55.ノリノリ親睦会
閲覧感謝です
新学年と言えど、昨年度に培った関係が消えるわけではない。真琴に興味を示す者は多々居るが、周りにいる人物も所謂一軍と呼ばれる面々。おかしな話だが、萎縮してしまうのも無理はない。
ならその一軍である彼らに誘われたら?答えは簡単、行かない理由がない、である。それでも一部微妙な反応を見せる者もいるが、哲也や月奈は無理強いせず、真琴や仁人はむしろそちら側の人間なので気持ちはよく理解していた。
そんな訳で現在、カラオケにて親睦会が行われていた。
「お前らー!楽しんでるかーっ!」
「次は私が歌っちゃうよーっ!」
「テンションたっか…。真琴くんは歌わないの?」
「実はあんまり得意じゃないんだよね。音痴まではいかないけど、上手いかと聞かれたら絶対ノーって答えるかな」
「なんか意外かも。真琴くんってなんでもできちゃうイメージあるし」
全然そんなことないんだけどなぁ。実は謎解きとかパズルは苦手だし、地図を読むのもあんまり。というか色々考えながらっていうのが全体的に苦手かも。
料理もすぐ覚えたわけじゃないし、勉強にもかなり時間を割いてる。だから最初から何でもできた、みたいな感じではないんだよね。
周りがわいわいと騒いでいる中、僕と話していた月奈も席を立ってマイクを取り楽しそうに歌い出す。それを見てか、今度は島乃井くんが僕の隣にやってくる。
「山倉くん、歌わないの?」
「月奈にも同じこと言われたよ。僕はあんまり歌が得意じゃなくて。島乃井くんは?」
「僕もそんなにかな。凛緒ちゃんはすごく上手いんだけど」
「確かに高槻さん、声が通ってるもんね。どうやったらあんな綺麗な歌声が出せるんだろう」
僕たちの視線の先では、月奈が二曲目を歌っていた。高槻さんとデュエットしているあたり、やめようとしたけど巻き込まれたんだろうな。
ちなみにカラオケに来るのは久しぶりでもない。この学校に入学して哲也と出会ったばかりの頃、格ゲーの二次会のようなノリで通ってたことがある。まあ僕も哲也も大して上手くないから、ほとんど雑談が中心だったけど。
月奈と高槻さんが歌い終わると、今度は僕の番みたいだ。まあここまで来て歌わないっていうのもね。僕の選曲は流行りのアイドルソング。親睦会をやるって聞いてから密かに練習していた、『これ歌っときゃ間違いない』的な曲だ。
なんだか途中から気分が良くなってきてノリノリで歌い終えると、周りからはなぜか拍手の嵐。いや、ノってただけでそんなに上手くなかったでしょ。
「山倉くん、僕を裏切ったのかい?」
「真琴くん、あたしより上手いじゃん。やっぱ自己申告は信用できないねぇ」
「えぇ……?」
「今まで言わなかったが真琴、お前結構歌上手いぞ」
「知ってたなら教えてよ!?なんで今まで黙ってたのさ!?」
そんな真琴の反応とは裏腹に、周囲は笑いの渦に包まれる。何より、モニターに表示された高得点がその事実を雄弁に物語っていた。
哲也はポンポンと真琴の肩を叩く。真琴はお返しと言わんばかりに哲也にアイアンクローをかまし、それでもまた一笑い生まれた。
それからは真琴も積極的に歌い、遠慮気味だった仁人も真琴に誘われて少ないながらも歌っていた。凛緒とのデュエットの時だけ少し楽しそうだったのは皆が気付いていたが、本人たちは知る由もない。
それはともかく、カラオケを想像以上に満喫した真琴。月奈や哲也も意外に思っていたが、内情を知る二人は楽しんでくれて良かった、と心から安堵していた。
「真琴があんなに楽しそうに歌うなんてなぁ」
「いつまで頭さすってんの?」
「だって真琴の力強えんだもん。あいつ、格闘技やってたから力加減は得意なはずなんだが」
「じゃあてっちゃんには手加減する必要がなかったってことじゃない?」
「全く嬉しくねえな、それ…」
と言いつつも、そういう関係でありたいとは思っている哲也。でなければ、恨み節より先に安堵の感情が出てくることはない。こういうところが真琴との信頼関係を築いているのだろう。
月奈もそんな関係が羨ましいとは思うが、同時にアイアンクローは哲也だけにしてほしい、とも思っていた。
「どうしたの二人とも?」
「「何でもねえよ(なーい)」」
「はーい琴くん、次の曲いくよー」
「ちょっと休ま…」
「諦めて山倉くん。ああなった凛緒ちゃんは自分が疲れるまでやめないから」
「それ実質無限じゃない?」
そういえばずっと歌ってるな…。気付けば凛緒と真琴のコンサート会場と化したカラオケの一室で、月奈と哲也は顔を見合わせてそう笑うのだった。




