58.ゆるっと体育祭③
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美波の目が怖い。いつからあたしの親友はこんな圧を出すようになったの?絶対逃がさないっていう固い意志を感じるんだけど。
「はいはい、みーちゃんも落ち着いてー。まあもどかしい気持ちは分かるけどねー」
「何言ってるの?凛ちゃんもだからね?」
「………ナンノコトカナァ、アハハ」
「「有罪」」
「あーもー分かったよ!でも私たちはちょっと話が違うから先にるーちゃんから!」
と言いつつ本当は逃げ切りを計っているこの少女、中々に強かである。
「えぇー…まあ良いけどさ。別に作戦会議なんかしなくたって…」
「じゃあ月奈は今のままの関係でいいんだ。もっとグイグイ攻めてかないと、誰かにすぐ取られちゃうよ?それでもいいなら…」
「良いわけないっ!でもあたしは美波みたいに可愛くないし、その…貧相な身体だし。あたしより魅力的な子なんかいっぱいいるんだって分かってるの。…馬鹿みたいだよね。こんなの無謀な戦いでしかないのに」
「無謀だっていいじゃん!それに月奈は可愛い!私たちが保証する!だよね凛ちゃん!」
「お、おう。もち。確かにぺったんこではあるけど、琴くんはそんなの気にする人じゃないでしょ?」
一言余計…だけど正しい。真琴くんは外見で人を判断するようなことは絶対しない。ちゃんと中身を見てくれる人だ。
ならあたしにもまだ勝ち目はある…のかな。
まだ不安だけど、あたしより全然可愛いこの二人が言うなら信じてみよう。まあ、お泊まりの時に全然意識してくれなかったのは大きすぎるマイナス材料だけど。
「がんばれ、月奈」
「うん、頑張る。それじゃあ次は」
「凛ちゃーん、覚悟してね?」
「ヒエッ」
この女子会で最後に一番げっそりとしていたのは、実は美波だったのは本人の名誉のために黙っておこうと思う。
あ、真琴くん出てきた。確か借り物競争に出るって言ってたっけ。
「るーちゃん、なにボサッとしてんの」
「へ?何が?」
「真琴くんの借り物競争でしょ?準備しなきゃじゃん」
だから分からんって。もう少し詳しく教えてくれると月奈ちゃんとしては助か――
「月奈、ちょっと来てくれる?」
「…………そういうことかー…」
遡ること5分前。競技開始前のアナウンスが流れた際の出来事。
『続いては、全学年混合!なんでもアリの借り物競争ですっ!』
「なんでもアリ……?哲也…はこの競技出ないんだっけ。誰か知り合いは…」
「俺がいるじゃねえか!忘れるなんて酷いぜ〜?」
「栗田くんか。今年はクラスが違うから気づかなかったよ」
「普通に傷つくぞ!?いや、哲也が全部悪い。そういうことにしておくか。んでなんでもアリってのはなぁ―――」
『物でも人でも概念でも!審判がお題に沿っていると認めれば、何を借りて来ても問題ありませんっ!そしてお題と一緒にもう一つのミッションに挑戦してもらいます!』
なんでもが過ぎるでしょ。例えば、お題が『パン』ならフライパンを持って来てもセーフになる可能性があるってことだよね。
つまりこれは、借り物競争の皮を被った…。
「大喜利大会だっ!!」
「なんか思ってたのと違うなぁ………」
「そりゃそうだ。つーかさっきからこんなんばっかだぞ?間違えたら泥まみれになるクイズとか」
「ドッキリ番組かな?」
そういえばさっき入り口で泥まみれになった生徒とすれ違ったな。何があったのかと思ったけど、まさか僕もああならないよね?
いざ始まってみると、そのお題がこれまたとんでもないものばかりで。『バット』や『ゴール』など、ギリギリありそうでなかったりするものや、『山田』というあまりにも酷すぎるお題も混じっていたりして会場は爆笑の渦に包まれた。
もちろんお約束も忘れていない。『気になる人』とか『好きな人』とか、よくある恋愛系のお題もちらほら見受けられた。もう一つの方で『手を繋ぐ』なんてお題を引いた日には黄色い歓声に包まれていた。スプーンと手を繋いでいたのはさすがに笑いをこらえきれなかった。
本人が拒否すればお題は公表されないけど、あの辺は引きたくないなぁ。
そしていよいよ僕の番が回ってくる。スタートの合図と共にお題が書かれた紙の置かれた机へ向かう。走っている人数と同数の4枚の紙から1枚を手に取り中身を開く。
そこに書いてあったのは、『一緒にいて楽しい人』というお題。誰にするかを頭で整理するよりも速く、僕の口はその名を紡いでいた。
「月奈、ちょっと来てくれる?」
「…………そういうことかー…」
「どうかしたの?」
「なんでもなーい。お題は何だったの?」
「無事にゴールできたら教えるよ。二人でクリアしなきゃいけないもう一つのお題もあるしね」
せっかくなのでお題は月奈に選んでもらう。簡単なのだといいなぁ。
お題を手に取った月奈がその中身を見ると、途端に顔が真っ赤になる。何を引いたのだろうと覗き見るとその理由がよく分かった。
「ごめん……。まさか『お姫様抱っこ』を引くなんて…」
「このくらいなら楽勝だよ。少し失礼しますね、お姫様」
「思い切りが良すぎないかなぁ!?うわわぁっ!?」
「あの時も思ったけど、月奈ってやっぱり軽すぎるよね。どうしても心配になっちゃうな」
「だいじょーぶ。月奈ちゃんはすこぶる健康だから。てか早くゴールして!めちゃくちゃ恥ずかしいんだから!」
確かにさっきから僕らに視線が集まっているのを感じる。決してこの状況を役得だと思って動かなかった訳じゃない。
恥ずかしさのあまり、真琴の腕の中で丸くなった月奈。顔を隠しているのは恥ずかしいからではなく、実際には頬の緩みが抑えられないからである。むしろ役得だと思っているのは月奈の方だった。
そのままゴールテープを切った二人は、何故か月奈を抱えさせられたままお題の発表に移る。
『それでは、気になるお題は何だったのでしょうか!?』
「『一緒にいて楽しい人』と、『お姫様抱っこ』でした」
『お二人の関係は、本当にそれだけなのでしょうか!?』
「…それだけですよ。一緒にいて楽しい、大切な友達です」
『もう少し問い詰めたいところですが、次が詰まっているのでこの辺りにしておきましょう!お二人とも、お疲れ様でした!』
このままの状態はまずいので、ひとまず月奈を抱っこから解放して天幕に戻る。その間にはどこか気恥ずかしいような空気が流れ、お互いに口を開くことは出来なかった。




