲也はさておき、酷い目にあった。およそまともな体育祭じゃないってことはよく分かったよ。少しでも真面目にやろうとした僕が馬鹿だった。
このあとはお昼休憩を挟んで午後の部…と言っても2、3種目ぐらいしかないみたいだけど。一番暑い時間帯を避けるためらしい。僕が出るのは最後の全員参加の種目だけだから、それまでかなり暇になる。
持ってきたおにぎりを食べながらボーッとしていると、隣にいた高槻さんから話を振られる。
「ねね、そのおにぎりって自分で作ったの?」
「そうだよ。まあ簡単なやつだけどね。塩むすびと鮭、あと夕飯用に作ったしぐれ煮かな」
「シグレニ…ウマソウ……」
「あげないよ?」
物欲しそうな目線でこちらを見つめてくる高槻さん。まあ大して動いてないからお腹もそこまで減ってない。だからあげてもいいんだけど…。
「じゅるり……」
「え?美波も…?」
「だって美味しそうなんだもん……」
「分かった分かった。でも一個しか残ってないから2人で分けてね」
「え、いいの?」
いやそっちが欲しいって言ったんでしょ。僕は少食だから2個だけでも十分だしね。
「はい、たぶんしぐれ煮だと思うけど」
「「やったーっ!!」」
「そんなに…?」
「あはは、ああ見えて凛ちゃん、昔から美味しいものに目がないから」
「こら仁!人を食いしん坊みたいに言わないで!」
高槻さんの抗議を笑顔でさらりと流す島乃井くん。そのやり取りからはお互いが気心知れた関係なのだと伝わってくる。僕もああいうの、ちょっと憧れるなぁ。あ、哲也は別にして。
しかし2人とも、本当に美味しそうに食べてくれる。これならあげて良かったって思えるよ。
「ごちそうさまでした!真琴くんって料理も上手なんだね!」
「将来はいい旦那さんになれそうだねぇ」
「!?ごほっごほっ…」
「わっ!大丈夫?」
「平気平気…。ちょっとむせただけだから」
高槻さんの言葉に反応してしまい、思わず飲んでいた水が気管に入ってしまった。一旦深呼吸をして、また会話の輪へ戻る。
「……なにニヤニヤしてるの高槻さん」
「だって…ねぇ?」
「凛ちゃーん、どうしてこっちを見るのかな?そりゃあ真琴くんはいい旦那さんになりそうだけどさ」
「ちょっ、月奈まで!?」
「じょーだんじょーだん。はぁ〜あ、あたしももっとお料理上手になりたいな〜」
ため息を吐きながら嘆く月奈。結構センスあると思ってるんだけどな。前に料理を教えた時、基礎は出来てるような感じだったし、割とテキパキ作業出来ていた。強いていうなら、包丁の扱いに慣れていなかったことくらいだけど、そんなものは数をこなしていくしかない。
それでも困っているようならまた教えてあげよう。…二人きりで会う口実も作れるしね。
「あれ?でも今日のお弁当、自分で作ったって言ってなかったっけ?」
「ほとんどレンチンですぅー。そんな複雑なことはまだ出来ませんよーだ」
「僕で良ければ教えようか?簡単なレシピからになるだろうけど」
「マジ!?お願いします真琴先生!」
「先生はやめてほしいな…なんだかむず痒いや」
そう言いつつも満更では無さそうな様子の真琴。二人だけの空間を作り出している姿を見た友人たちは、二マ〜ッと悪い笑みを浮かべている。哲也は食事に集中していて全く聞いていなかったが。
そして美波と凛緒はそれ以上に興味を隠し切れなかった。
「それ、私たちが味見してもいい?月奈なら絶対美味しく作ると思うし!」
「みーちゃんそれ名案。まー、琴くんとるーちゃんがOKしてくれるかだけど…」
「僕は全然大丈夫だよ」
「あたしも。下手でも文句言わないでね」
やはり彼女たちは仁人の言った通り、食い意地を張っているだけなのかもしれない。二人きりの状況を作り出すところまでは良かったのだが、まさか興味と食欲に負けるとは本人たちも思っていなかっただろう。
一方の月奈は幸せそうな表情をしていた。再び真琴に料理を教えてもらえることに加え、真琴にいつか料理を振る舞うのが密かな夢になっていたからだ。真琴に養ってもらうのも良いが、やはり自分は真琴を支える側でいたい。立派な志ではあるが、少なからず漫画の読み過ぎも影響しているのはご愛嬌。
色々あったりなかったりしたが、これにて体育祭は終幕。新たな約束は、またひとつ思い出が増える予感を感じさせるのだった。




